嘘は溺愛のはじまり

海棠桔梗

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永遠を

1.

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 外は冬本番の寒さだけれど、私は今日も、暖かい朝を迎える――。
 だけど今日は、いつもと少し違う暖かさで……。

「……っ?」

 何がいつもと違うのかを、ついさっきまで微睡んでいた頭ではすぐには思いつかなくて、私は瞼をゆっくりともち上げた。

 いつもは後ろから抱き締められて目が覚めるけれど、今日は……私の目の前に、伊吹さんがいる。
 私に腕枕をして、私を抱き締めて眠る、伊吹さんが――。


 ――昨晩、いつも通りベッドの端で眠ろうとする私を伊吹さんは少しだけ強引に抱き寄せて、「結麻さんが嫌じゃなければ、最初から抱き締めて一緒に眠りたい。……ダメ?」と私の耳元に囁き落とした。
 途端に熱を持って頬が赤くなる私を見た伊吹さんは、否定も肯定も出来に固まってしまった私に、満足そうに少し微笑んで「じゃあ、おやすみ、結麻さん」と言って、私をギュッと抱き締めたまま、眠りに落ちた。

 抱き締められたまま眠るなんて思ってもいなくて。

 私はしばらく呆気にとられたままだったけれど、伊吹さんの腕の中はやっぱり暖かくて落ち着くからか、次第に私も眠気が襲ってきて……。
 私は生まれて初めて、誰かに抱き締められたまま眠った――。

 ――きっとお互い何度か寝返りを打ったのだろうけど、結局こうやって最初とほぼ変わらない体勢で目が覚めた、と言うことになる。
 なんだか、不思議……。

 そっと伊吹さんの寝顔を盗み見ながら、私は昨夜のことを思い返していた――。


 ――あのあと、当たり前のようにカフェの戸締まりをする伊吹さんを、私は首を傾げながら待っていた。

「ん? 結麻さん、どうしたの?」
「え、っと……」

 どう質問して良いかも分からないから、曖昧に、もう一度首を傾げるしかなかった。

「……ああ、これ?」

 戸締まりをするために楓さんから預かった鍵を掲げて見せたので、私が小さく頷くと、今度は伊吹さんが首を傾げる。

「……もしかして、楓から何も聞いてない?」
「楓さん、から……?」

 私は再び首を傾げる。
 伊吹さんの言葉の意味が、さっぱり分からない。

「あー、あいつやっぱり言ってないか」
「……なにを、ですか?」
「うん、楓と俺のこと」
「楓さんと、伊吹さんのこと、……ですか?」
「そう」

 私は、聞いていない、と言う風に、首を横に振った。
 伊吹さんはそれを見て、ふ、と小さく笑って「楓は、相変わらずだな」と呟く。

「楓は、俺の弟なんだ」
「……え?」
「正真正銘、血の繋がった、実の弟だよ」
「おとうと……?」

 そう言われてみれば、確かに似ているところは多い。
 物腰の柔らかいところや、優しい表情や物言い、だけど芯はしっかりとしていて、どこか有無を言わさないような強い部分があるところも……。

 戸締まりを確認した伊吹さんは、私の手をとり指を絡めるように繋ぎ合わせて、マンションまでの道のりを歩き出す。

 週末には一緒にどこかへ出掛けることは多くて、いつも手を繋いではいたけど……こんな風な繋ぎ方で歩くのは初めてで……私は少し気恥ずかしかった。

「楓は、あまり篠宮の姓を名乗りたがらないんだ」
「そうなんですか……」

 そう言えば、初めて会った時もそんなことを言っていた気がする、『自分の苗字、嫌いなんだ』、って――。

「楓は人の懐に入り込むのが上手いし、営業向きだと思ったんだけど……うちの会社に入るのも拒否されて」

 伊吹さんは「困った子だよね」と笑いながら、でも、どこか嬉しそうだ。

「料理を作ったり、接客したりしてる方が良いんだって。仕方ないよね」
「楓さんの作るお料理は、全部とても美味しいです」
「そう言えば、今日も試食に付き合ってくれたみたいだね。ありがとう」
「いえ、あんなに美味しいお料理を一番に食べさせてもらえるなんて、光栄です」
「そう? まぁ、俺は結麻さんの手料理の方が美味しいと思うけど」

 サラリと言ってのけられ、私は思わず言葉に詰まった。
 私の適当な家庭料理と、お店に出している楓さんの料理では、あまりにもレベルが違うから……。

「結麻さんが作る料理は、お母さんから教えてもらったもの?」
「……いえ、えっと……」

 私の歯切れの悪い答えに、伊吹さんは不思議そうに私の顔を覗き込む。

「……私の家は共働きで……」
「うん、そう言ってたね」
「母は、仕事は出来るんですけど……あまり家事が得意じゃなくて……」

 身内の恥をさらすようで言葉にしにくいけど、どうせ私の汚い過去はほとんど言ってしまったあとだ。

 今更自分を綺麗に取り繕う事なんて不可能だから、私は全てを言ってしまうことにした。
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