いじめられて死のうとしていた俺が大魔導士の力を継承し、異世界と日本を行き来する

タジリユウ

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第163話 決着

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 くそ、極大魔法でもアンデの魔法無効化には通らないか!

 だが俺の最後の切り札はここからだ!

 巨大な水竜が消滅すると同時に、先程時間を調節して投げたが炸裂する。

 バアアアアアアアアァン!!

「がああああああああ!!」
 
 天災の死骸の後ろにおり、完全に耳を塞いだはずの俺にまで衝撃が走る。

 スタングレネード、目を眩ます閃光と耳をつんざく爆発によって、数秒のあいだ人間の全感覚を麻痺させる鎮圧用の武器である。

 殺傷能力はないが、化学物質の燃焼により発生する閃光はしばらくの間、人の視力を奪い去る。その光はサングラスや目をつぶったくらいで防げるような、生易しい閃光ではない。

 また、その爆音により聴力どころか三半規管にまでダメージを与えることができる。場合によって相手の鼓膜を破ったり、失明させてしまうこともあるまさにである。

 なんでこんなものを俺が持っているかというと、先日の詐欺師集団を潰した時にやつらの武器庫からいくつか拝借しておいたのだ。スタングレネードの他にも日本刀、拳銃、手榴弾などもいくつか収納魔法の中に入れてある。というかあいつらは一体何と戦っていたのだろう……

 いくら詐欺師集団からとはいえ、犯罪は犯罪だ。まあ不法侵入やら犯罪者への暴行罪など今更だがな。

 そして俺はこの状況でスタングレネードを使うことを今思いついたわけではない。そう、

 その情報については、この決闘が始まる直前にボリスさん達からもらった資料の中にあった。以前に大魔導士を継ぐ者と戦ったことがある相手から直接聞いた話。

 その話の中で戦闘中に何度か魔法が使えないという現象が起きたらしい。先程アンデはこの魔法は最近完成したと言っていた。おそらく強者との戦いの中でマジックイレイザーという新しい魔法を実験していたのだろう。

 可能性のひとつとして、魔法が使えなくなってしまった場合には元の世界から持ってきた武器を使おうと考えていたわけだ。この値千金な情報を持ってきてくれたボリスさんには本当に感謝しかない。

 本当は先程追い込まれる前に使うつもりだったのだが、あれほどの高速な転移魔法については情報が一切なかった。それとあわせて転移魔法により魔法無効化の範囲内に張り付かれては、収納魔法から武器を取り出すことができずに、本当に危ないところだった。

 おそらく視覚も聴覚も肉体が強化されていたアンデにとって、魔法ではないスタングレネードの攻撃は相当なダメージになったはずだ!

 ダアアアアァン!

「があああ!」

 バキンッ、バキンッ

 続けて時間を調節して投げた手榴弾が爆発し、アンデの障壁を破壊する。しかし、手榴弾の威力でもアンデの障壁を壊すだけであった。

「収納魔法、フィジカルブースト!」

 収納魔法で天災を再び収納し、上級身体能力強化魔法を自身にかける。それと同時に収納魔法で収納していた頑丈な盾と剣を取り出す。これによりもう俺の魔力はほとんど残っていない。

 先程までの戦いで、俺もアンデも自身に身体能力強化魔法をかけなかったのには理由があった。強靭な肉体の上から更に身体能力強化魔法をかけてしまうと、そのスピードを制御できなくなり、肉体への負担も凄まじい。速すぎて見切りスキルを使ったとしても、まともに方向転換すらできない。

 

「ぐうううううう……」

 スタングレネードは視力や聴力だけでなく、人の全感覚を麻痺させる。この状態では、まともに魔法を使うことなんてできるわけがない。つまり感覚が戻るまでのこの数秒間だけは、得意の転移魔法で回避することもできない。

 大きな盾を左手で構える。大魔導士から継承した身体能力に加えて、魔法で強化された身体の力すべてを右足に込めて一気に踏み込んだ。

 自分でもまともに視認できないほどの速さでアンデの魔法無効化範囲に入る。身体能力強化魔法は無効化されてしまったがこの勢いは衰えない。そのままの猛スピードでアンデに突っ込む。

「がはっ!」

 バキンッ

 盾にまだ残っていた障壁魔法をブチ破る感触が伝わり、そのまま盾ごと体当たりをする。この戦いで初めてアンデの身体に俺の攻撃が届いた。

「らあああああああ!!」

 そのままの勢いで平原を越えて、森の木々を薙ぎ倒していく。身体能力強化魔法によってスピードが数倍上がったが、その衝撃も単純に数倍上がるというわけではない。スピードに対して衝撃は乗算されていくので、今の衝撃は先程の攻撃の比ではない。

 ミシミシと嫌な感触が盾を持った左腕から伝わる。衝突した衝撃でアンデの身体だけでなく、俺の左腕まで折れているかもしれない。

「はあ……はあ……」

 ようやく勢いが止まり、アンデの小さな体躯にのしかかりながら盾で身体を押し付けつつ、右手に持った剣をアンデの喉元に突きつける。

「おい、生きてるか?」

 攻撃が当たる瞬間に抑制スキルを切るような余裕はなかったので、全身全霊の力で体当たりしたが生きているよな?

「がはっ……な、何が起きた……」

 口から血を吐き出してはいるが生きている。あ、そうか。スタングレネードや手榴弾の影響でまだ視力も聴力も回復していないのか。

「……ヒール」

 なけなしの魔力で回復魔法をかけてアンデを最低限回復する。もちろん盾で身体を押し付け、剣を喉元に突きつけたままだ。

「俺の勝ちだ! 負けを認めろ!」

「………………」

 ハイエルフ特有の真紅に染まる赤い瞳が、俺を見つめている。アンデの性格上ここから暴れるなんてことは思うが、もしもの何かしようとしたら、この剣を喉元に突き刺し、斬り裂かねばならない。できれば恩人である大魔導士の弟子を殺したくはない。

「……我の負けのようだな」
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