『億り人』になって田舎に家を買ったら、異世界と現代日本を行き来できるようになった件。~お金と文明の利器を使ってのんびり生活~

タジリユウ

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第83話 試着室

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 カフェから車で移動して次の店へとやってきた。

 ここは少し大きな某カジュアル衣料品店だ。今ヴィオラとリリスが着ている服は俺が午前中に別の店で購入してきたものだが、2人ともこちらの世界の服に興味があるそうなので一緒に来た。

 女性のファッションについてはさっぱりわからなくて適当に購入してきたし、あまり目立ちたくなかったから男女兼用で着られるパーカーなんかを購入しただけだから、自分の目で見て購入したいのだろう。俺は異世界の服には少ししか興味がなかったけれど、女性はやっぱり服が気になるのかもしれない。

「いらっしゃいませ」

 お店へ入ると早速店員さんが声をかけてきた。

「………………」

 ふむ、本当にヴィオラの魔法によって俺が右手に持っているハリーが入っているキャリーバッグは認識されていないようだ。

 さっきまでの店もそうだったが、周囲の人の視線はまず外国人の容姿をしたヴィオラとリリスに集まり、そのあとハリネズミであるハリーに集まっていた。だけど、目の前にいる女性店員さんはヴィオラとリリスのほうにだけ視線を送って、ハリーの方には一度も視線を移さなかった。

 しっかりとヴィオラの隠密魔法である『ハイディング』が発動している。キャリーバッグを上下させるが、店員さんの視線は動かない。ハリーの姿というよりもこのキャリーバックの存在を認識できなくなるという魔法のようだ。

 ただし、この状態で大きな声を出したり、触れたりしてしまうとこの魔法の効果は消えてしまうらしい。それでも緊急時にはだいぶ使えそうな魔法であることは確認できた。

「すみません、この2人は外国から来た友人なのですが、いろいろと教えてくれませんか?」

「ええ、もちろんですよ。おふたりとも、すごく綺麗な方ですね」

 20代前半くらいの店員さんは笑顔でそう答えてくれる。やはり日本のお店の接客は実にすばらしい。

「それではこちらの方の採寸をさせていただきますね」

「お、おう」

 まずは試着室の方まで移動して、ヴィオラの服のサイズを測るらしい。試着室のカーテンを閉め、メジャーを持っていた店員さんが服の上からヴィオラの採寸をしてくれており、俺とリリスとハリーはいったんその前で待っている。

「……なんで師匠だけ身体のサイズを測るの?」

「ええ~と、こっちの世界だとそれほど大きくない服はある程度身長がわかれば大丈夫なんだけれど、身体が大きいとちゃんと採寸した方がぴったりの服を選べるらしいよ」

「ふ~ん……」

「キュウ?」

 うん、たぶんリリスは身長さえわかれば服を選べそうだが、ヴィオラの場合は別の身体の一部のサイズを確認しなければいけないだろう。うまく遠回しに説明することができたかな。

「お待たせしました。すみません、お客様。ちょっとよろしいですか?」

「はい?」

 無事に採寸を終えてヴィオラと店員さんが試着室から出てきたのだが、なぜか店員さんが俺を手招きする。

 ……帽子はちゃんと着ているけれど、まさかヴィオラがダークエルフだとバレたわけじゃないよな?

「大変申し訳ないのですが、あちらのお客様の胸のサイズですと、当店では取り扱いしている商品が少なくなっております。特に下着などは専門のお店で購入されることをおすすめします」

「……はい。ご丁寧にありがとうございます」

 店員さんが俺の耳に小声で教えてくれた。

 とりあえずヴィオラの秘密はバレていないようだが、別の問題があったか。

 どうやらこういったお店だとヴィオラのような大きなサイズに対応していない服が多いらしい。特に下着なんかはそういった専門店があるようだ。……さすがにそれは知らんよ。



「こっちの服は着心地がいいな」

「師匠、この服はすごく伸び縮みするし、肌触りがすごくいい」

「どれどれ……。おっ、こいつはいいな。いったいどんな素材でできているんだろうな?」

 試着室の中からは2人の声が聞こえてくる。

 あのあと店員さんがいろんなおすすめの服を選んでくれて買い物かごいっぱいになった。それを同じ更衣室の中に入っていろいろと試している。幸い今のところ他に試着室を利用する人はいないみたいだが、いろいろと危うい会話が出そうな時に止めるために試着室の前で待っていた。

 試着する服が多いにしてもだいぶ時間がかかっている。俺はあまり服には興味がないが、普通に興味のある人が異世界に来たらこうなるのは当然なのかもな。

「それにしてもこの世界の下着は随分と凝っているよなあ。見ろよ、こいつなんかすげえぞ」

「……ちょっと煽情的過ぎる。私の方は可愛い物ばかり勧められた」

「………………」

 こちらの世界の服に夢中なのは分かるけれど、そういった話は俺のいないところでしてほしい。向こうの世界の下着事情なんかについては全然わからないものなあ……。

「ケンタ、今日の礼にちょっとだけ見せてやろうか?」

「えっ!!」

「っ!? ケンタ、今こっちを見たら許さない!」

「み、見ないよ!」

 ヴィオラのとんでもない言葉が聞こえてくるのと同時に背後からカーテンの開く音が聞こえた。

 反応して振り向いてしまいそうになったが、リリスからの言葉が聞こえてすぐに踏みとどまった。

 ……俺の無駄な反射神経の良さが恨めしく思えてしまう。
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