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過去と現実の重なるところ
第4話
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早く忘れなさい。外の世界であったことなんだし。
やっと泣き止んで全部話した私にそういってくれたミソカ。
忘れればいいんだ。そう簡単なことではないけれど、平和な川でミソカと過ごすうちに辛いことは薄れていった。
人間になる必要がなくなったのでピアスを返そうとした。お守り代わりに着けてなさいと大事なものを預けてくれていることが嬉しかった。
何をしていても男を思い出す時期を過ぎて、あの出来事を忘れる日も多くなってきた頃、体調がおかしいことを私は見て見ぬふりをしている。
心なしかお腹が膨らんできている気がして、産卵の文字がかすめたけれど、精霊は産卵なんてしない。
大きくなってくるお腹に気づいたミソカもそう思ったみたいで、しばらく川を出るわといって色々調べてくれた。
戻ってきたミソカは、川の精霊の産卵などの前例は見つからなかったけれど、おそらく身ごもっていて、お腹の子が出てくるまではどうしようもないと教えてくれる。
あの男の人との子ども。そう考えるだけで胸が痛んだ。膨れていくお腹に不安しかない。
ミソカはそれから毎日私のお腹を愛でる。私よりもその成長を気にしている。
その姿を見ているうちに、愛してもいいのかと思うようになった。お腹の中の子とあの男はもう関係ない。
自然から生まれ出る精霊とは違い、お腹で動くわが子は異質なものかもしれない。それでも、私たちに望まれてこの世に生まれることができるんだ。
産んでしっかりと育てる。そう決めてからは、この子が外に出てくるのが楽しみになった。
「ねぇ、名前何にするの?」
体が重くなりほとんど動かない生活をしだしてから、ミソカは今まで以上におしゃべりをしてくれている。
「うーん、まだ決まってないわ。私たち川の精霊にはない習慣だし。ミソカならどんな名前を贈るの?」
いつから私はコモチだったのか覚えていない。いつの間にか私はコモチだった。ミソカの世界では親から子どもが生まれてくるのは当たり前で、その時に名前を初めての贈り物とするらしい。
「私はね、人間の世界にすごく好きな楽器があるの。琴っていうのだけど、昔海辺で女の人が奏でているのを隠れて聞いていて、あの時間はとても幸せだった。その琴の音色で琴音なんて素敵だと思わない? でも、私たちの世界じゃ受け入れられないような名前でしょ?」
決められた人と結婚する世界では贈り物も自由に選べないみたいだ。
「それなら、この子に贈って欲しいわ。半分人間なんだから問題ないでしょ」
私の言葉にミソカの顔が輝きだす。
「いいの? 贈る! 琴音ちゃん早く顔を見せてね」
そういいながらお腹を撫でるミソカ。
「まだ男の子か女の子かわからないじゃない。琴音くんかも」
「私にはわかる。きっと琴音ちゃんよ。コモチに似てかわいい女の子」
そういったミソカの勘は当たっていて、その会話の数日後に私は死ぬほど苦しんで元気な女の子を産んだ。
三人の生活は目まぐるしく、駆け抜けるように日々が過ぎていく。
子育てをする世界から来たミソカの記憶を頼りに、琴音が無事に大きくなっていく手助けをする。
私よりも異質な存在に、他の精霊は寄り付かないだろう。私みたいな思いはさせたくない。そう毎日思っていた。大きくなったら琴音は一人になってしまうかもしれない。
大きくなる不安もミソカがいるから大丈夫だろうと思えた。
私たちはここでずっと平和に暮らすのだ。それを疑うことはなかった。
よくしゃべり、自由に泳ぎ回れるようになった琴音をミソカに任せて川の見回りに出る。帰れば二人に笑顔で出迎えられて、私は毎日幸せな日々を送っている。
「ただいま」
「お母さん、おかえりなさい!」
帰ってきた私を見て飛びついてきた琴音。出迎えてくれたのは琴音だけだった。
「ミソカお姉ちゃんは?」
ちゃっかりとお姉ちゃんと呼ばせているミソカ。
「ちょっと用事ができたからってさっき出かけたよ。琴音はいい子でお留守番してた!」
にこにこと見上げてくる琴音の頭を撫で、どこか胸騒ぎを感じていた。ミソカに何かあったのでは? その疑問はどんどん膨らむ。
私はかがんで琴音のあの男の人に似ている瞳を見つめた。
「お母さん、ミソカお姉ちゃん探しに行こうかと思うの。もう少しお留守番できる?」
琴音はこくんと頷く。
「いい子にしてたら三人で遊べる?」
首をかしげる琴音に大きく頷き、
「なるべく早く帰ってくるからね」
ともう一度頭を撫でて私は外へと出た。
探そうとは思ったものの、どこから探せばいいのかわからない。
あてもなくさまよっていると、岩陰から人の話声が聞こえた。
こっそり覗いてみるとそこには、見かけたことのない精霊とミソカが向かい合っている。
二人の間には大きな泡。よく見るとその泡には顔が浮かんでいる。
「人間……子ども……。……あってはならない……」
聞こえてくる単語から琴音のことを話しているのだろうということがなんとなくわかった。
「黙って……禁忌……見逃すわけには……」
泡の人が話し終わったのか、ここまではっきりきこえそうなため息をミソカは吐く。
「どうしろというのですか?」
ミソカの声ははっきりと聞こえた。
「わかって……だろう? 女王の椅子……見逃す……」
目をつぶっては息を吐き出し、ミソカは心底嫌そうに言葉を紡ぐ。
「わかりました、女王陛下。その椅子に私が座れば見逃してくれるのですね。二人に何もしないと約束してくれるのですね」
泡が消えて知らない精霊は泳ぎ去った。ミソカはしばらく立ち尽くしている。
私と琴音を守るために。ミソカは嫌だといっていた場所に帰るということなのだろうか。
盗み見をしていたことがばれないように、私はミソカが動き出すよりも早く家へと向かう。頭の中はミソカのことで一杯だった。
やっと泣き止んで全部話した私にそういってくれたミソカ。
忘れればいいんだ。そう簡単なことではないけれど、平和な川でミソカと過ごすうちに辛いことは薄れていった。
人間になる必要がなくなったのでピアスを返そうとした。お守り代わりに着けてなさいと大事なものを預けてくれていることが嬉しかった。
何をしていても男を思い出す時期を過ぎて、あの出来事を忘れる日も多くなってきた頃、体調がおかしいことを私は見て見ぬふりをしている。
心なしかお腹が膨らんできている気がして、産卵の文字がかすめたけれど、精霊は産卵なんてしない。
大きくなってくるお腹に気づいたミソカもそう思ったみたいで、しばらく川を出るわといって色々調べてくれた。
戻ってきたミソカは、川の精霊の産卵などの前例は見つからなかったけれど、おそらく身ごもっていて、お腹の子が出てくるまではどうしようもないと教えてくれる。
あの男の人との子ども。そう考えるだけで胸が痛んだ。膨れていくお腹に不安しかない。
ミソカはそれから毎日私のお腹を愛でる。私よりもその成長を気にしている。
その姿を見ているうちに、愛してもいいのかと思うようになった。お腹の中の子とあの男はもう関係ない。
自然から生まれ出る精霊とは違い、お腹で動くわが子は異質なものかもしれない。それでも、私たちに望まれてこの世に生まれることができるんだ。
産んでしっかりと育てる。そう決めてからは、この子が外に出てくるのが楽しみになった。
「ねぇ、名前何にするの?」
体が重くなりほとんど動かない生活をしだしてから、ミソカは今まで以上におしゃべりをしてくれている。
「うーん、まだ決まってないわ。私たち川の精霊にはない習慣だし。ミソカならどんな名前を贈るの?」
