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第28話 投降勧告

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「おいっ、なんだよあれ!?」

「嘘だろ! 土魔法であんなでけえ壁を作れんのかよ!」

「くそっ、駄目だ。なんでストーンウォールごときが壊せねえんだ!」

 周囲を土の壁に取り囲まれ、逃げることができなくなった敵がパニックになっている。どうやら俺の土魔法でできた壁はある程度の攻撃では破壊することができないらしい。

「ふう……」

 とはいえ、さすがに人族の陣営を大きく取り囲むほどの大きな土魔法を使ったため、多少の疲労感が俺を襲う。例えるのなら、オッサンが10秒くらい全力疾走したくらいには疲れている。

 いやまあ、そんな疲労でこんなことができること自体、いろいろとおかしいんだけどな。

「ええい、なぜそんな魔族一匹を倒すことができんのだ!」

 少しずつ敵を気絶させていくと、奥のほうに指示を出している指揮官らしき人を発見した。魔王威圧スキルは対象を選ぶことができるので、その指揮官と周囲の数人だけ対象外にして他の兵士を戦闘不能にさせていく。

 どうやらこの場には魔王威圧スキルに耐えられるような強者はいないようなので、少しホッとした。

「く、来るな!」

「おい、誰かおらぬのか!?」

 残念ながら近くにいる他の兵士はすべて倒れ、まだ残っている兵士達は俺から距離を取って土の壁のほうに離れている。

 傍から見ると、気絶しているのか死んでいるのか分からないもんな。こんな得体のしれない相手に自分の命を賭けて突っ込んでくるやつはそういないだろうな。

「さて、おとなしく投降してもらおうか」

「ば、馬鹿な! 誰が魔族になどに屈するものか!」

「わ、我らは最後のひとりとなるまで断じて戦う!」

「……本当に良いのか? 今降参すれば、貴様らも含めてこの場にいる誰ひとり死なずとも済むのだぞ?」

「だ、誰ひとりだと!? 魔族の話すことなど信じられるか!」

「周りに倒れているものをよく見てみろ。今は誰ひとり殺してはいない」

「何!?」

「……レグナード様! た、確かに周りの者は気絶しているだけのようです!」

 どうやらこの指揮官の人間はレグナードといういうらしい。30~40代の男で、一際高価そうな防具を身に付けている。

「……なぜ我らを殺さない?」

 その質問をするということは、やはり魔族は基本的に人族を殺すということだ。特に今は戦争中だしな。

「紹介が遅れたな。我はである。この度、魔王召喚の儀によってこの世界に召喚された魔王なり!」

「ま、魔王だと!?」

「馬鹿な! 魔族のやつら、魔王を召喚したというのか!?」

「な、なんという圧倒的な力! これが魔王の力なのか!?」

「だが貴様らにも良い知らせがひとつある。我の世界では魔族と人族が共存している世界なのだ。だからこそ、できる限りはこちらの世界でも魔族と人族の共存を目指したい。そのため今回は条件さえ吞めば貴様ら全員を生かして返すつもりだ」

「「「………………」」」

 今回俺ひとりで敵を制圧したのはこのためだ。魔王の脅威を示すと共に、召喚された魔王は人族との共存を望むということを人族側に示すためでもある。さすがに俺が人族であるということまでは言えないけれどな。

「……その条件とは?」

 俺が魔王であることと、俺が誰ひとり人族を殺さなかったことが分かると、多少は話を聞く気にはなったようだ。

「まずは我という魔王が現れたことを国の代表に知らせ、我は人族と魔族の戦争の停戦を求めていると伝えろ」

「……無駄だ。残りの魔族を倒し、長かった魔族との戦争がようやく終わろうとしていたのだ。今の状況でこちらの陣営が停戦を認めるわけがない!」

「すぐには無理だろうな。安心しろ、停戦が受理されなくても問題ない。我の意志を伝えるだけでいい」

 おそらくこいつら全員を人質にしたとしても、こちらからの停戦の提案を受け入れることはないだろう。確実にこの兵士達を見殺しにしたあとで、こいつらが殺されたと発表して、魔族側への憎悪を増やしていくだろうな。

「そしてもうひとつの条件は貴様らが捕らえている魔族の捕虜の解放だ。貴様らの街でどれだけの数の同胞が捕らえられているのかはわからないが、これだけの人族を見殺しにするよりもいいだろう?」

「「「………………」」」

「我からの要求はたったのそれだけだ。相談するならばさっさとしろ。言っておくが、こちらも最大限に考慮しているぞ。魔族に屈したのではなく、同胞を守るためという理由にもなるであろう」

 戦争中敵に投降したり捕虜の解放を勝手に行った場合、国から何らかの罰則を受ける可能性はあるが、何百人の兵士との交換と言えば上も納得するだろう。

 そのあと俺が気絶せずに残した3人で少しの間話していたが、結論はすぐに出たようだ。

「……貴殿の要求を呑もう」



「魔王様、ご無事でしたか!」

 魔族陣営に戻るとリーベラが心配した様子でこちらにやってきた。俺の出した土壁で戦況が見えなかったから心配していたらしい。先ほど魔王威圧スキルで倒れていた兵士達も、俺の指示通り殺していないようだ。

「ああ、問題ないぞ、リーベラ。敵の指揮官どもを捕えてきたので拘束しておいてくれ。くれぐれも殺してはならないぞ」

「はっ、承知しました!」

 とりあえず人族側の指揮官であるレグナードと、気絶していたその側近や貴族っぽいお偉いさんを10人ほど捕らえて連れてきた。

「魔王様! この度は本当に見事なお力でした!」

 魔族陣営の指揮官である4本腕の赤黒い肌の魔族とその周りにいた者が片膝をついて跪く。

「うむ。貴殿らもこれまでよく耐えてくれた。この度の勝利は貴殿らのおかげでもある」

「はっ! ありがたきお言葉!」

「うむ。では、我はこのままこの者達の街へと赴き、捕らわれている同胞を解放してこよう」
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