君を想い

絵麻

文字の大きさ
5 / 15
君を想い

四話

しおりを挟む
「縁談?」
 麻衣は目を瞬く。
「ああ、オレにじゃない。お前にだ」
「え」
「高原の本家から、美柳から連絡が来たと。二人とも呆れていた、麻衣を闇市に出して。何を今更と、父が憤慨していた」
「お義父様が」
 ほっと、胸を撫で下ろす。
「心配するな。家の両親は、お前が好きだ」
「はい」

 陽仁と麻衣が結ばれた日から二ヶ月が過ぎたが、麻衣はまだ行為に慣れずにいた。
「んぅ・・っ」
「キツいか?」
 痛くないことを、陽仁も知っているはずなのだが。なぜか、陽仁は訊ねた。

「大丈夫、で・・・あっ」
「なら、動いても平気だな」

 下から突き上げられ、自重で奥まで挿れられたモノに、麻衣は背中を震わせた。
「やだぁ、深・・・」
「一気に入ったな」
「言わないでぇ・・大っき」
 ずちゅ・・ずちゅと、水音が大きくなる。口からは甘い声が漏れ、麻衣は消えたくなる。

 いや・・硬くしないでぇ

 絶頂を迎えたばかりの身体を、陽仁は容赦なしに突き上げる。卒業するまでは、と陽仁は必ず避妊薬を飲ませた。

「やだって、言った」
「はは」
「何で、そんな」

 元気なんだろうと、麻衣は恨めしく見やる。
「元気なのよ」
 小さく呟く。
「鍛えてるからな」
「!」
「あと」
 背後から抱きしめ、肩口に額を当てる。
「愛、の力かな?」
「恥ずかしいコト、言わないでぇ!」
 麻衣の喚きのあと、二人は笑い出す。


「学徒動員」
 黒板に書かれた文字に、生徒達が押し黙る。
「残念ですが、皆さんが授業を受けられるのは、今日が最後となりました。戦争で働き手がなく、それぞれの班で分担していただきます」
 昭和十七年十月、ついに麻衣達にも学徒動員の要請がかかった。

「では、美柳さん、菱沼さん、宮野さん・・」
 麻衣は兵舎での掃除洗濯が仕事となった。
「生き神様のお世話です。大変な、名誉ですよ」
「はい」
 
 学校に通学する際、何人もの走る豫科練生を見かけた。零が一ヶ月前に比べ、飛ぶ機会が増えた。

「麻衣」
 食事中の会話が減り、陽仁は麻衣の額に触れる。
「大丈夫か。熱は、ないな?」
「大丈夫です」
「なら、どうした?今日は妙子さんはおとなしいのか?」
「え」
 菱沼妙子は麻衣の友人だ。
 美人で男勝りで、麻衣とは水と油の差がある。
「妙子さんの騒動は、今や食卓の娯楽だからな」
「ぷ」
「裁縫の米田と言い合うとか、なかなか強烈じゃないか」
 陽仁はよく笑う。
「何もしないとはらしくない」
「いえ、おとなしいとかじゃ」
「なら、なぜ話さないんだ?」
 麻衣は学徒動員の要請を話した。 
「授業も一時間で終わって、あとは人形を作ったり・・ハチマキを」
「なるほど、特攻兵に渡す人形か」

 あとは何をした?
 陽仁は麻衣の話を、飽きることなく聞いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

放課後の保健室

一条凛子
恋愛
はじめまして。 数ある中から、この保健室を見つけてくださって、本当にありがとうございます。 わたくし、ここの主(あるじ)であり、夜間専門のカウンセラー、**一条 凛子(いちじょう りんこ)**と申します。 ここは、昼間の喧騒から逃れてきた、頑張り屋の大人たちのためだけの秘密の聖域(サンクチュアリ)。 あなたが、ようやく重たい鎧を脱いで、ありのままの姿で羽を休めることができる——夜だけ開く、特別な保健室です。

処理中です...