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1章ー記憶の旋律ー
学園へ
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時々、夢を見る。
どこか懐かしくて、胸がぎゅっとなるような夢。
聞こえる。
重なり合う、心地よい音。
優しく包みこむように。
時には、心を打つように力強く。
音が、世界を満たしていた。
まぶしい光。
私たちを見つめる、たくさんの瞳。
そして――鳴り止まない歓声。
隣には、いつも「あなた」がいる。
名前も、顔も思い出せないのに。
でも、わかるの。
あなたが隣にいてくれると、私は……心から楽しいと思えるの。
「……ここは? 眩しい……」
大きな馬車の揺れで、目が覚めた。
「いつの間にか寝てしまっていたのね」
「お嬢様、もうすぐ着きますよ。大丈夫ですか?」
目を開けると、心配そうな顔のアリサと目が合った。
「どうかしたの?」
「こちら、ハンカチです。これでお拭きになってください」
「え?」
顔に触れると、目元に温かい雫が伝っていた。
最近、目が覚めると涙が出ていることが多い。
それは決まって、同じ夢を見た時。
どんな夢だったかははっきりしない。けれど、どこか懐かしい気がする。
手に、まだ感触が残っている――忘れてはいけない何かの。
「お疲れなのですね。すぐ部屋に行きましょう」
──────────
案内されたのは、バルコニー付きの広々とした部屋だった。
「広いわ。十分に休めそうな部屋ね」
「お気に召したようで良かったです。それでは、私も荷解きがあるので、これで失礼いたします。何かあればお呼びください」
「ありがとう。アリサも休んでね」
ドアが閉まると同時に、思いきりベッドに飛び込んだ。
夕食まで、あと三時間ほどある。
(暇だ……)
さっきまで寝ていたから、眠気はすっかり消えてしまっていた。
「何しようかな……探検とか?」
そんなことを考えていると、ドアを叩く音が聞こえた。
「到着されたと聞いたので、来ちゃいました。入ってもよろしいですか?」
ドアを開けると、淡い水色の髪の少女が立っていた。
「ミーシャ!久しぶりね。会えて嬉しいわ」
「私もです!」
ミーシャ・シャトルーズ伯爵令嬢。
小さい頃から仲の良い友人のひとりだ。
「今日も相変わらず可愛いわね」
「そ、そんなことないです!」
この、少し照れた顔がまた可愛い。
ミーシャの使用人にお茶を淹れてもらい、お話することになった。
「にしても疲れたわ。もっと早く快適な移動方法はないのかしらね」
「馬車は早いですが、体が痛くなりますものね」
「車とかがあれば楽なのにね」
「くるま?って何ですか?」
ミーシャが不思議そうに首をかしげる。
車を知らないなんて珍しいと思いながら、口を開いたが、言葉に詰まる。
「それは…………何だったかしら、“くるま”って」
自分の口から出た言葉なのに、意味がわからない。
思い出せない。頭にモヤがかかったような、変な気分だった。
「昔、どこかで見たような……」
「きっとお疲れなのですね。以前、あまり眠れていないとおっしゃっていましたが、その後はどうですか?」
薬草に詳しいミーシャには、以前から眠れるようになる薬を調合してもらっていた。
その効果はすさまじく、最近はよく眠れるようになった。
「とてもよく眠れているわ。でも――」
「同じ夢を見ていらっしゃるのですね」
眠れるようになった分、夢を見ることも増えた。
「そうなのよ。けれど、内容はほとんど思い出せないの。だけど……懐かしいって感覚だけが、いつも残ってるのよね。だからお医者様にも『分かりませんね』って言われてしまって」
「困ったわ」と肩を落とすと、ミーシャは勢いよく立ち上がり、胸をドンと叩いた。
「なら私が、夢を操れるような薬を調合してみせます! 待っていてください!!」
そう宣言すると、ミーシャは颯爽と自室に戻っていった。
……あとで使用人に「無茶しないよう見張っておいて」と伝えなければ。
私のためを思ってくれているのは嬉しいけれど、ミーシャは昔から、集中すると周りが見えなくなる癖があるから、少し心配。
それに――あと二時間ほど、時間が余ってしまった。