いつから私はコモチだったのか覚えていない。いつの間にか私はコモチだった。ミソカの世界では親から子どもが生まれてくるのは当たり前で、その時に名前を初めての贈り物とするらしい。
「私はね、人間の世界にすごく好きな楽器があるの。琴っていうのだけど、昔海辺で女の人が奏でているのを隠れて聞いていて、あの時間はとても幸せだった。その琴の音色で琴音なんて素敵だと思わない? でも、私たちの世界じゃ受け入れられないような名前でしょ?」
決められた人と結婚する世界では贈り物も自由に選べないみたいだ。
「それなら、この子に贈って欲しいわ。半分人間なんだから問題ないでしょ」
私の言葉にミソカの顔が輝きだす。
「いいの? 贈る! 琴音ちゃん早く顔を見せてね」
そういいながらお腹を撫でるミソカ。
「まだ男の子か女の子かわからないじゃない。琴音くんかも」
「私にはわかる。きっと琴音ちゃんよ。コモチに似てかわいい女の子」
そういったミソカの勘は当たっていて、その会話の数日後に私は死ぬほど苦しんで元気な女の子を産んだ。
三人の生活は目まぐるしく、駆け抜けるように日々が過ぎていく。
子育てをする世界から来たミソカの記憶を頼りに、琴音が無事に大きくなっていく手助けをする。
私よりも異質な存在に、他の精霊は寄り付かないだろう。私みたいな思いはさせたくない。そう毎日思っていた。大きくなったら琴音は一人になってしまうかもしれない。
大きくなる不安もミソカがいるから大丈夫だろうと思えた。
私たちはここでずっと平和に暮らすのだ。それを疑うことはなかった。
よくしゃべり、自由に泳ぎ回れるようになった琴音をミソカに任せて川の見回りに出る。帰れば二人に笑顔で出迎えられて、私は毎日幸せな日々を送っている。
「ただいま」
「お母さん、おかえりなさい!」
帰ってきた私を見て飛びついてきた琴音。出迎えてくれたのは琴音だけだった。
「ミソカお姉ちゃんは?」
ちゃっかりとお姉ちゃんと呼ばせているミソカ。
「ちょっと用事ができたからってさっき出かけたよ。琴音はいい子でお留守番してた!」
にこにこと見上げてくる琴音の頭を撫で、どこか胸騒ぎを感じていた。ミソカに何かあったのでは? その疑問はどんどん膨らむ。
私はかがんで琴音のあの男の人に似ている瞳を見つめた。
「お母さん、ミソカお姉ちゃん探しに行こうかと思うの。もう少しお留守番できる?」
琴音はこくんと頷く。
「いい子にしてたら三人で遊べる?」
首をかしげる琴音に大きく頷き、
「なるべく早く帰ってくるからね」
ともう一度頭を撫でて私は外へと出た。
探そうとは思ったものの、どこから探せばいいのかわからない。
あてもなくさまよっていると、岩陰から人の話声が聞こえた。
こっそり覗いてみるとそこには、見かけたことのない精霊とミソカが向かい合っている。
二人の間には大きな泡。よく見るとその泡には顔が浮かんでいる。
「人間……子ども……。……あってはならない……」
聞こえてくる単語から琴音のことを話しているのだろうということがなんとなくわかった。
「黙って……禁忌……見逃すわけには……」
泡の人が話し終わったのか、ここまではっきりきこえそうなため息をミソカは吐く。
「どうしろというのですか?」
ミソカの声ははっきりと聞こえた。
「わかって……だろう? 女王の椅子……見逃す……」
目をつぶっては息を吐き出し、ミソカは心底嫌そうに言葉を紡ぐ。
「わかりました、女王陛下。その椅子に私が座れば見逃してくれるのですね。二人に何もしないと約束してくれるのですね」
泡が消えて知らない精霊は泳ぎ去った。ミソカはしばらく立ち尽くしている。
私と琴音を守るために。ミソカは嫌だといっていた場所に帰るということなのだろうか。
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