MOON~双子姉妹~

なにわしぶ子

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86話~対面~

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誰もいないメインルームの中央で、希望は
紙にひたすらに絵を描いていた。

暗闇の中に浮かぶ瑠璃色の球体。

メインルームの窓からのぞむ事の出来る
その地球を描き終えた希望は、

どことなく満足気な顔をした後、
窓の外の地球に向かって、話しかけ始めた。


「おかあさんがいる母星って地球さんみたいな
星なのかなぁ……そうだといいなぁ……」

すると、音と共に扉がいきなり開いたかと思うと
希望の知らない人々が、中へと入ってきた。

希望は、初めて実際会う父親と真琴以外の存在に
どうしていいかわからなくなり、ソファの後ろに咄嗟に隠れた。


「希望!母星のメンバーに紹介するわ!隠れてないで出てきなさい!」


真琴は希望に困った声でそう呼び掛けると、李留が右手でそれを制した。


「真琴さん、僕に任せて下さい」


李留は笑顔でそう言うと、ソファの後ろにいる希望に近づいていった。


「希望君とファーストコンタクトを取るのは、李留君が一番適任でしょう。ベイでは泣かせてしまうかもしれません」

「おいワッカ!俺だって子供の扱いくらい!」

「そうね、ベイは泣かせそう……」

「おい遥まで何だよ!真琴ふたりに何か言ってくれって!」

遥とワッカに言いたい放題に言われ、不服気味なベイは口を尖らせながら真琴に助けを求めた。


「ベイ見て……希望が笑ってるの………」


真琴の言葉に、遥、ワッカ、ベイの3人がソファの方に目をやると、既に打ち解けて李留に肩車された、満面の笑顔の希望の姿がそこにあった。


「じゃあ私達も早速希望に紹介してもらおうかしら、真琴お願いね」


遥は真琴の背中に右手で添えながらそう言うと、真琴はコクリと頷き皆と、希望と李留の傍へと近寄っていった。








ゴボゴボ………

人工子宮のカプセルが並ぶその部屋で、大和はメインルームに向かう前に、色々な作業に追われていた。

今頃既に皆が、希望に会っている頃だろう。

入れ替わりで母星に還る予定の自分と真琴の為に、きっと希望とコミュニケーションを、積極的に取ってくれているに違いない。

「さて………」

大和はそう言うと、ポケットの中からケースをふたつ取り出した。

ひとつは、殉職した彼女から託された髪の毛の束の入ったケース。

そして、もうひとつのケースには、沙羅の文字が刻まれていた。


大和はおもむろに、その沙羅のケースを開いた。
そこには、金色の髪の毛が数本納められていた。


大和はそれを暫く見つめた後、また大事そうに蓋を閉じるとポケットに仕舞いこんだ。


ゴボゴボ………


カプセルから奏でられる、その音のみが流れるその空間で、大和はひとつのカプセルの前に立った。

そのカプセルには少し前から、外からは中が見えない様にカバーをかけていた。

透明の壁を隔てた向こう側にいつもいる、真琴と希望の目に触れさせたくなかったからだった。


大和はそっと、そのカバーを掴むとゆっくりはずした。


中は、人工羊水で満たされ、そこにはもう大人にまで成長を遂げて眠り続ける、一糸纏わない女性の姿があった。


「沙羅…………あと少し、あと少しだから……」


大和はカプセルを暫く見上げると、またカバーを急いでかけ直すと、メインルームへと足早に向かった。

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