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第43話 崇高な目的
しおりを挟むおっと、やばいやばい確かドラゴンは血も貴重なんだったな。急いで事前にサーラさんの屋敷でもらって洗っておいた空の木樽を置いてドラゴンの首から噴き出す血液を回収する。
「おい、あんた!助けてくれて感謝する!」
「いえいえ、みなさんご無事で何よりです」
獣人冒険者達Aがこちらに近付いてきた。改めて獣人の冒険者達を見てみる。
4人とも猫の獣人さんのようで、全員に立派なネコミミと尻尾が付いている。この世界に来てからルクセリアの街で猫や犬の獣人さんを見てきたけれど、こんなに間近で獣人さんを見るのは初めてだ。
今お礼を言ってきているのがこのパーティのリーダーらしい女性の獣人さん。ネコミミも尻尾も黄色と黒色の縞々のところを見ると虎の獣人なのかな。確か虎もネコ科だった気がする。
武器は大きな大剣でこれだけの武器ならば、当たりさえすればあのドラゴンにも傷をつけられそうである。そして当たり前だが露出は限りなく少なく、ほぼ全身鎧で生身が見えるのは首から上くらいだ。女冒険者だからといってビキニアーマーや某狩りゲームみたいな露出の多い服装を期待していたわけではない。……本当だぞ。
「すごかったニャー!」
「あの硬いドラゴンの鱗を一刀両断するとはな!」
「それに今のは収納魔法……さぞ高名な魔法使いとお見受けしますわ」
後ろの方から残りの3人も出てきた。こっちの語尾がニャの子は他の3人と比べて小柄な女の子だ。防具は軽めで武器は小型ナイフ2本なので身軽さを売りに急所に一撃を叩き込むアサシンタイプかな。ドラゴン相手には相性は良くないに違いない。……そして語尾が作っているかが一番気になる。
こっちの獣人女性は随分とガッチリと装備を固めており、顔も含めて全身を鎧で覆っているいわゆるフルプレートアーマーだ。ドラゴンのブレスをも防ぐ大盾を持っているからタンク職なのかもしれない。
最後の言葉遣いが丁寧な女性はパーティの中で唯一ローブと杖を身につけていることから魔法使いなのだろう。個人的なイメージだと獣人は魔法を使えないイメージがあったけどこの世界ではそうでもないのかな。
そして全員に言えることだが、獣人だからといって顔まで毛だらけというわけではないらしい。はっきりいって耳と尻尾が無ければ人族と変わらないくらいだ。ルクセリアの街で見た時は結構毛深い獣人も見たけど血とか影響しているのかな?よくわからん。
「あのみなさん、もしよかったら解体の……」
「あんたに頼みがある!!」
解体の手伝いをお願いしようとしたところリーダーの獣人さんと被ってしまったようだ。
頼みとはなんだろうな? 名声とか素材とかだったら別にいいんだけど肉を全部とかだったらさすがに断るぞ!
「このドラゴンの肝を俺達に譲ってほしい!」
ドラゴンの肝、確か食用ではなく何かの秘薬の材料になるんだっけ? それなら別にいい気もするが……
「……理由を聞かせていただいても?」
「俺達の命の恩人とも言える人が非常に珍しい病にかかって床に伏せている。その秘薬を作るための最後の素材がドラゴンの肝なんだ! 他の素材についてはすべて集めることができたが、ドラゴンの肝だけは手に入れることができなかった!」
……ん? 珍しい病? なんかつい最近聞いたような話だな。
「もしかしてエガートンの街の領主様ですか?」
なんかワイバーン料理を食べていた時にそんな話を聞いたような気もする。確か怪我じゃなくて病気だから治せないなんて思ったよな。
「っ!! そうだ、エガートンの街の領主様だ! 俺達4人は孤児院で育ってきた。彼女は領主になる前からよく孤児院に顔を出してくれていたんだ。小さい頃からよく俺達に食べ物を持ってきてくれたし、色々な世話をしてくれた。俺達が冒険者になれたのも彼女のおかげなんだ!」
……孤児とか重い話が出てきた。そうだよなあ、この世界とかだと孤児院とかあったりするんだろうな。それも日本とかの孤児院とは比べるまでもなく劣悪な環境のやつが。
「俺達もようやくA級冒険者にまで上り詰め、エガートン一の冒険者と呼ばれるようになったのにこのざまだ。ドラゴン相手には手も足も出なかった……」
そうか、彼女達はA級冒険者だったのか。確かに昨日出会った冒険者達とは身につけている装備が全然違うと思ったよ。とはいえ相手が破滅の森にいる魔物以上の敵なら仕方がない気もする。
「あんたみたいな歴戦の強者が一人でドラゴンを討伐するなんてよっぽどの目的があることはわかっている! そりゃ俺達みたいなたった一人を助けるためみたいな小さな目的でもないこともだ!」
うぐっ!!
………………言えない。ドラゴンを食べたい、ついでに人に害をなす魔物も倒せて一石二鳥だぜ! なんて小さすぎる目的のために一人で来たなんて決して言えない!
「あんたの目的がどれほどのものか俺にはわからねえ! だが、もしもその目的にドラゴンの肝が含まれていないなら俺達に譲ってくれないか! もちろん金ならいくらでも払う! こう見えてもエガートンの街では一番稼いでいる冒険者だ! それでも足りなければあんたの奴隷になっても構わない!」
いやいやいや! 奴隷とか何言い出してんのこの人!?
「ああ、俺達もそれくらいの覚悟はある!」
「あるニャ!」
「ありますわ!」
あんたらもかい!!
てかこの世界に奴隷制度とかあるのか! 美人な獣人奴隷が一気に4人とか胸が熱くなるな……じゃなかった! さすがにその気持ちは立派だけど平和な日本で暮らしているDT男子高校生の俺にはちょっと、いやかなり重すぎるから。
「……みなさんの想いはよくわかりました。幸いなことに俺の目的にドラゴンの肝は含まれておりません。奴隷とかも不要です。みなさんがお支払いできる金額で構いません」
「いっ、いいのか! 言っておいてなんだが肝はドラゴンの中でも一番高価な素材だぞ! もしも王都とかで貴族の競りに出せば、俺たちの全財産を遥かに超えるかもしれねえ!」
確かに角は2本だし爪や牙はかなりの数がこのドラゴンから獲れるだろうから、一つしかない肝はとても貴重なのだろう。
「ええ、構いませんよ。そもそもお金のためにドラゴンを討伐しにきたわけではありませんから。それにあなた達の恩人を助けたいと想いはとても立派で崇高です!」
なんて偉そうなことを言ってはみたが、この人達の目的は俺なんかよりもよっぽど崇高な目的である。頼むから俺の目的だけは聞かないでね! いや本気で。
「……すまねえ、本当に感謝する!」
「そうと決まれば急いでドラゴンの肝を取りだしましょうか。確かあまり時間がないんですよね?」
「あっ、ああ!街まで帰る時間も考えるとかなりギリギリだ」
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