11 / 17
川と海をまたにかけて
第三話
しおりを挟む
「琴音。男の子と川に入るってどういうことなの?」
コモチは二人が川に入ってからの一部始終を知っていて見守っていたが、約束を破ったことには変わりはない。そのことに関しては母としてきちんと話しをしなければと、戻った琴音に口を開いた。
「漱くんともう会えなくなるから、最後に漱くんがしたいことしたかったの」
「どんなことであれ、約束は約束よ。これから水の中を出ることを禁じます」
「いいもん。私海に出るから」
きっぱりといった琴音に、コモチは川と海の違いを説明し、私たちの肌には合わないと説明する。
「私たちは、川に住む精霊なんだから海には行けないのよ。海水は私たちを焼き、数分ともたずに海水に溶けてしまうの」
コモチの話しは大げさだと、琴音は同じ水なんでしょと軽く考える。
その日からコモチは琴音から目を離さないように常に気を張っていた。
琴音はいい子で過ごし、母の目が離れる隙をうかがい川を下ろうと考えていた。
ある日琴音にとって絶好のチャンスが訪れる。コモチは琴音がおとなしすぎると思いながらも気が緩んでしまい、たまった疲れからうたた寝をしてしまった。
琴音はお母さんの言葉が本当かどうか確かめるだけだと思いながら海に向かった。
淡水に徐々に海水が混じっていく水質の変化に、琴音は遠くまで来たという興奮から気がつかないうちにどんどん塩の濃度は上がっていく。
塩は琴音を徐々に蝕んでいた。白い肌はどんどん赤くなり、綺麗な青色は服も髪もくすんでいった。
変化に気づいた頃にはそこはもう川から離れた海の中だった。息切れとは思えない程呼吸がし辛くなって、琴音は泳ぐのを辞める。
喉を押さえ、息をしようとするのに苦しくなるばかり。体は熱く、突き刺さるような痛み。それでも、引き返そうと思えば琴音は泳げたはずだった。
琴音にとって水の中は安全な場所だ。その水の中で苦しくなっている状況に琴音はパニックを起こし動けない。涙を溢れさせることしかできない。
「琴音!」
このまま私は水に溶けちゃうのかな。苦しい怖い。そんなことを考える琴音にコモチの声が届いた。
声の方を振り返った琴音の目に、コモチが猛スピードで泳いでくるのが見える。近づけば近づくほど、琴音とは比べものにならない速さでぼろぼろになっていく母に、琴音は恐怖を感じる。
私よりも先にお母さんが溶けていなくなってしまう。
琴音の元にたどり着いたコモチは、琴音をしっかりと抱きしめて川に引き返す。
塩の濃度が下がるとともに、コモチは泳ぐスピードを落としていく。それでも、琴音をしっかり抱きしめたままコモチは泳いだ。
息も絶え絶えでコモチは家にたどり着き、自分よりも琴音の手当てを先に始める。
「どうしてもというなら、水の精霊王様に頼んだらなんとかしてくれるかもしれない」
琴音の傷を手当てしながらコモチはいった。
「川から出るともう、戻ってこれなくなると思うから、せめて、もう少しお母さんに時間を頂戴。その先、琴音と会えなくなるとしても、お母さん我慢するから。琴音の為どんなことでも、協力するから」
いいながら、いつのまにコモチの頬には涙が伝っていく。
琴音は自分のせいで母がボロボロになってしまったことと、母が泣いていることがショックで何もいえなかった。
手当てを終えたコモチは寝込み、その看病を琴音は一生懸命にし、完治した後も母から離れなかった。
川の外への憧れ、漱との約束。
何日、何か月、何年。月日が流れても琴音は忘れることはなく、気持ちを押し込めるのは辛く、何もすることがない時にはぼーっと過ごしていた。
コモチはそんな琴音の気持ちを察して、興味ないという演技をする琴音に独り言のように海のことを話した。
海に出ると、私にはもう会えない。戻れるほど甘くはない。
そういうコモチにそれなら海に出た後、失うものないなと琴音と思う。
水の精霊王に会えて、たとえ海に出られる体を手に入れたとしても、海と陸、二人が住む世界は違う。
その話しを聞きながら琴音は、それなら人間になりたいと思う。
会う段取りはなんとかしてあげるからね。
この川の女王とはいえ、コモチにそんな力、人脈があると琴音は信じていないまま時は流れた。
琴音は十五になろうとしていた。
「一週間後に水の精霊王に会えることになったから、心の準備だけしておいてね」
突然のコモチの言葉に頭の上にクエスチョンマークを浮かべる琴音。
「そろそろいい時期かと思って話しをつけてきたのよ」
今朝ちょっと川下の方へ出がけてくるわといって出かけたコモチ。夕方に帰ってきてなんでもないことのようにいう母の言葉を、琴音は理解するのに時間がかかった。
「えっ、でも、お母さん……」
自分の意志を無視してここで跡を継ぐといおうとする琴音を、コモチは首を振って止める。
「行きたいなら行きなさい。お母さんのことは気にしなくていいから」
コモチの目力に本心を見透かされているような気がして、琴音は頷きこの川の外へ出ることを決めた。
コモチは二人が川に入ってからの一部始終を知っていて見守っていたが、約束を破ったことには変わりはない。そのことに関しては母としてきちんと話しをしなければと、戻った琴音に口を開いた。
「漱くんともう会えなくなるから、最後に漱くんがしたいことしたかったの」
「どんなことであれ、約束は約束よ。これから水の中を出ることを禁じます」
