笑顔を忘れた令嬢とほほ笑みの花~追放された田舎でなぜか王子様とスローライフを満喫しています~

葉月くらら

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26話 二度目の舞踏会

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 優雅な楽団の旋律が流れる会場の中、コーデリアは緊張しながら歩いていた。



(なんだか視線を感じるわ)



 周囲の人々がチラチラとこちらを見ているのだ。別に嫌な感じはしないが少し不安になる。

 カレンのドレスやヘアメイクのおかげで外見は大丈夫だろうが、緊張しているせいで歩き方や態度がおかしかったりするのだろうか。

 アルフレッドはこの姿を見てどう思うだろうか。

 勢いでアンカーソン村を飛び出して会いに来てしまったけれど大丈夫だろうか。今更ながらに自分の思い切りの良さに驚いた。



「お姉様……!?」



 ふと聞き覚えのある甲高い声に顔を上げると、ダイアナが目を丸くして立っていた。鮮やかな金の髪を高く結い上げ真っ赤なドレスを着たダイアナは会場の中でも目立っていた。美しく化粧を施した顔を歪ませてコーデリアの前へと近づいてくる。



「ダイアナ」

「そ、その恰好は一体……いえ、昨日から見かけないと思ったら本当に舞踏会に来るなんて往生際が悪いわね!」

「コーデリア!? どうしてあなたがここに……」



 人混みの中からダイアナを追ってイザベラが現れた。今回は彼女の家族として一緒に参加しているようだ。イザベラもダイアナもコーデリアの姿を見て困惑しているようだった。上から下までコーデリアを忙しなく見て悔しそうに顔を歪ませる。



「で、出て行きなさい! 笑顔もできずいつも陰気臭い顔ばかりのくせにこの様な場に出てくるなんて我がクローズ家の恥さらしです!」

「そうよ! それによく見ればそのドレス、以前の物を手直ししたの? ふん! 大したものじゃないじゃない! ちょっと綺麗にかざりつけたからって……」

「待って」



 いつもの調子でわめきたてる母娘にコーデリアはまっすぐに二人を見据えた。大抵のことは流そうと思っていたがどうしても許せないことがあった。



「このドレスは私の大切な友人が心を込めてリメイクしてくれたものよ。大したものじゃないなんて、言わないで。訂正してダイアナ」

「な……な、なによ! お姉様のくせに!!」

「コーデリア! 謝りなさい!」

「お義母様も落ち着いて、周囲をご覧になってください」



 コーデリアに反論されたことなど人生で初めてのダイアナは顔を真っ赤にして取り乱した。それはイザベラも同様だ。しかし今の騒ぎで周囲の人々の視線が三人に集まってしまっていた。コーデリアの言葉にイザベラは我に返って周囲を見まわし真っ赤になってダイアナの肩を抱いた。



「ダイアナ、落ち着きなさい。コーデリアの挑発に乗るんじゃありません。大丈夫、選ばれるのはあなたなんだから」

「お、お母様……!」

「『ほほ笑みの花』を咲かせるには笑顔になれなければ意味はないのだからね」



 にやりとこちらを見つめてイザベラが嫌味のように囁いた。もちろんコーデリアにも聞こえているが、特に何も思うことはない。自分は何を言われてもいいのだ。ただ、カレンががんばってリメイクしてくれたドレスを貶されたのは許せなかっただけで。

 涙目でこちらを睨みながら去っていくダイアナとイザベラを見送ってこっそりと溜息をついた。

 できれば会場では会いたくなかったがしかたない。



「ご静粛に! 国王王妃両陛下、そしてアルフレッド王子殿下の御入場です」



 国の大臣の声にざわついていた会場が一瞬静まり返る。

 会場の奥の間から国王と王妃、そしてアルフレッドが現れた。

 その後ろにはガラスケースに入った大きな蕾のついた鉢植えを従者が持って歩いていく。



(アルフレッド様……!)



 久しぶりに見たアルフレッドの姿に胸が高鳴る。遠目ではどんな顔をしているのかはよくわからないけれど。男性貴族の正装である赤い服に黒いマントを身に着けたアルフレッドはまるで物語に出てくる王子のようだ。



(まあ、本当に王子様なのだけれど……)



 自分の発想が恥ずかしくて頬を赤くする。まだコーデリアの存在に気がついていない様子のアルフレッドはそのまま王族の椅子に腰かける。なんとなく不機嫌そうに見えるのは、国王に騙されて無理やり舞踏会に参加させられているからだろう。

 病気のはずの国王はとても健康そうだ。





「皆様、こちらにお集まりください」



 前回の舞踏会の時と同様に大臣がガラスケースに入った『ほほ笑みの花』を慎重に舞踏会のホールの中心へと移動させた。



「こちらが『ほほ笑みの花』でございます。こちらを咲かせることができた方こそ時期ウォーレン王国継承者であるアルフレッド殿下のお相手となる資格がございます」



 ……前回はあの花の前に立つことがコーデリアは恐ろしかった。

 それは周囲に嘲笑され蔑まれることが怖かったからだ。



(だけど今は怖くない)



 緊張は相変わらずしているけれど。だってひさしぶりにアルフレッドと対面できるのだからそれはしかたない。

 クローズ家を追い出されてアンカーソン村へ行き、コーデリアは様々なことを知った。懸命に働くことの楽しさ、助けてくれる優しい人達、そして自分を信じ大切にすること。不器用で時に考え無しなコーデリアのそばにいつもいてくれたのはアルフレッドだった。

 

「クローズ伯爵家、ダイアナ嬢」



 何人かの令嬢が『ほほ笑みの花』の前に立ったがいまだ誰もその花を咲かせる者はいない。そんな中胸を張ってダイアナが『ほほ笑みの花』の前に立った。離れた場所で見守っているイザベラも扇で口元は隠しているが自信があるのか悠然と佇んでいる。

 けれどやはりいつまで経っても蕾が開くことはなかった。



「ダイアナ嬢、下がってください」

「そ、そんな! ちょっと待ってよ! どうしてよ!?」

「ダイアナ!」



 時間切れのようで大臣に無情に言われたダイアナは取り乱した。今にも『ほほ笑みの花』につかみかかりそうだったところを衛兵たちに捕まり引き剥がされる。イザベラが慌てて飛んで行った。

 そして大臣は次の名前を呼んだ。



「クローズ伯爵家、コーデリア嬢」

 

 ざわりと周囲がざわめく中、コーデリアは前に進み出た。イザベラが何か言いたそうに睨んでいたが、ダイアナを押さえるので手一杯のようだ。

 コーデリアはゆっくりと顔を上げた。

 そしてはっとする。



「コーデリア……?」



 アルフレッドが呟いた。

『ほほ笑みの花』の向こう側にはアルフレッドの姿があった。



(アルフレッド様、私はあなたが私を支えてくれたように、あなたのそばにいて支えたい)



 こちらを呆然と見つめるアルフレッドの前に『ほほ笑みの花』を挟んでコーデリアは佇んでいた。
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