4 / 189
第4話 母さん
しおりを挟むサイズを測り終わり、買い物を終えてパンツ以外の買った服をそのまま着て家まで帰ってきた。
帰り道でもすれ違った女性がチラチラとこっちを見てきたり、後ろでキャーキャー言ってたので、俺は本当にイケメンになったのかもしれない。もちろん痩せたこともイケメンになったことも非常に嬉しいと思う。家に帰ってからも、普段はまったく見ない鏡で自分の顔を見てニヤニヤしていた。
しかしひとつだけ問題がある。俺がたった一晩でこれだけ急激に痩せたことを母さんになんて説明しよう。死のうとしたら異世界への扉を見つけてそこで大魔導士の力を貰ったなんて説明できるわけがない。
というか変わりすぎて俺だとわからない可能性も非常に高い。まあその場合は昔の記憶とかを話せば証明はできそうか。とりあえず昨日の夜に急激な身体の痛みがあって、朝から起きたらこうなっていたと説明するしかない。一応大魔導士の魔法の中で記憶を操作する魔法はあるが、母さんにそんなことをしたくはない。
「ただいま?。いつも遅くなって悪いわね、ご飯の準備もありがとね」
母さんが帰ってきたようだ。いつも通り母さんの晩ご飯は簡単なものだが俺が作ってある。意を決して自分の部屋から出る。
「母さん、おかえり。えっと、ちょっと話があるんだ」
「ちよっ、ちょっと、どうしたのよ正義! なんであんたそんなに痩せてるの! 体調は大丈夫なの? 何かの病気じゃないわよね!」
……よかった。痩せてはいるが俺が母さんの息子だということは疑っていないようだ。それだけのことなのにとても嬉しい。
「いやなんか昨日寝ていたら身体中に激痛が走って朝起きたら急激に痩せていたんだ。でも体調は大丈夫そうで、むしろ昨日よりも調子がいい感じがするんだ」
「なんですぐに連絡しないのよこの子は! 今からすぐに病院に行くわよ! 何かあってからじゃ遅いんだからね」
「えっと、病院は大丈夫だよ。体調は問題なさそうだし」
「馬鹿言ってるんじゃないわ。明らかにおかしいでしょ。母さんの病院ならこの時間でも見てくれるわ!……救急車までは呼ばなくても大丈夫かしら? ほら、早く車に乗りなさい!」
「わっ、わかったよ」
ここまで俺のことを心配してくれているのに病院は行かないなどとは言えない。異常はないと思うが、ここは母さんに従おう。
そのあと母さんの病院に行って、血を抜かれたりレントゲン検査をしてもらったが、すべて異常なしだった。むしろ前回の健康診断で太り過ぎと診断されていたところがすべて健康状態となっていた。
「はあ、異常はなさそうで本当によかったわ。でも油断しちゃだめよ、何か少しでも体調がおかしくなったらすぐに連絡しなさい!」
帰りの車の中で母さんと話す。検査にだいぶ時間がかかってしまい、もうすぐ日付が変わってしまいそうだ。
「わかったよ、母さん。それにしてもよく俺のことがすぐにわかったね。自分でも起きた時にこれが本当に俺なのかどうかしばらくわからなかったのに」
「何言っているのよ! 息子なんだから急に痩せてもわかるに決まっているでしょ。それにあんたが普通の体型だった保育園のころと同じ顔をしてたし、父さんの若い頃にもそっくりだったわ」
ありがとう、母さん……
そっか父さんも若い頃はこんな顔をしていたんだ。残っている写真は大人になった後の写真しか残っていなかったからな。
「でも体調に異常がないなら今のあんたの方がいいわね。なんでご飯は普通の量しか食べてないのにあんなに太っていたのか不思議でしょうがなかったわ。覚えてる? あんた痩せてた保育園のころは女の子にモテモテだったのよ」
「一応ね。なんかバレンタインデーとかにいっぱいチョコを貰ってた気がする」
「そうそう、いっぱいチョコレートもらったって笑顔で話してたわよね。ホワイトデーのお返しを自分で作るから材料が欲しいなんて、その頃からそういうところはマメだったわよね」
「はいはい、よく覚えているね」
「正義のことなんだから当たり前でしょう。……最近あんまり元気なさそうだったから心配していたのよ。今度久しぶりに休みが取れそうだから、たまには美味しいものでも食べに旅行に行くわよ」
……そっか、俺がいじめられていて元気がないことに母さんは気付いていたか。仕事が忙しくてあんまり話はできてないのにちゃんと見ててくれるんだな。
「うん、確かにこの前まではちょっと辛いこともあったけどもう大丈夫! それに最近やりたいことを見つけたからそれが楽しみでしょうがないんだ。もしかしたら今度泊まりでどこかに出かけるかもしれないから先に言っておくね」
言うまでもなくあの異世界での探索だ。もしかしたら向こうの世界で泊まる可能性もあるから先に伝えておこう。
「あらそう、ならよかったわ! 最近は友達とどこかに出掛けることもなかったから心配してたのよ」
「そっ、そうなんだ……」
ごめん、友達は今はいないんだ。中学の頃や高校に入ってすぐの頃はよく友達と遊びに出掛けていたけれど、いじめグループに目をつけられてからはみんな離れていった。
もちろんみんなを責めるつもりなんてない。下手をしたら今度は自分がいじめられてしまう可能性があるのだから当然だ。俺も最初にいじめられていた子には自分から近付かないようにしていたしな。
「何か辛いことがあったらすぐに言いなさいよ。母さんはいつでもあんたの味方だからね」
「……うん、ありがとう。母さんも何かあったら俺にも頼ってくれていいからね。今の俺ならなんでもできるから」
「ふふ、頼りになるわね。それじゃあ何があったら遠慮なく相談するわね」
「任せておいてよ!」
大魔導士から貰った力だが、今の俺なら大抵のことができる。身近な人が困っていたら力になってあげられるといいな。
さあ、明日は月曜日でいよいよ学校へ行かなければならない。どうせいじめグループが絡んでくるだろうからいろいろと考えておかないといけないな。
20
あなたにおすすめの小説
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました
御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。
でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ!
これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる