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三日目(その十九)
しおりを挟む錬、どうして私に泊まれって言ったの?
なんで、私を連れてきたの?
環くんは、どうしてそんなに優しいの?
小悪魔なんて嘘、天使に思えるよ。
ーー彼らは、眩し過ぎる、私には。
とめどなく、涙があふれてくる。
あー、これは、彼らへの愛おしさの証拠かな。
どうしよう……錬が、環くんが、愛おしくてたまらない。
ーーだから……このまま……
帰ろう、自分の家に。
ひとりぼっちのあの部屋に。
このまま連絡せずに、別れよう。
私が一日早くいなくなったところで、彼らにはなんの影響もない。
向こうは、珍しいおばさんの刑事をからかっていただけ。
ただ……それだけだもの。
部屋に残っている荷物は、時間が経てば捨てられるだろう。
環くんに買ってもらったスカートが部屋にあるけれど、それもきっと『ああ、そんなものか』と、捨てられて終わる。
今、着ている錬の上着は……私が処分しよう。
錬。
環くん。
彼らは、受け入れてくれた、こんな私を。
三泊四日だけの限定。
私、嬉しかったんだ。
錬が泊まれって言ってくれて。
環くんが私に優しくしてくれて。
そのままの私を……認めてくれた気がして。
「…………っ!」
あー、あー、あー、もう。
彼らに会いたい。こんなにも、会いたい。会いたいよ。
でも、会えないよ……
会ったらもう、離れたくなくなる。
勘違いして、ずっと一緒にいたくなる。
そんな恥ずかしいこと、したくない。
ばかげている。二回り以上も年の離れた若い子を、好きになるなんて。
もう、遊びの時間は終わりなのに。
* * * * * *
涙を拭き、立ち上がる。
錬の上着は……やっぱり後で送ろう。住所は調べればわかる。
残っている荷物は、もう全部、捨ててもらえばいい。買ってもらったスカートも、もう、いいのだ……
ベンチの上のペットボトルやチョコレートを回収していると、いきなり懐中電灯でその身を照らされる。
(えっ! まずい……誰? 見廻り? それともご近所さん?)
「ユリ、ちゃん……?」
聞き慣れた声がする。
灯りが少し下げられると、相手の顔が見えた。
環くん! そして、隣には錬!
「ユリちゃん! 心配してたんだよ。連絡くれないから」
環くんの言葉を全部聞き終わらないうちに、ペットボトルを放り投げ、駆け出していた。
「ユリちゃん⁉︎」
「ユリ!」
後ろでふたりの声がする。
なんで? なんで、ふたりがここに?
逃げなきゃ。もう会わないって決めたのに!
「ハアッ、ハアッ」
息が上がる。少し休んだだけでは、おばさんの体力は戻らない。
っていうかっ! 若いふたりに敵うわけないじゃんっ!
「ユリ、待てって!」
最初に追いついたのは錬だ。すぐに腕を掴まれて抱き寄せられる。
「ユリちゃん、どうして逃げるの?」
すぐに環くんが追いつくと、ふたりに囲まれ逃げ場がない。
「ハアッ……なんで……ここに……?」
肩で息をしながら尋ねる。
「なんでって。ユリちゃんから連絡がこないから、とりあえず近場を探してみようって……」
環くんが答える。
「近場……?」
「気づいてないのか? ここは昼間来た公園だぞ」
錬が言った。
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