どうしようかと悩んでいると、またドアを叩く音が聞こえた。
どこか懐かしくて、胸がぎゅっとなるような夢。
聞こえる。
重なり合う、心地よい音。
優しく包みこむように。
時には、心を打つように力強く。
音が、世界を満たしていた。
まぶしい光。
私たちを見つめる、たくさんの瞳。
そして――鳴り止まない歓声。
隣には、いつも「あなた」がいる。
名前も、顔も思い出せないのに。
でも、わかるの。
あなたが隣にいてくれると、私は……心から楽しいと思えるの。
「……ここは? 眩しい……」
大きな馬車の揺れで、目が覚めた。
「いつの間にか寝てしまっていたのね」
「お嬢様、もうすぐ着きますよ。大丈夫ですか?」
目を開けると、心配そうな顔のアリサと目が合った。
「どうかしたの?」
「こちら、ハンカチです。これでお拭きになってください」
「え?」
顔に触れると、目元に温かい雫が伝っていた。
最近、目が覚めると涙が出ていることが多い。
それは決まって、同じ夢を見た時。
どんな夢だったかははっきりしない。けれど、どこか懐かしい気がする。
手に、まだ感触が残っている――忘れてはいけない何かの。
「お疲れなのですね。すぐ部屋に行きましょう」
──────────
案内されたのは、バルコニー付きの広々とした部屋だった。
「広いわ。十分に休めそうな部屋ね」
「お気に召したようで良かったです。それでは、私も荷解きがあるので、これで失礼いたします。何かあればお呼びください」
「ありがとう。アリサも休んでね」
ドアが閉まると同時に、思いきりベッドに飛び込んだ。
夕食まで、あと三時間ほどある。
(暇だ……)
さっきまで寝ていたから、眠気はすっかり消えてしまっていた。
「何しようかな……探検とか?」
そんなことを考えていると、ドアを叩く音が聞こえた。
「到着されたと聞いたので、来ちゃいました。入ってもよろしいですか?」
ドアを開けると、淡い水色の髪の少女が立っていた。
「ミーシャ!久しぶりね。会えて嬉しいわ」
「私もです!」
ミーシャ・シャトルーズ伯爵令嬢。
小さい頃から仲の良い友人のひとりだ。
「今日も相変わらず可愛いわね」
「そ、そんなことないです!」
この、少し照れた顔がまた可愛い。
ミーシャの使用人にお茶を淹れてもらい、お話することになった。
「にしても疲れたわ。もっと早く快適な移動方法はないのかしらね」
「馬車は早いですが、体が痛くなりますものね」
「車とかがあれば楽なのにね」
「くるま?って何ですか?」
ミーシャが不思議そうに首をかしげる。
車を知らないなんて珍しいと思いながら、口を開いたが、言葉に詰まる。
「それは…………何だったかしら、“くるま”って」
自分の口から出た言葉なのに、意味がわからない。
思い出せない。頭にモヤがかかったような、変な気分だった。
「昔、どこかで見たような……」
「きっとお疲れなのですね。以前、あまり眠れていないとおっしゃっていましたが、その後はどうですか?」
薬草に詳しいミーシャには、以前から眠れるようになる薬を調合してもらっていた。
その効果はすさまじく、最近はよく眠れるようになった。
「とてもよく眠れているわ。でも――」
「同じ夢を見ていらっしゃるのですね」
眠れるようになった分、夢を見ることも増えた。
「そうなのよ。けれど、内容はほとんど思い出せないの。だけど……懐かしいって感覚だけが、いつも残ってるのよね。だからお医者様にも『分かりませんね』って言われてしまって」
「困ったわ」と肩を落とすと、ミーシャは勢いよく立ち上がり、胸をドンと叩いた。
「なら私が、夢を操れるような薬を調合してみせます! 待っていてください!!」
そう宣言すると、ミーシャは颯爽と自室に戻っていった。
……あとで使用人に「無茶しないよう見張っておいて」と伝えなければ。
私のためを思ってくれているのは嬉しいけれど、ミーシャは昔から、集中すると周りが見えなくなる癖があるから、少し心配。
それに――あと二時間ほど、時間が余ってしまった。
どうしようかと悩んでいると、またドアを叩く音が聞こえた。
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