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一日目(その九)
しおりを挟む(えっと、目の前の彼はタマキくんで、さっきの黒髪の彼は……双子の、弟?)
スッキリとした顔立ち、切れ長の目、通った鼻筋、涼しげな口元。さっきあんなに近くで見たのだ、間違いない。そこにあるのは、やはり同じ顔だ。
「そんなに似てる?」
ジロジロ見すぎてしまったかもしれない。タマキくんの言葉にハッとなる。
「ごめんなさい。……そうね、髪の毛以外はそっくりに見えるわ」
「ふふ、だよねー。そう言われるのは嬉しいけど」
「ところで……タマキくんって言ったわね。それで黒髪の彼、あなたの弟さんは今どこにいるの?」
「錬? 出かけてるよ」
背もたれ部分に今度は両手を置くと、まるで小さな子どもがお馬さんゴッコをやるように、椅子を前後に揺らして答える。
(レン? 彼の名前?)
「ここは……あなたたちの家なの?」
「うん、そうだよ。錬はね、おねーさんを連れて帰ってきたんだけど、すぐにちょっと出かけるって出ていった」
先ほどからの『おねーさん』という表現にくすぐったい気持ちになるが……ここは冷静に。
(他に誰か……ご家族とかはいないのかしら? 大声を出してみる? いや、誰かいればとっくに来てるか。それに、この部屋がワンルームマンションなのか戸建てなのか、それすらもわからない。……とにかく彼は、今ここにいない。タマキくんは彼ーーレンから、どう話を聞いているのだろう。だって……気絶した女性を連れて帰ってきて、手錠でつないでそのまま出かけたのよね? ……うーん)
タマキくんは変わらず椅子を揺らし、少し手持ち無沙汰にしているように見えた。
* * * * * *
「あのね、タマキくん。私……彼に勝手にここに連れてこられたんだけど」
「うん」
「あー、彼は、レンくんはなにか言ってた?」
「ううん、別になにも言ってなかったよ。ただ帰ってきて、おねーさんをこうして出ていっただけ」
(……うーん、どうしようか?)
意を決して直球でいってみる。
「あのね、タマキくん。これ、外してくれないかな?」
そう言って頭の上の手錠を見ると、タマキくんは困った顔をして答える。
「うーん、でもさー、勝手にそんなことしたら、錬に怒られると思うんだよね」
「そこをなんとかお願いできない? だって私、自分の家に帰りたいもの」
彼はしばらく考えていたが、椅子から立ち上がると私に近づき手を伸ばしてくる。
(よかった。外してくれそう?)
伸ばした彼の右手が手錠に伸びたかと思うと、急に進路を変え、私の鎖骨の真ん中あたりにその長く綺麗な指先が触れた。
(えっ?)
タマキくんは先ほどまでの無邪気な雰囲気とは一変し、真面目な大人の表情で指先をそのままツツ……と下に下ろしていき、そしてシャツのひとつめのボタンでピタッと止めた。
「タ、タマキくん……?」
「おねーさんさ、ダメだよ帰りたいなんて言っちゃ」
そう言いながら、ボタンをひとつひとつ外していく。
「えっ、タマキくん、待って!」
彼の予期せぬ突然の行動に足をバタバタさせて抵抗を試みるが、長い足で両腿を押さえられると——もう、動けなくなる。
「だっておねーさん刑事なんでしょ? ここから逃がしたら、錬を捕まえちゃうじゃん?」
「えっ、そんな、そこまでは考えてなか……あっ、やだ、やめて……」
* * * * * *
あっという間に全てのボタンが外されると、今度はその手が胸元に戻りシャツの襟元を勢いよく開く。
「⁉︎」
シャツの下はもう、ブラ付きのタンクトップがあるだけだ。
すぐにタマキくんの右手が、タンクトップの裾からツッと入ってくる。
「や、やだ! タマキくん、やめて、お願い!」
「えー、いいじゃん。せっかくだし、楽しもうよ」
そう言うと、少しずつ裾をまくり上げながらタマキくんの右手が私の体をまさぐり始めたーーと、その時、
「ガチャッ」
どこかで扉が開いた音がした。
するとタマキくんの手がピタッと止まる。
「チェッ、もう出ちゃった」
大人の表情が消えると、悪戯っ子のように軽く口をすぼめた。
「環、なにしてんの?」
部屋の奥からタマキくんと同じ声がする。
声の主は、白のTシャツにグレーのパーカーとスウェットパンツ姿、そして濡れた髪をタオルで拭きながら、その姿を現した。
「あなた……」
それは黒髪の彼、レンだった。
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