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あなたのお仕事
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結局その後「出勤前に一緒にシャワー浴びたいな~」と無邪気に言う彼に騙されて、半ば朦朧とする頭で頷いたのがまずかった。
心地良さと気だるさで身体が動かせない私を軽々と抱き上げた彼は、そのままバスルームへと私を運ぶ。「洗ってあげるね」なんて言われて身を委ねた結果、彼に全身をくまなく洗われたあと、やっぱりもう一度彼と深く繋がることになってしまったのは言うまでもない。
カエデくんが用意してくれた朝食を食べ終えて時計を見ると、時刻は9時を回ったところだった。
「ね、今日、仕事、ちゃんと行くよね?」
「ん? うん、行くよ?」
「……そう、なら良いけど」
「亜矢さんも早く支度して?」
「……ええ?」
なんで私が、支度を……?
意味も分からず、バスローブを身に纏ったままクローゼットへと連れて行かれる。戸惑っている私を尻目に、彼は女物の服が掛けられているエリアで洋服を選び始めた。ワンピースを手にとっては、うーん、と唸ったり、似合うね、と頷いたり。
「ねえ、カエデくん」
「んー? なぁに?」
「なんで私まで……?」
「ん? 僕の仕事、知りたいでしょ?」
「う、ん、そりゃまぁ……」
何着も私の前にかざしては戻し、次を取ってかざしては戻し……を繰り返して、淡い水色のワンピースに決めたらしい。それを元に下着まで選んで、「はい、着てみて」と嬉しそうに私に手渡すカエデくん。
「……は?」
「絶対に似合うから」
「……え、待って、ここで着替えるの?」
「ふふ、そうだよ?」
「……じゃあ、出ててもらっていい?」
「んふふ、やだ」
「……はあ?」
この変態め。
私が着替えるところを見たいだなんて、可愛い顔して、そう言うところだけ〝男〟なんだから……。
文句を言って追い出したいところだけど彼の出勤時間が迫っているはずで、ここで押し問答をしていては彼の職場に迷惑を掛けかねない。私は出来る限り大きなため息をついて、バスローブの紐を解いた。
なるべくカエデくんのことを視界に入れないようにしながら下着を身につける。恥ずかしくて頬が熱いけれど、きっと恥ずかしがったら彼の思うつぼだ。だから私はなるべくそれを表に出さないように、心を無にして衣服を身につけていく。
背中のファスナーを上げようとしたところでカエデくんに「僕が上げてあげる」と言われ、私は長い髪がその動作の邪魔にならないようにと前へ垂らして彼に背中を委ねる。それが間違いだったと気づいたのは、むき出しの背中に口づけられた後だった。
「もうっ。油断も隙もないんだからっ」
「ふふっ、ごめんごめん。美味しそうだったから、つい」
彼の不意打ちにプリプリと怒る私に、いつものようにふわふわと笑うカエデくん……。どっちが年上だか分からない構図だ。彼の方が五つも年下なはずなのにぐるぐるバタバタと翻弄されているのはいつも私の方で、余裕で笑っているのは彼の方。
悔しいわけじゃないけど、こんなはずじゃなかった、とは思う。
彼の勤務先は住んでいる雑居ビルから徒歩で数分らしい。勤務先に向けて並んで歩いているところだ。
すぐ迷子になるから、と言われて、またしても私の右手は彼に拘束されている。絡む指に意識を持って行かれそうになるのをなんとか耐えながら、彼の職場までの道のりの風景を記憶することに集中する。
足を止めるのと同時に「着いたよ」と言われて、ハッとして顔をカエデくんへと向けた。
誇らしげに「ここが僕の職場」と指さした先は、とても雰囲気の良いカフェだった。意外なような気もするし、しっくりくるような気もする。
「……ここ?」
「うん、そうだよ」
ふんわりと優しく笑うカエデくんに、心臓がなぜだかぎゅうっとなる。
この子の笑顔はあまりにも心臓に悪い。
どうぞ、と促されて開店前のカフェのカウンター席の片隅に座り、私は店内をぐるりと見渡した。シックで落ち着いた雰囲気の店内はとても居心地が良い。
仕事を始める前にカエデくんがコーヒーを淹れてくれた。
「今日は開店準備だけの日で、お昼前に終わる予定だから、ちょっと早めのランチをここで食べて帰ろうね~」
「うん、分かった……」
「じゃ、ここでちょっと待っててね。あ、何でも好きなもの頼んでくれて良いからね?」
「ん、ありがと」
心地良さと気だるさで身体が動かせない私を軽々と抱き上げた彼は、そのままバスルームへと私を運ぶ。「洗ってあげるね」なんて言われて身を委ねた結果、彼に全身をくまなく洗われたあと、やっぱりもう一度彼と深く繋がることになってしまったのは言うまでもない。
カエデくんが用意してくれた朝食を食べ終えて時計を見ると、時刻は9時を回ったところだった。
「ね、今日、仕事、ちゃんと行くよね?」
「ん? うん、行くよ?」
「……そう、なら良いけど」
「亜矢さんも早く支度して?」
「……ええ?」
なんで私が、支度を……?
