23 / 28
3章 真田家
89話~箱の中身~
しおりを挟む「これは、ひどい……」
箱の中を凝視しながら、小助は思わず唸り声をあげました。
「つまり、そういう事なのね。だから鶴松様は亡くなったんだわ」
道は、箱の蓋を両手で掴んだまま、呆然と固まっている小助にそう声をかけると、蓋を優しくその手から奪い取りました。
「しかし……誕生の祝いの品だというのに、箱の中を誰も改めなかったのだろうか」
「由緒ある品だから見たら罰があたるとか?概ね、そんな所じゃないかしら」
「それにしても、この箱の中に藁人形を入れて贈るとは、蒲生氏郷殿は恐ろしき方だな」
箱の中には、平将門討伐関連の由緒正しき刀の姿など何処にもなく、悪しき念を放ち続ける、五寸釘が打たれた藁人形があるのみでした。
それを暫く見つめながら、小助は自分の顎に手を当てて、苦虫を噛み潰したような顔をしました。
「兎に角、茶々様に世継ぎが生まれるのを良しとしない、そんな方々の仕業なのは間違いないわね」
道はそう言いながらそっと箱に蓋を乗せると、小助と同じく深く考え込みました。
「しかし、こんな事をして?果たして効果はあるのか?木に打ち付けてこその、丑の刻参りではないのか」
「それはもうした上で……じゃないかしら」
「した上で??更にこれを?まさか……」
「それでは足りないくらいの憎しみがそうさせた、そう考えた方が腑に落ちるもの」
「おいおい、そんな怖い事を申すな……冷や汗が出る」
小助は、ごくりと唾を飲み込みながら、窘める様に道の顔を見つめました。
「何だか、嫌になるわね。いくら理由があるにせよ、こんな事が出来る心が芽生えるなんて」
道は箱を布で再びくるみながら、顔を曇らせました。
「それで?これを一体どうする」
「えぇ……じじ様にどうしたらいいか聞いてきてもらえないかしら?どこの寺社が呪詛を解くのに長けているのか」
「あいわかった。では、じじ様に聞いて、俺がこの箱をその寺社へ持っていくとしよう」
持参して来た時とは打って変わって、小助は恐る恐る、そして慎重に、箱へと手を伸ばしました。
カタカタカタカタカタ………
「うわっっ!!箱が、箱が動いている」
小助はいきなり振動し始めた箱に驚いて、思わず後ろへ倒れ込んでしまいました。
道はその異様な光景にどうしていいかもわからず、ただ無言でそれを見つめ続けたのでした。
*
「それで?その箱はどうしたのだ」
九州から大坂城へと戻ってきた六郎の元へ、早速忍んでやってきた道は、事の成り行きを報告しました。
「じじ様が比叡山に持っていったみたい」
「比叡山に?」
「えぇ、座主に知り合いがいるからとか?また小助がどうなったかきっと教えてくれるはずよ」
「道は、あれから夢を見てはいない?」
「えぇ見ていないわ。しかし藁人形は不気味だった……呪いって本当にあるのね」
「まぁ呪う程の出来事がそこにあったのだろう。菅原道真公も平将門公も崇徳院も、書物を読む限りは、同情する事の方が多いからね」
「そんなものなのかしら。どちらにせよ、茶々様を苦しませる事は許せないけど」
静かに憤る道の姿を、六郎は可笑しそうに見つめながら、これからの豊臣の事を考えていました。
明らかに最近奇行が目立つ様になった秀吉に、不満を募らせている家臣達も多い。
朝鮮出兵も、きっとこのままでは失敗で終わるだろう。
現在、跡継ぎのいない豊臣。
ただ、道や大政所の読みでは近いうちに茶々姫が世継ぎを産むようだ。
今回の事で、障りをおそらく防ぐ術も見つけられよう。
その世継ぎの世をこれから作るのならば、信繁様の力量が多分に生かされるであろう。ただ……
「問題は徳川家康様か……」
六郎は、そう声に出した後、未来に起こるであろういくつかの道に意識を飛ばしました。
そして、ひとつ歯車が狂えば最後。この大坂城が悲惨な結末を迎える事は間違いありませんでした。
「ねぇどうしたの?さっきから独り言ばかり」
道が、不安と不満の気持ちが交錯する表情で問いかけると、突如2人の間を遮る様に、黒い影が降り立ちました。
「びっくりさせるなよ、小助」
「そうよそうよ!大声出しそうになったじゃない!」
ふたりの抗議ににやりと含み笑いをしながら、忍び装束の小助は、その場にどさりと座り込みました。
「いや、少し進展があったのだ。真っ先にお前達に報告したくてな」
小助は懐から地図を取り出すと、道と六郎の前に拡げました。
「これは?龍安寺?」
六郎が地図の隅に書かれた文字を読みながら、首をかしげました。
「あぁ、京にある臨済宗の寺の地図だ。お犬の方様が今はこの龍安寺の鏡容池の畔にある庵、そこで過ごされておる」
「お犬の方様の?お元気でいらっしゃるかしら」
道は懐かしい名前に目を輝かせると、お犬の方の面影を求める様に地図を眺め始めました。
「実は、先日の藁人形の件。じじ様が比叡山に持ち寄った所、この龍安寺の池に纏わる出来事が絡んでいる事がわかったのだ」
「一体、どういう事??」
全く話が読めない道と六郎の顔を交互に見ながら、小助は数回頷くと、力強くこう言いました。
「人身御供の話さ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜
かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。
徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。
堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる……
豊臣家に味方する者はいない。
西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。
しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。
全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜
岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。
けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。
髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。
戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!???
そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる