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“そう言う女”
4.
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そんな……。
私、そんなつもりじゃ……、そんなつもりじゃない……。
私は、ただ、――ただ伊吹さんのことが好きなだけだ……。
でも、本当に……、本当に自分から誘ってないって、言い切れる……?
古田も、谷川部長も、どちらにもそんなつもりはなかったのに、『誘ったんだ』と言われて……。
「……結麻さん?」
伊吹さんの心配する声が落ちてくる。
でも、私は、伊吹さんに心配されるような、してもらえるような人間じゃない……。
「あ、の、……私、帰ります……」
「まだ動かない方が……」
「帰り、たい」
「……分かった。帰ろう」
書庫で気を失った私は病院に運ばれて、念のため身体に異常が無いかの検査をされたらしい。
幸いどこにも異常はなかった。
医療や科学の進歩をもってしても、私の中にある本当の異常な部分を見抜くことは出来ないなんて……。
「あの、ひとりで帰れるので、伊吹さんは会社に戻って下さい」
「結麻さんひとりで帰せるわけないでしょ?」
「でも、」
「怪我人はおとなしくしてて下さい」
「怪我なんか、」
「頭、打ったでしょ?」
「……」
――結局、伊吹さんはマンションまで送ってくれた。
エントランスで私を抱き上げようとするのをなんとか阻止したけれど、玄関のなかに入り私がパンプスを脱いだ次の瞬間にはもう横抱きに抱き上げられていて……、そのままベッドへと運ばれた。
「お仕事が忙しいのに……ごめんなさい」と謝ると、「大丈夫だよ」と言って私の頭を優しく撫でてくれる。
……あぁ、伊吹さんの、優しい手だ。
どうして、彼の手は怖くないんだろう?
最初から不思議だった。
普段なら、男性にパーソナルスペースに入られるだけで不安と恐怖に陥るのに、伊吹さんだけは大丈夫だった。
手を繋がれても、抱き締められても、一緒に眠っても……。
それは、私が彼のことを好きだから?
伊吹さんだけが、私の特別だから……?
どこかで携帯のバイブレーションが聞こえる。
きっと、伊吹さんの携帯だ。
「……ごめん。俺の携帯だ」
私が頷くと、伊吹さんが電話に出た。
「……はい。いや、今日は……、……分かりました、戻ります」
伊吹さんは“専務取締役”だ。
大事な仕事中に、私なんかに構っていていいわけがない。
「ごめん、結麻さん。一緒にいてあげたいけど……戻らなきゃいけなくなった」
「大丈夫です。私こそ、ごめんなさい、手を煩わせてしまって……」
「いや、それはいいんだ。それより……ひとりで大丈夫? 誰か寄越そうか?」
「いえ、大丈夫です」
「……やっぱり心配だから、母にでも、」
「あのっ、大丈夫です」
まさか、伊吹さんのお母様に迷惑をかけるわけにはいかない。
私は慌てて首を左右に振る。
「なるべく早く帰るから、寝ていてね? 何か必要なものがあれば、1階のコンシェルジュに頼んでいいから」
「……分かりました」
その後も、何度も私を心配する言葉を私に投げかけながら、秘書の笹原さんの迎えの車で会社へと戻って行った。
「……はぁ」
ベッドに座り、思わず安堵のため息を吐く。
――これから、どうしよう……?
このままで良いわけがない。
私がこのままここにいて良いとは、ますます思えなくなってしまった。
こんなこと、もう自分自身が耐えられない。
もう誰も、私の最低な部分に巻き込みたくはないから……。
私はそろりとベッドから降り、意を決してクローゼットの前に立った――。
私、そんなつもりじゃ……、そんなつもりじゃない……。
私は、ただ、――ただ伊吹さんのことが好きなだけだ……。
でも、本当に……、本当に自分から誘ってないって、言い切れる……?
古田も、谷川部長も、どちらにもそんなつもりはなかったのに、『誘ったんだ』と言われて……。
「……結麻さん?」
伊吹さんの心配する声が落ちてくる。
でも、私は、伊吹さんに心配されるような、してもらえるような人間じゃない……。
「あ、の、……私、帰ります……」
「まだ動かない方が……」
「帰り、たい」
「……分かった。帰ろう」
書庫で気を失った私は病院に運ばれて、念のため身体に異常が無いかの検査をされたらしい。
幸いどこにも異常はなかった。
医療や科学の進歩をもってしても、私の中にある本当の異常な部分を見抜くことは出来ないなんて……。
「あの、ひとりで帰れるので、伊吹さんは会社に戻って下さい」
「結麻さんひとりで帰せるわけないでしょ?」
「でも、」
「怪我人はおとなしくしてて下さい」
「怪我なんか、」
「頭、打ったでしょ?」
「……」
――結局、伊吹さんはマンションまで送ってくれた。
エントランスで私を抱き上げようとするのをなんとか阻止したけれど、玄関のなかに入り私がパンプスを脱いだ次の瞬間にはもう横抱きに抱き上げられていて……、そのままベッドへと運ばれた。
「お仕事が忙しいのに……ごめんなさい」と謝ると、「大丈夫だよ」と言って私の頭を優しく撫でてくれる。
……あぁ、伊吹さんの、優しい手だ。
どうして、彼の手は怖くないんだろう?
最初から不思議だった。
普段なら、男性にパーソナルスペースに入られるだけで不安と恐怖に陥るのに、伊吹さんだけは大丈夫だった。
手を繋がれても、抱き締められても、一緒に眠っても……。
それは、私が彼のことを好きだから?
伊吹さんだけが、私の特別だから……?
どこかで携帯のバイブレーションが聞こえる。
きっと、伊吹さんの携帯だ。
「……ごめん。俺の携帯だ」
私が頷くと、伊吹さんが電話に出た。
「……はい。いや、今日は……、……分かりました、戻ります」
伊吹さんは“専務取締役”だ。
大事な仕事中に、私なんかに構っていていいわけがない。
「ごめん、結麻さん。一緒にいてあげたいけど……戻らなきゃいけなくなった」
「大丈夫です。私こそ、ごめんなさい、手を煩わせてしまって……」
「いや、それはいいんだ。それより……ひとりで大丈夫? 誰か寄越そうか?」
「いえ、大丈夫です」
「……やっぱり心配だから、母にでも、」
「あのっ、大丈夫です」
まさか、伊吹さんのお母様に迷惑をかけるわけにはいかない。
私は慌てて首を左右に振る。
「なるべく早く帰るから、寝ていてね? 何か必要なものがあれば、1階のコンシェルジュに頼んでいいから」
「……分かりました」
その後も、何度も私を心配する言葉を私に投げかけながら、秘書の笹原さんの迎えの車で会社へと戻って行った。
「……はぁ」
ベッドに座り、思わず安堵のため息を吐く。
――これから、どうしよう……?
このままで良いわけがない。
私がこのままここにいて良いとは、ますます思えなくなってしまった。
こんなこと、もう自分自身が耐えられない。
もう誰も、私の最低な部分に巻き込みたくはないから……。
私はそろりとベッドから降り、意を決してクローゼットの前に立った――。
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