意味も分からず、バスローブを身に纏ったままクローゼットへと連れて行かれる。戸惑っている私を尻目に、彼は女物の服が掛けられているエリアで洋服を選び始めた。ワンピースを手にとっては、うーん、と唸ったり、似合うね、と頷いたり。
「ねえ、カエデくん」
「んー? なぁに?」
「なんで私まで……?」
「ん? 僕の仕事、知りたいでしょ?」
「う、ん、そりゃまぁ……」
何着も私の前にかざしては戻し、次を取ってかざしては戻し……を繰り返して、淡い水色のワンピースに決めたらしい。それを元に下着まで選んで、「はい、着てみて」と嬉しそうに私に手渡すカエデくん。
「……は?」
「絶対に似合うから」
「……え、待って、ここで着替えるの?」
「ふふ、そうだよ?」
「……じゃあ、出ててもらっていい?」
「んふふ、やだ」
「……はあ?」
この変態め。
私が着替えるところを見たいだなんて、可愛い顔して、そう言うところだけ〝男〟なんだから……。
文句を言って追い出したいところだけど彼の出勤時間が迫っているはずで、ここで押し問答をしていては彼の職場に迷惑を掛けかねない。私は出来る限り大きなため息をついて、バスローブの紐を解いた。
なるべくカエデくんのことを視界に入れないようにしながら下着を身につける。恥ずかしくて頬が熱いけれど、きっと恥ずかしがったら彼の思うつぼだ。だから私はなるべくそれを表に出さないように、心を無にして衣服を身につけていく。
背中のファスナーを上げようとしたところでカエデくんに「僕が上げてあげる」と言われ、私は長い髪がその動作の邪魔にならないようにと前へ垂らして彼に背中を委ねる。それが間違いだったと気づいたのは、むき出しの背中に口づけられた後だった。
「もうっ。油断も隙もないんだからっ」
「ふふっ、ごめんごめん。美味しそうだったから、つい」
彼の不意打ちにプリプリと怒る私に、いつものようにふわふわと笑うカエデくん……。どっちが年上だか分からない構図だ。彼の方が五つも年下なはずなのにぐるぐるバタバタと翻弄されているのはいつも私の方で、余裕で笑っているのは彼の方。
悔しいわけじゃないけど、こんなはずじゃなかった、とは思う。
彼の勤務先は住んでいる雑居ビルから徒歩で数分らしい。勤務先に向けて並んで歩いているところだ。
すぐ迷子になるから、と言われて、またしても私の右手は彼に拘束されている。絡む指に意識を持って行かれそうになるのをなんとか耐えながら、彼の職場までの道のりの風景を記憶することに集中する。
足を止めるのと同時に「着いたよ」と言われて、ハッとして顔をカエデくんへと向けた。
誇らしげに「ここが僕の職場」と指さした先は、とても雰囲気の良いカフェだった。意外なような気もするし、しっくりくるような気もする。
「……ここ?」
「うん、そうだよ」
ふんわりと優しく笑うカエデくんに、心臓がなぜだかぎゅうっとなる。
この子の笑顔はあまりにも心臓に悪い。
どうぞ、と促されて開店前のカフェのカウンター席の片隅に座り、私は店内をぐるりと見渡した。シックで落ち着いた雰囲気の店内はとても居心地が良い。
仕事を始める前にカエデくんがコーヒーを淹れてくれた。
「今日は開店準備だけの日で、お昼前に終わる予定だから、ちょっと早めのランチをここで食べて帰ろうね~」
「うん、分かった……」
「じゃ、ここでちょっと待っててね。あ、何でも好きなもの頼んでくれて良いからね?」
「ん、ありがと」
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