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疾風怒濤 その3
しおりを挟む森の宿営地では黒葬傭兵団の団長ロイムが部下からの報告を聞いていた。
身長は2メートルを超える大男で、顔は無数の傷とひげで覆われている。
「略奪に行った別動隊が帰ってこないだと?」
「へい。あんまり遅いんで様子を見に行かせましたが、襲撃予定の村にはガイアの騎士団がいました。おそらく別動隊は奴らにやられたんでしょう」
ロイムは腕組みをして考える。
「なんという騎士団かわかるか?」
「紋章から聖百合十字騎士団と判明しやした」
「聖百合十字騎士団……ああ!」
「ご存知で?」
ロイムはニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。
「ガイアの貴族の子弟を集めた、青二才の集団らしいぜ。戦場のお飾りってやつさ」
「なるほど!」
この手の騎士団は敵国オスマルテ帝国にもあるようで、説明を聞いた部下は納得したようにうなずいた。
「しかし、うちの別動隊が全滅させられるとは思ってもみなかったな。たしか数は少ない騎士団だと聞いていたが」
「偵察の報告では500人規模らしいです」
「500か……。油断しているところを包囲でもされたな」
戦力差が五倍ともなれば全滅もあり得る話だ。
まさかたった一人の司祭に100人近い傭兵が討ち取られたとは想像もできまい。
「どうしますか?」
「もちろん借りは返す」
「ですが、オスマルテ本陣から帰還命令|《きかんめいれい》がでていますよ?」
「ハッ、命令なんざクソくらえだ! 俺たちはガイアの騎士団をぶっ潰しに行くんだぜ。誰にも文句は言わせね
え」
「そりゃあそうだ。じゃあ、奴らがいる村を再襲撃しますか?」
ロイムの顔に邪悪な笑みが浮かんでいた。
「お上品な女騎士様たちに俺の跡継ぎをたくさん産んでもらおうじゃないか!」
「そいつはいいや! 次期傭兵団長が騎士様の子ならハクがつくってもんでさぁ」
「よし、散らばっている別動隊を集めろ。数がそろったら出発するぞ」
「へい!」
ロイムは地図を広げて襲撃方法を考えた。
この男は粗暴で冷酷だったが、バカではない。
5000人を超える傭兵団を一代で築く知能も持ち合わせていたのだ。
村の地形を頭に入れたロイムは懐から黒いオーブを取り出した。
呪われたマジックアイテムで『魔降臨のオーブ』と呼ばれる代物だ。
オーブは暗い紫色に輝き、表面には数字が浮かんでいる。
1万人の生贄を悪魔に捧げることによって、魔界の力が装備者の身に宿るのだ。
ロイムはこれまで、黒葬傭兵団を使って幾多の戦場で暴れてきた。
オーブの表面の数字は64。
あと64人を血祭りにあげることによって儀式は完成される。
おそらく、聖百合十字騎士団との戦闘によって。
◇
救護活動が進む村の中を通って、神官服に着替えた俺はズコット・フィッチャーを見舞った。
「傷の具合はどうだ?」
「これは兄上様……神官様?」
俺は苦笑してしまう。
「本当は酒保商人じゃなくて神殿の司祭なんだ。で具合は?」
「いただいた薬のおかげですっかり回復しました」
見た目は良好のようだ。
「うん、体の方はいいみたいだな。ただ、問題は心の方だ。死にかけるほどの戦闘をした者は心にも傷を負う」
「はあ……」
「今は自覚がないかもしれないが、こういうのは後からくるんだよ」
戦闘後遺症などとよばれ、激戦区の兵士がかかりやすい心理的障害だ。
魔法の爆裂音を聞いただけで動けなくなったり、酷い悪夢で眠れなくなったりと、弊害は様々な形であらわれる。
疲弊した精神を癒すのは神官の仕事なので、わざわざ着替えてやってきたというわけだ。
「今日はよく頑張ったな」
「いえ……、地獄のような光景を見たら、何かしないではいられない気持ちになりまして……」
「そうか……。騎士ズコット・フィッチャー、そこに跪きなさい。神の代理人としてあなたに祝福を授けます」
治癒魔法は使えない俺だけど、神聖魔法における高位呪文『祝福』は得意なのだ。
これを使えば人々の憂いを軽くし、生きる活力を与えることができる。
心の傷もある程度までなら癒せるだろう。
結構な量の魔力を消費するから、一日に数人が限度だけど、フィッチャーは優秀な騎士だ。
いずれは聖百合十字騎士団の中核を担う人材である。
ミリアのためにも今のうちにしっかりとケアして、戦線を離脱することがないようにしておくつもりだった。
祝福が終わるとフィッチャーはホッと小さなため息をついた。
「心身が軽くなりました。ありがとうございます、兄上……神官様」
もう、どっちでも好きに呼んでくれって感じになっている。
「じゃあ、俺はそろそろいくよ。村人たちの葬儀の準備もあるんだ」
傭兵団の襲撃で多くの村人が殺された。
村の神官も死んでしまったので、代わりに俺が執り行うことになったのだ。
「兄上様、少しよろしいですか?」
フィッチャーがそわそわと話しかけてきた。
「村を襲っていた傭兵団ですが、黒葬傭兵団だったようです」
「うん、それは俺も気が付いた。何か気になることがあるのか?」
「奴らは何かの儀式のために、住民を惨殺していたようなのです」
「儀式?」
「はい、そのような話を何度か耳にしました」
黒葬傭兵団は悪魔崇拝のカルト集団という報告があったな。
奴らならそういった儀式もやりかねない。
大抵は大規模魔法や悪魔降しが目的となるのだが、さて……。
「ありがとう、良く教えてくれた」
俺はフィッチャーと別れて、葬式の準備をするために村の神殿へと足を向けた。
薄暗い礼拝堂に入るとリーンが俺のことを待っていた。
「行ってきましたよ。黒葬傭兵団はここから10キロちょっと南の森の中で野営をしていました」
「ご苦労さん」
村の傭兵たちを一掃した後で、リーンとシルバーに様子を探ってきてもらったのだ。
リーンは人馬の足跡をたどって、すぐに黒葬傭兵団の宿営地を見つけてきてくれた。
「あいつら、兵を集めていましたよ。どうやらこの村に再襲撃に来るみたいです」
「そうか……。これから葬式の予定だったんだが、そうも言っていられなくなったな」
「葬式って、クロードさんがやるんですか? 似合わねえっ!」
「うるさいなあ」
似合わないことは自覚している。
じっさいに執り行うのは、まだ助祭だったころ以来だ。
「ちゃんとできるんですかぁ?」
「司祭になるときに研修でやったんだよ。一応、葬儀の段取りは覚えている……」
あんまり自信はないけど。
「リーンも手伝えよな。女神官の服もこの神殿の中にあったぞ」
「私もっ!? もしかして、コスプレをお望み?」
「コスプレじゃなくて葬式だ! だいたい、リーンだって本物の助祭だろう? 神官服が俺以上に似合わないけど」
「あっ、ひどいっス! 絶対に似合うもん。ギャップ萌えでムラムラ来ること間違いなしですよ。なんならここで試します?」
「礼拝堂でくだらないこと言うなよ。それよりも応戦の準備が先だな」
黒葬傭兵団が攻めてくる前に防御態勢を整えなければならない。
「戦闘前は特にムラムラするんですよねぇ、アンッ」
「胸を揉みしだくなっ!」
俺はガニ股で身悶えしているリーンを神殿に残し、ミリアの元へと向かった。
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