『真実の愛』というのはどんなものなのか教えていただけますでしょうか?

葉月くらら

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後編

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 それからしばらくして、幼児虐待の疑いでハーディング子爵家は地位を剥奪されマリーのウィンストン伯爵家の配下となった。
 子爵家の地位はティナが成人したら戻されることになっている。それまでティナはウィンストン家で養育されることになった。それはハーディング子爵家が田舎だがいくつか特産物のある豊かな農地を持っていたから、という大人の事情もあった。
 もちろんマリーとルイ王子、そしてアンリは純粋な気持ちでティナを助けようと動いてくれたのだが。

「それでルイ殿下は?」
「婚約破棄騒動で国を騒がせた罰で、今は辺境の地に飛ばされて開拓をがんばってるみたいだよ。結局マリーともアンリとも別れたんだって。真実の愛ってのがわかるまで誰とも付き合わないんだって」
「そうなんですか……。ルイ殿下は真実の愛を見つけたっておっしゃっていたのに」

 ウィンストン邸の広大な庭にある東屋でティナは一人の少年とお茶をしていた。
 ティナより少し年上の利発そうな美少年がのんびりと微笑む。

「そう思い込んでいただけみたいだよ」
「そうなんですか。真実の愛って難しいんですね、セシル殿下」

 彼はルイの弟で第四王子のセシルだ。
 あの夜会の夜、彼も実は会場内にいた。そして後日、ウィンストン邸で養育されることになったティナの元にやってきたのだ。

「そうだね。その瞬間は見つけたと思っても、それが真実かどうかわかるのはずっと先なのかも」
「本当に。……でも私はルイ殿下はあれこれ言われていますが感謝しています。だって私を助けてくださったから」
「マリーとアンリはあの後、不思議と意気投合して悩める子供が駆け込める協会を立ち上げたんだっけ」
「はい。私のように家族から虐待を受けたり、悩んでいる子供達を助けるための場所を作りたいとおっしゃっていました」

 ティナも大きくなったら手伝うつもりだ。
 幼い頃、両親に見捨てられ祖父母にもただの跡取りの道具として見られ生きてきたティナは人の温かさを知らなかった。
 けれどウィンストン邸ではマリーをはじめ、周囲の人々は皆優しくしてくれる。おかげでやせ細っていたティナは少しずつふっくらとした健康的な美少女になっていた。

「それにしてもティナは勇気があるよ。あの場面で声を上げることができたんだから」
「……私の窮状を訴えるにはもうあの場面しかないと思ったのです」

 早く金になる良いところの婿を見つけて来いとまだ早すぎる夜会にドレスを着せられて無理やり放り込まれたあの夜。
 まだ小さなティナを相手にしてくれる男性などもちろんいない。せいぜい誰かの子供がついて来たのだろうと思われるくらいだった。
 そんなときあの修羅場が始まったのだ。
 そしてルイの『真実の愛を見つけた』という言葉を聞いて、思わずティナは声を上げていた。
 そんなものあるはずないと心のどこかで思っていたからかもしれない。そこには少しばかりの反発心と、自分を助けてほしいという縋るような気持ちがあった。そして意外にも修羅場を演じていた三人はティナに手を差し伸べてくれた。

「まあ僕も本当にどうしようもないと思っていた兄上にも良いところがちょびっとはあると知ることができて良かったよ」

 頬杖をついてセシルが笑う。
 兄については色々思うところがあったらしいが少しは見直したようだ。

「私は恵まれています。こうやって助けていただいたのですから」
「ティナは大変な目に遭ったのにとても謙虚だね」
「そんなことはないです。皆さんに感謝しているんです」

 ティナが大変な目に遭ったのは周囲の大人達のせいだ。けれどティナを助けるために動いてくれたのもまた周囲の大人達だった。
 世の中には色々な人達がいるし簡単には善悪で測れないのだということをティナは知った。

「僕は勇気があって謙虚なティナのことをとても素敵だと思うんだけどな」
「え?」
「ところで僕は第四王子だ。王子も四人目ともなると結構自由でさ」
「はあ……確かによくこちらにいらしてますもんね」

 急にセシルが妙なことを言いだした。
 夜会でのティナの突飛な行動を気に入ったらしいセシルはなぜかしょっちゅうウィンストン邸を訪れていた。自分などと話して楽しいのだろうかとティナはいつも不思議だった。

「君が大人になったらハーディング子爵領を継ぐだろう? そしたら僕も付いて行きたいんだ」
「え……」
「僕も正直『真実の愛』なんてわからないよ。だけどそれなら二人でその『真実の愛』を見つけるまで一緒にいないかい?」



 こうして数年後、ティナは成人すると共にセシルと結婚しハーディング子爵となった。
 二人は五人の子を産み育てながら子爵家の領地を守り穏やかに暮らした。もちろんその間には喧嘩もしたしあわや離婚かというような大騒ぎにもなった。けれども二人は別れることはなかった。
 晩年は子爵の地位を子に譲り二人は小さな屋敷で穏やかに過ごした。

「ティナ。『真実の愛』は見つかったかい?」
「ええ、確かにここに」

 ベッドに横たわる老いたセシルの手を握りながらティナは微笑んだ。
 真実の愛など知らぬ少女だった。
 そんなものが本当にあるのかすら懐疑的だった。
 けれど今は確かにそれがあると感じられる。
 それはセシルと共にティナが守り育ててきた大切な宝物だ。

「私はたくさんの人に助けられ守られてきたわ。そしてセシル、あなたと一緒にいたから見つけることができたの。あなたとすごした日々こそが私の……」

 セシルは言葉もなくほほ笑むだけだ。
 でもそれで充分だった。
 誰に何と言われようともティナは『真実の愛』を見つけたのだ。
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