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一日目(その十一)

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「えっとー、わかればいいのよ、わかれば。あー、そしたらとりあえずこれ、外してくれる?」

 わざと手錠の音を立てて、レンを見る。
 レンは椅子から立ち上がると、その手が手錠に伸びる。

(おー、なんだかスムーズな展開。これでやっと解放されるのね)

 安堵と喜びがこみ上げる。

「あー、これね。ユリが刑事だからさ、やっぱ手錠だよなーと思って、環のを借りたんだ」

 そう言うと、なにごともなかったように椅子に座った。

(いきなり名前呼び捨てかーい。そしてタマキくんのなんだね、これ。いや、違う違う、そうじゃない)
「あのね、そうじゃなくて手錠を外してって話を……ひあぁっ!」

 レンがいきなりみぞおちにキスをした。

「ちょ、ちょっとやめて! なにするのよ!」
「くっくっ。アンタさ、なんでそんな色気のない声ばかり出すの?」
「か、関係ないでしょっ、そんなの。そんな話じゃなくて今、き、キス……お腹に……」
「いやー、乱暴にして悪かったなと思って」
「だからそういうことじゃなくて、これを外してって言ってるの!」
「やだよ、そんなの。外したらアンタ帰んだろ?」
「当たり前でしょ。もういいかげんに帰して」
「ダーメ」
「なにをそんな子どもみたいなことを……」

 そこでふと、考える。

(そうか、そうだ。二十代なんてまだまだ子ども。もっとわかりやすく教えてあげないとダメなんだね)
「あのね、さっきからなんども同じ話でアレだけども、アナタがやっていることはね、とてもイケナイことでーー」

 諭すように話し出すと、彼はなぜかとてもニコニコしている。
 そんな彼が私にこう言った。

「ユリ、さっき言っただろ? 見てもないのに、勝手に胸が小さいって決めつけるなって」
(ん? うん、言った。確かに言ったけど、それがなにか?)

 レンは、とても、ニコニコ、している。

「……えっとー」

 あー、なんだか、とても、いやな、予感が、する……

「あのぉ……? まさか、よね?」

 レンはこの日一番のニヤリ顔で、いきなり私の上に馬乗りになった。


   * * * * * *


「レン、やだ! やめて!」
「へー、いいな。アンタに名前で呼ばれるの」

 そう言って馬乗りになったまま、しばらく私の顔をジッと見ている。

「……?」

 彼の手がツッと脇腹に触れる。

「っん」

 その手が少しずつ上に上がってくる。

「レ、レン。やめ……」
「ユリさー。言ってたじゃん? この後予定ないって、のんびりするって」
「へっ?」
(な、なんだ突然)

 レンは真面目な顔で私を見ている。

(えっと、予定? 休みの? 確かに家でゆっくりのんびりするって言ったけど)
「まあ、そう、ね?」
「日曜日まで休みなんだろ? まだあと三日もあったら暇だよな」
(な、なに、一体なにを言いたいの、この子は)
「暇というか、家のことをいろいろやったりとか……ひあっ!」

 レンの指先がタンクトップの中に入ってきた。

「レン、やだ……」
「暇だったらさ、このままここに泊まっちゃえば?」
「はあっ⁉︎   なにを……」
「だからー、四連休なんだろ? 今日から三泊四日でさ、ここに泊まればいいじゃん」
「あの、アナタ、なにを言ってるんだかよくわからないんだけ……あっ!」

 指先が中で動く。

「どうする? 泊まる? もし泊まるならユリが嫌がることは一切しないから安心して。けど、もしこのまま帰りたいって言うならーー」

 レンの両手がゆっくりとタンクトップの裾にかかる。

「⁉︎」
「胸の確認をしておかないとね」

 そう言って彼は、とても可愛くにっこりと笑ったのだった。

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