「いいもん。私海に出るから」
きっぱりといった琴音に、コモチは川と海の違いを説明し、私たちの肌には合わないと説明する。
「私たちは、川に住む精霊なんだから海には行けないのよ。海水は私たちを焼き、数分ともたずに海水に溶けてしまうの」
コモチの話しは大げさだと、琴音は同じ水なんでしょと軽く考える。
その日からコモチは琴音から目を離さないように常に気を張っていた。
琴音はいい子で過ごし、母の目が離れる隙をうかがい川を下ろうと考えていた。
ある日琴音にとって絶好のチャンスが訪れる。コモチは琴音がおとなしすぎると思いながらも気が緩んでしまい、たまった疲れからうたた寝をしてしまった。
琴音はお母さんの言葉が本当かどうか確かめるだけだと思いながら海に向かった。
淡水に徐々に海水が混じっていく水質の変化に、琴音は遠くまで来たという興奮から気がつかないうちにどんどん塩の濃度は上がっていく。
塩は琴音を徐々に蝕んでいた。白い肌はどんどん赤くなり、綺麗な青色は服も髪もくすんでいった。
変化に気づいた頃にはそこはもう川から離れた海の中だった。息切れとは思えない程呼吸がし辛くなって、琴音は泳ぐのを辞める。
喉を押さえ、息をしようとするのに苦しくなるばかり。体は熱く、突き刺さるような痛み。それでも、引き返そうと思えば琴音は泳げたはずだった。
琴音にとって水の中は安全な場所だ。その水の中で苦しくなっている状況に琴音はパニックを起こし動けない。涙を溢れさせることしかできない。
「琴音!」
このまま私は水に溶けちゃうのかな。苦しい怖い。そんなことを考える琴音にコモチの声が届いた。
声の方を振り返った琴音の目に、コモチが猛スピードで泳いでくるのが見える。近づけば近づくほど、琴音とは比べものにならない速さでぼろぼろになっていく母に、琴音は恐怖を感じる。
私よりも先にお母さんが溶けていなくなってしまう。
琴音の元にたどり着いたコモチは、琴音をしっかりと抱きしめて川に引き返す。
塩の濃度が下がるとともに、コモチは泳ぐスピードを落としていく。それでも、琴音をしっかり抱きしめたままコモチは泳いだ。
息も絶え絶えでコモチは家にたどり着き、自分よりも琴音の手当てを先に始める。
「どうしてもというなら、水の精霊王様に頼んだらなんとかしてくれるかもしれない」
琴音の傷を手当てしながらコモチはいった。
「川から出るともう、戻ってこれなくなると思うから、せめて、もう少しお母さんに時間を頂戴。その先、琴音と会えなくなるとしても、お母さん我慢するから。琴音の為どんなことでも、協力するから」
いいながら、いつのまにコモチの頬には涙が伝っていく。
琴音は自分のせいで母がボロボロになってしまったことと、母が泣いていることがショックで何もいえなかった。
手当てを終えたコモチは寝込み、その看病を琴音は一生懸命にし、完治した後も母から離れなかった。
川の外への憧れ、漱との約束。
何日、何か月、何年。月日が流れても琴音は忘れることはなく、気持ちを押し込めるのは辛く、何もすることがない時にはぼーっと過ごしていた。
コモチはそんな琴音の気持ちを察して、興味ないという演技をする琴音に独り言のように海のことを話した。
海に出ると、私にはもう会えない。戻れるほど甘くはない。
そういうコモチにそれなら海に出た後、失うものないなと琴音と思う。
水の精霊王に会えて、たとえ海に出られる体を手に入れたとしても、海と陸、二人が住む世界は違う。
その話しを聞きながら琴音は、それなら人間になりたいと思う。
会う段取りはなんとかしてあげるからね。
この川の女王とはいえ、コモチにそんな力、人脈があると琴音は信じていないまま時は流れた。
琴音は十五になろうとしていた。
「一週間後に水の精霊王に会えることになったから、心の準備だけしておいてね」
突然のコモチの言葉に頭の上にクエスチョンマークを浮かべる琴音。
「そろそろいい時期かと思って話しをつけてきたのよ」
今朝ちょっと川下の方へ出がけてくるわといって出かけたコモチ。夕方に帰ってきてなんでもないことのようにいう母の言葉を、琴音は理解するのに時間がかかった。
「えっ、でも、お母さん……」
自分の意志を無視してここで跡を継ぐといおうとする琴音を、コモチは首を振って止める。
「行きたいなら行きなさい。お母さんのことは気にしなくていいから」
コモチの目力に本心を見透かされているような気がして、琴音は頷きこの川の外へ出ることを決めた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。
希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。
手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。
「このまま死ぬのかな……」
そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。
そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。
試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる