笑顔を忘れた令嬢とほほ笑みの花~追放された田舎でなぜか王子様とスローライフを満喫しています~

葉月くらら

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27話 ほほ笑みの花

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(……そういうことなのね)

『ほほ笑みの花』の向こう側にはアルフレッドの席があった。
 コーデリアの姿に驚いて立ち上がった彼を見つめて思う。
 彼と離れてからたった数週間だというのに会えない日々はとても長く感じた。そして今、目の前にアルフレッドがいてくれることがとても嬉しい。
 きっととても驚いているだろう。

(アルフレッド様、会いに来てしまいました)

 アルフレッドをまっすぐに見つめてコーデリアはほほ笑んだ。
 それは作り物の笑顔ではなく心から自然と浮かんできたものだった。
 そんなコーデリアを呆然と見つめていたアルフレッドもやがて笑みを浮かべた。少し困った様な、嬉しさを隠しきれなくて溢れてしまうようなそんな笑顔だった。
 そのとき周囲が急にざわめきだした。
 後ろに控えていたユージーンが目を丸くしている。

「『ほほ笑みの花』が……」
「……蕾が」
「うそ」
「まあ……!」
「見ろ、花が」
「おお、これは王妃様の時と同じだ!」

 はっとしてコーデリアも『ほほ笑みの花』に視線を移した。ガラスケースに入った蕾の周囲にきらきらとした光の粒が浮かび上がる。やがてゆっくりと蕾が開き大きな白い花が咲いた。
 やっぱり、とコーデリアは思った。
 グレンダの言葉を思い出していたのだ。

『あの花の蕾はね、人の想いで花開くのよ』

 相手を愛しく大切に想う気持ちに蕾が反応して咲くのだと。
 そして『ほほ笑みの花』の前に立った時その理由がよくわかった。『ほほ笑みの花』の向こう側にはアルフレッドがいた。
 この花は妃候補のほほ笑みで咲くのではない。
 お互いを愛しく大切に想う人の気持ちが重なった時に咲くのだろう。

「『ほほ笑みの花』が咲きました! ……クローズ伯爵家のコーデリア嬢、あなたがアルフレッド様の婚約者です」
「そんな……!」
「仮面の令嬢ではなかったの?」
「あんな美しい方だったかしら」
「これはおめでたい!」
「おめでとうございます!」

 動揺する令嬢達もいたがやがて会場中から拍手が沸き起こった。
 驚いて周囲を見まわしていたコーデリアの手をいつの間にか近づいてきたアルフレッドが取った。

「コーデリア」
「アルフレッド様……!」

 いざ目の前にすると何を言おうとしていたのか頭から飛んでしまった。緊張して俯いたコーデリアをアルフレッドが引き寄せる。きゃあっと周囲から悲鳴が上がった。

「……やっぱり君の笑顔は世界で一番綺麗だ」
「あ、アルフレッド様」
「ありがとう、コーデリア」

 アルフレッドの言葉にコーデリアは涙ぐむ。
 それからそっと彼を見上げた。
 今日この場所へ来たのは伝えなければならないことがあるからだ。

「……アルフレッド様、私は、あなたが好きです。おそばにいさせてください」

 本当はもっとたくさん伝えたいことがあったのに、やっとのことで言葉にできたのはそれだけだった。過ぎた願いだとはわかっているけれど、願わずにはいられない。アルフレッドの鮮やかなコバルトブルーの瞳をまっすぐに見つめた。
 なぜか涙がぽろぽろと零れて止まらない。せっかくカレンがメイクしてくれたのに台無しだ。
 そのときもう一度アルフレッドが強くコーデリアを抱きしめた。

「ああ、もちろんだ」

 コーデリアの前にアルフレッドが跪いた。
 そして静まり返る舞踏会の会場の中、コーデリアの手を恭しく取る。

「コーデリア・クローズ伯爵令嬢。どうか俺と結婚してほしい」

 プロポーズだ! と周囲がわっと盛り上がる。中には絶望の悲鳴を上げている令嬢達もいたが。
 じっとこちらを見上げるアルフレッドにコーデリアは微笑んで手を重ねた。

「……はい。喜んで」

 その瞬間止まっていた楽団の音楽が鳴り響きポンポンとクラッカーが鳴った。アルフレッドもそれは知らなかったのか驚いて目を丸くしている。

「一体なんなんだ?」
「ご存じないのですか? 次期国王の妃が決まったのですからお祝いですよ! この後は無礼講です」

 ぽってりとした腹の大臣がご機嫌な様子で教えてくれた。
 どうやらこれも代々の伝統らしい。
 呆気に取られている二人をよそに周囲はすっかりお祭りムードだ。

「やっとアルフレッドも愛する人を見つけたか。本当に良かった!」
「まあ、陛下。こんなところで泣いてはいけませんよ」
「父上、母上……」

 近づいてきた国王と王妃の姿にコーデリアは慌てて姿勢を正す。涙ぐんでいる国王を王妃が苦笑しながら支えていた。

「そう、あなたがコーデリア嬢だったのね。アルフレッドから話は聞いていましたよ。心に決めた人がいるって」
「え?」
「母上!」
「あら、ウフフ。いいじゃないの。晴れて『ほほ笑みの花』を咲かせることができたんだから」

 真っ赤になったアルフレッドに朗らかな少女のように王妃がほほ笑んだ。コーデリアも釣られて頬を赤く染めた。

「アルフレッドをよろしく頼みます」
「……はい! こちらこそ、不束者ですがよろしくお願いいたします」

 王妃の言葉にコーデリアは深く礼をする。
 周囲の人々からはお祝いの言葉がたくさん飛んできた。

「おめでとうございます、王子!」
「おめでとう!」
「おめでとうございます。お二人とも!」
「くやしい! でもおめでとう!」

 意外と素直な言葉も飛んできて、カレンは都会の貴族とは話が合わないなんて言っていたけれど実はそんなことも無いんじゃないかとコーデリアは思った。つい少し前までお行儀よくしていた令嬢がワインを煽っているし一緒に参加していた家族らしき男性も楽しそうに踊っていた。
 突然のお祭り騒ぎに呆然としていたアルフレッドとコーデリアはやがて二人で笑い合った。
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