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第43話 食い違い

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「さすがにしんどすぎるぜ……」

「ジ、ジン様! 大丈夫でしょうか!?」

「ああ、いや。ちょっと愚痴を言いたくなっただけだ。悪いな、こんな愚痴を聞かせてしまって」

「いえ! 最近のジン様は忙しすぎますから! もう少し身体を休めてもいいと思います!」

 現在はリーベラと一緒に人族の街に魔族の捕虜を探して潜入中だ。

 ここ2週間くらいは魔族の領地の技術や食料の改革を現代知識チートによっておこなってきた。なんだかんだで元の世界で得た知識というのは存外役に立つものが多かったんだよな。

 オッサンなりに今までいろんな知識を得てきて良かったと思う。だがあえて言うならば、もっと産業革命とか物の作り方について学んでおけばよかったな。いつ異世界に召喚されたり、転生してもいいようにみんなもちゃんと勉強を頑張っておいたほうがいいぞ。

「魔族も人族も捕虜の扱いはなかなか酷いものだったからな。できる限り早く解放してやりたいところだ」

 それ以外の時間は人族の街を訪れて、捕虜交換の交渉をしたり、人族と魔族で戦闘が始まった場合にはその戦いを止めに行っていた。

 その中で人族側の英雄と呼ばれている者も何人か現れたが、それも問題なく退けることができた。中にはリーベラやデブラーと同じくらい強い英雄と呼ばれる人族もいたが、魔王のチート能力の前ではそれも霞んでしまう。

 一刻も早く捕虜になった全員を助け出してやりたいが、人族の国や街はいくらでもある。捕虜は少しずつ助けて出していくが、停戦協定を結んで争いそのものを止めることも重要である。

「ジン様……お身体にも触りますので、無茶だけはしないでくださいね」

「ああ、わかっているよ。幸いリーベラ達みたいな優秀な部下もいてくれるからね」

「ジン様……」

 そう、確かに俺もかなり忙しいのだが、魔王軍四天王とその幹部が優秀なのでとても助かっている。俺が曖昧な指示しか出せていないのに、それをすぐに手配して、うまく割り振ってくれている。

 特にデブラー、あいつマジで優秀! 俺のアバウトな現代知識をすぐに理解して実行してくれる。そしてなんとリッチだから寝なくても問題ないらしい。

 休むことなくずっと働くことができるんだぜ! ……いや、まったく羨ましいとは思わないけれどな。さすがにあまりにもブラックすぎる環境だが、あともう少しは耐えてもらわないとな。俺を含めて魔王軍をブラックな職場にする気はないぞ。

「微力ではありますが、妾達も全力で支えさせていただきます!」

「ああ、助かるよ」

 そしてリーベラの現在の格好はドラゴンの鎧を身に付けた歴戦の冒険者のような姿である。どうやらリーベラが人族に変装するとこんな格好になるらしい。

 だがその美しい髪や瞳の赤い色は元の姿と変わらず、整った顔立ちやスタイルなども変わらないためものすごく目立つ。さらに隣にいるのが普通のオッサンのため、男達にめちゃくちゃ絡まれるのだ。

 その際は適当にあしらったり、リーベラが軽くボコって終わるのだが、やはりリーベラは街への潜入捜査には向かない気がする。さすがに面と向かってはそんなことは言えないけれどな。

 


「ジン様、気になる情報がひとつございました」

「ん、どうした。勇者の情報が分かったのか?」

 無事に捕虜の交換が終わった。ここは街というか村というほどの大きさの集落だったので、すぐに魔族の捕虜を探せて交換もすぐに終わった。

 先ほどリーベラと別々に情報収集をおこなっていた時に、リーベラのほうでなにか情報を得たらしい。

「いえ、そちらのほうは今まで以上の情報はありませんでした。人族と魔族の戦争についての話を聞いたところ、なにやら妾達が聞いていた話と異なる点がございました」

「異なる点?」

「はい。実は……」

 リーベラによると、情報収集の際にこの村で一番物知りな者と話をする機会があったらしい。その男は美人なリーベラに酒をおごりつつ、ペラペラと聞いたことについてなんでも教えてくれたらしい。

 潜入捜査は苦手でも情報収集はリーベラのほうが得意そうだな。相手が女だった場合にはイケメンのルガロのほうがいいかもな。まあオッサンに需要がないことは間違いないのだがな。

 そしてその男から聞いた話によると人族と魔族の戦争が始まった理由が、以前にデブラーから聞いていた理由とは正反対だったというのだ。

「本当にその男はそう言ったのか」

「はい! 人族と魔族の領地の境にあったウォルテアの国、そこで先に戦争を仕掛けてきたのはだったという話でした」

「なるほど……」

 デブラーから聞いた話によると、300年前には存在したウォルテアの国。そこでは人族と魔族が共存していたという話だ。しかし、ある時人族が突然その国を攻め、魔族を皆殺しにしたためこの戦争が始まったと言っていた。

 だがリーベラが効いた話によると、先に手を出したのは魔族のほうだと言う。

 なにせ300年も昔のことの話だから、どちらの言っていることが正しいのかは分からない。どちらかと言えばこんな集落にいる一介の男よりもデブラーのほうが信じられる。デブラーも人伝に聞いたと言っていたが、あの骸骨さんは本当に有能だからな。

 まあどちらにせよ相手種族の裏切りという理由なら、その理由を解決して戦争を止めることはできない。とはいえ、人族と魔族での話の食い違いは気になるところなので引き続き情報を集めるとしよう。
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