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85話~テレパシー~
しおりを挟む真琴は、除菌ルームの扉の前で大和の指示を待っていた。
遥達が到着し、扉の向こう側にいる。
懐かしく込み上げてくる想いがあったけれど、それ以上に不安な気持ちが、真琴を包みこんでいた。
希望はあえて、メインルームにいるように伝えた。今頃は、いつもの様にお絵描きをしている事だろう。
「大和はどうするつもりなのかしら……」
これからの展開を聞いても、大和は任せてと言うばかりで、何も教えてはくれなかった。
大和の事たがら、きっと綿密なプランを練り上げているに違いない。
それでもこれからの事を思うと、真琴は不安な気持ちでいっぱいだった。
「何、しょんぼりしてるのー?」
気づくと、真琴の目の前に妖精が羽ばたいていた。
「最近は姿を現さなかったのに、遥や李留君が来たからお出迎え?」
「だって、あなたたち2人怖いんだもんー近寄りにくいんだもんー」
確かに、2人でここに残ってからは、和やかな空気はなかったかもしれない。
今の今まで、妖精とコンタクトが取れる能力をコピーした事も、そしてそれがまだ残っていた事も、真琴自身が忘れていたぐらいだった。
""真琴、除菌が終わった。ルームに入って皆をメインルームに案内して""
すると、真琴の脳内に大和の声が響き渡った。
「妖精さん、時間だわ」
「ふーん、なあにそれ、テレパシーってやつ?」
妖精が真琴の様子に興味津々で、周りを飛び回り始めた。
最近、大和の試みで2人はテレパシーでやり取りをしていた。
機関でも簡単な事は既に行われていたけれど、もっと複雑な思考までも共有する事、これをシステム化する事を大和は目指しているようだった。
大和の歓迎会の日にした、テレパシー実験がやっと形になってきたらしい。
「そうテレパシー。だから私も容量がもっと必要なの。だからコピーした能力を消す事にするわ」
真琴はゆっくりと目を閉じた。
「ちょっと!!折角目の前に現れてあげたのにーー!もっとお話しましょうよー!」
妖精の文句の言葉がだんだんフェードアウトしていくのを身体で感じながら、真琴はゆっくりと目を開いた。
もうそこに、妖精の姿は見えなくなっていた。
「私の能力は借り物。だから妖精さん、本当の能力者と会話を楽しむといいわ」
見えずともそこに居るであろう場所に優しく語りかけながら、真琴はゆっくりとドアの開閉ボタンに手を触れた。
*
「真琴さん!!!!」
ドアが開き入ってきた真琴の姿を見つけるや否や、李留が真っ先に駆け寄って行った。
「おかえりなさい、李留君……みんなも……」
真琴はそう言うと、皆の顔を見渡した。
すると遥が感極まった様子でゆっくり真琴に近づくと、両手を拡げ優しく抱き締めた。
「やっと還ってこれたわ……月に……やっと……」
遥の涙声で語られる言葉を耳元で感じながら、真琴は優しく遥を抱き締め返した。
「真琴はかなり変わりましたね。本当に強くなってる……ベイは相変わらずですけど♪」
ワッカが、真琴の頭上を仰ぎみながらそう言うと
「え!?俺そんなに能力値進歩してないの?まいったなぁ……」
と、ベイが頭をかいて皆の笑いを誘うと
ルームは和やかな空気で包まれた。
""歓談中の所悪いんだけど、そろそろメインルームに来てくれる?""
突如、脳内に響き渡った大和の声に、遥、李留、ベイ、ワッカの4人は目を白黒とさせた。
「大和!?これはテレパシーなの?」
""そうだよ遥。全員聞こえてるみたいだな。さすが上層部の【2%】だ""
「こんなにクリアに届けられるものなんですね……機関で簡単な信号送信くらいはありましたが……それを遥かに越える……」
ワッカが驚嘆していると、ベイが何かを思い詰めたかの様に両手を握りしめると、いきなり力み始めた。
「ウーーーーーン!!!」
「ど、どうしたんですか、ベイさん!?」
李留が心配そうに駆け寄ると、ベイは力を緩め息を大きく吐き出すと、肩で大きく息し始めた。
「いや、テレパシー送り返してみたんだよ!大和に!」
そう朗らかに笑いながら語る姿に、皆が呆気に取られていると
""チーズ牛丼大盛りならメニューに追加済み""
と、皆の脳内に大和の言葉が響き渡った。
「ほら力んだらこっちの言葉も届いただろ?大和最高!メインルームに行く前にバーチャルレストランに行っていい?」
""駄目だ""
「ケチ!!一瞬じゃん!」
""駄目だ""
「大和!サイエンス時代からの俺達旧友だろ!??」
""忘れた""
「おい大和!ふざけんなって!」
""いいから、早く来い""
そんな2人のやり取りを見ながら、ワッカは
お手上げポーズをして微笑むとこう呟いた。
「力まなくても会話出来てる事は、後で指摘してあげましょう」
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