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お仕事開始
3.
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野村さんのデスクの隣が、私に用意された席らしい。
隣り合って腰をかけると、野村さんの説明が始まった。
「まず、秘書課には私を含めて5人が在籍してます。これからは若月さんを入れて6人になるわね」
専属の秘書は、社長、副社長、専務、常務にそれぞれ一名ずつ付いていて、野村さんは全ての秘書の取りまとめや、専属秘書のいない役員のスケジュール管理と秘書を帯同する必要がある場合に秘書として同行したりするらしい。
私は野村さんの言った言葉を簡潔にメモを取る。
「若月さんのメインの仕事は電話対応や役員のスケジュールの把握、各秘書が持ってくる接待の領収書や交通費の伝票を入力したり、出張に関わる手配や精算をしたり、かな。そんなに難しいことは何も無いから安心して」
「はい」
「じゃ、とりあえず専属秘書の面々に挨拶しに行くから、ついて来てー」
「はいっ」
社長室は廊下の一番奥だ。
野村さんがノックをして「野村です」と名乗るとすぐに「どうぞ」と男性の声が聞こえ、私は野村さんに続いて入室した。
入ってすぐの所に大きなデスクがあり、そこが秘書席らしい。
秘書席の奥の扉の向こうにこの大きな会社の社長がいるのだと思うと、姿は見えないのに思わず緊張してしまう。
社長の専属秘書は30代後半の男性で、見るからに有能そうな風貌だった。
「工藤さん、こちら、今日から私たちのお手伝いをしてくれることになった、若月さん」
「社長秘書の工藤です。よろしく」
「若月結麻です。こちらこそ、よろしくお願いしますっ」
緊張してしまい、思わず大げさすぎるほどのお辞儀をしてしまった。
工藤さんは私の緊張感あふれる態度にも動じることなく、にこやかに微笑んでいる。
さすがは社長秘書。
「野村さん、良かったね。やっと残業から解放されるね」
「ほんとですよー。ノー残業デーとか言いながら、残業ナシで帰れた試し、無かったですもん」
「デートも出来ないし、ね?」
「それはもうホントに! いつもそれが理由で別れちゃうんですもん!」
工藤さんはとても仕事の出来そうな見た目ながら、話し方はとてもフランクで、優しそうだった。
“社長秘書”なんて聞くと、仕事にしか興味が無い――みたいなとっても失礼なイメージしか持ってなかったので、私はちょっとホッとした。
「じゃ、次、副社長の所、行ってきまーす」
「はい、行ってらっしゃい。じゃあ若月さん、またね」
「はい。お時間をいただき、ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ」
社長室を出て、副社長室へと向かう。
副社長室の作りも、社長室よりは少し小ぶりではあるもののほぼ同じで、秘書席の後ろに扉がある。
副社長秘書は西村さんと言って、30代前半の女性だ。
やっぱりとても有能そうで、……って、役員秘書なんだから当たり前か。
「野村さん、各フロア案内はもう行った?」
「まだです」
「じゃあ笹原くんのところが終わったら、行っておいで。副社長は夜の会合があるから出社はまだだし、私が代わりに電話番しておくから」
「ありがとうございます。さすが西村さんっ。戻ったら連絡します」
「了解。行ってらっしゃい」
手を振る西村さんに向かって深々とお辞儀をして、部屋を後にする。
隣り合って腰をかけると、野村さんの説明が始まった。
「まず、秘書課には私を含めて5人が在籍してます。これからは若月さんを入れて6人になるわね」
専属の秘書は、社長、副社長、専務、常務にそれぞれ一名ずつ付いていて、野村さんは全ての秘書の取りまとめや、専属秘書のいない役員のスケジュール管理と秘書を帯同する必要がある場合に秘書として同行したりするらしい。
私は野村さんの言った言葉を簡潔にメモを取る。
「若月さんのメインの仕事は電話対応や役員のスケジュールの把握、各秘書が持ってくる接待の領収書や交通費の伝票を入力したり、出張に関わる手配や精算をしたり、かな。そんなに難しいことは何も無いから安心して」
「はい」
「じゃ、とりあえず専属秘書の面々に挨拶しに行くから、ついて来てー」
「はいっ」
社長室は廊下の一番奥だ。
野村さんがノックをして「野村です」と名乗るとすぐに「どうぞ」と男性の声が聞こえ、私は野村さんに続いて入室した。
入ってすぐの所に大きなデスクがあり、そこが秘書席らしい。
秘書席の奥の扉の向こうにこの大きな会社の社長がいるのだと思うと、姿は見えないのに思わず緊張してしまう。
社長の専属秘書は30代後半の男性で、見るからに有能そうな風貌だった。
「工藤さん、こちら、今日から私たちのお手伝いをしてくれることになった、若月さん」
「社長秘書の工藤です。よろしく」
「若月結麻です。こちらこそ、よろしくお願いしますっ」
緊張してしまい、思わず大げさすぎるほどのお辞儀をしてしまった。
工藤さんは私の緊張感あふれる態度にも動じることなく、にこやかに微笑んでいる。
さすがは社長秘書。
「野村さん、良かったね。やっと残業から解放されるね」
「ほんとですよー。ノー残業デーとか言いながら、残業ナシで帰れた試し、無かったですもん」
「デートも出来ないし、ね?」
「それはもうホントに! いつもそれが理由で別れちゃうんですもん!」
工藤さんはとても仕事の出来そうな見た目ながら、話し方はとてもフランクで、優しそうだった。
“社長秘書”なんて聞くと、仕事にしか興味が無い――みたいなとっても失礼なイメージしか持ってなかったので、私はちょっとホッとした。
「じゃ、次、副社長の所、行ってきまーす」
「はい、行ってらっしゃい。じゃあ若月さん、またね」
「はい。お時間をいただき、ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ」
社長室を出て、副社長室へと向かう。
副社長室の作りも、社長室よりは少し小ぶりではあるもののほぼ同じで、秘書席の後ろに扉がある。
副社長秘書は西村さんと言って、30代前半の女性だ。
やっぱりとても有能そうで、……って、役員秘書なんだから当たり前か。
「野村さん、各フロア案内はもう行った?」
「まだです」
「じゃあ笹原くんのところが終わったら、行っておいで。副社長は夜の会合があるから出社はまだだし、私が代わりに電話番しておくから」
「ありがとうございます。さすが西村さんっ。戻ったら連絡します」
「了解。行ってらっしゃい」
手を振る西村さんに向かって深々とお辞儀をして、部屋を後にする。
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