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三日目(その六)
しおりを挟むあー、またやってしまったのかも。
だって、カッコいい錬の隣にいる自分が……ひどく貧相な気がして。
そんなことを考えながら目を閉じ、上を見上げていると急におでこが生温かくなる。
「ひゃっ」
慌てて目を開けると、錬がペットボトルを持って立っていた。
「ほら、あったかい飲み物がいいんだろ? ユリは」
そう言って温かいミルクティーを差し出してくれる。
「それでよかった?」
「うん、ありがとう」
錬の優しさに、また少し、胸が熱くなった。
「さて」
錬は持っていたバスケットをテーブルに乗せ、蓋を開ける。すると、中にはなんとも見事なサンドウィッチが並んでいた。
「えー、なにこれ、すごい! もしかして……環くんの手作り?」
「ああ、アイツ、朝から張りきって作ってたぞ」
ロースハム、チーズ、スクランブルエッグにカツまで、いろいろある! 彩りでレタス、キャベツも忘れていない。
しかも可愛いクッキングシートでひとつずつ包まれていて、食べやすくしてくれてあるのがまた嬉しい。
「うそー、すごいよ、すごすぎるぅ」
そしてサンドウィッチに紛れて、チョコがトッピングされたカップケーキが入っている。
「あー、これ、もしかして昨日作った蒸しケーキかなあ」
昨日はふたりの様子がおかしいことに気を取られ、すっかり忘れていた。
「ふふ、これもやっと、食べられる」
「じゃあ、食べるぞ」
「うんっ!」
環くんのサンドウィッチもケーキも、食べるとなぜだかほんわか温かく感じた。
* * * * * *
おいしくサンドウィッチをいただいた私たちは、もう一度露店を通って帰ることにした。
「ねー、錬。なんで今日、環くんは来なかったの?」
「昨日、環とユリがふたりきりだったろ? だから、今日は俺とふたりで出かけてこいって」
「ふーん、そう」
環くんなりに、またいろいろ考えを巡らせてくれたのかな。
ふと、右手に感触を感じる。錬の左手だ。
気のせいか、来たときよりも強くギュッと握られている気がする。
顔は見れない。恥ずかしい。
それに、なにか変なことをして嫌われたら怖い。
どうしよう、錬のことが、愛おしくて仕方ない。
ーーん? 愛おしい?
いやいや、おかしいおかしい。おかしいからね!
自分でツッコミを入れたーーそのとき。
「誰かーっ! 助けて! 引ったくり……私の、バッグ……」
近くで女性の声が聞こえた。
「なんだ、今の」
錬が私を庇うように前に出る。
アレだっ!
錬を押しのけ走り出す。
「おいっ、ユリ!」
一台の自転車が、猛スピードでこっちに向かって走ってくる。
運転している男の手には、先ほどの声の女性から奪ったであろう、ショルダーバッグが握られている。
「ユリ、待てって!」
すぐに追いついた錬が肩を引き止める。
「錬、危ないから下がって……」
そう言いながら、ふと錬の手元が目に入るーー
「これ貸してっ!」
「えっ⁉︎」
サンドウィッチの入っていたバスケットを奪い取ると、思いっきり錬を突き飛ばす。
「離れててっ!」
数メートル先でバランスを崩した錬が叫ぶ。
「……っ、ユリ! 危ないっ!」
「どけーっ、そこの女!」
自転車がぶつかるーーその瞬間、タイミングを間違わないように素早く避けると、手にしたバスケットを思いっきり振り回した。
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