根暗な魔女はキラキラ騎士様の秘密を知ってしまったわけですが

葉月くらら

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17話 レナルド王子のたくらみ

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「ウィル様に弱みなんてありません」



 弱みじゃなくて秘密はあるけど。

 私の言葉にレナルド殿下はつまらなそうにこちらを見下ろしただけだった。



「ど、どうしてこんなことをなさるんですか。ウィル様のお兄様がジェレミー殿下の側近だからですか」

「その通りだ。ウィルの醜聞でも流れればブラッドの騎士団での立場も悪くなるだろう? 最近ジェレミーは以前に増して生意気だからな。……正妻の子というだけであいつが将来の国王になるなど俺は認めない。だからそれをわからせてやる」

「そうよ。……将来国王になられるのはレナルド殿下がふさわしいです」



 ビビりながらも精一杯聞いてみたら案外簡単にレナルド殿下は話してくれた。私にばれたところでどうにでもなると思っているんだろうな。

 それより驚いたのはマリア様がそっとレナルド殿下にしなだれかかったことだ。

 ど、どういうこと?

 マリア様はそのままこちらを見下ろして得意げに笑った。



「あら、驚かせてしまったかしら? 私はレナルド殿下と婚約しますの。だからもうウィル様なんてどーでもいいのよ」



 唖然とする私をマリア様の腰を抱いたレナルド様が見下ろした。



「まあ、時間はまだあるから手荒な真似はしないでおこう。だが黙っていれば一生ここから出られないぞ」

「そ、そんな」



 そういえば私はどれくらいの間眠っていたんだろう。

 窓が無いからよくわからないけれど、今頃家族が心配しているかもしれない。

 冷たい石の床にじわりと体温が奪われていく。ずいぶん寒いな。もしかしたら地下なのかもしれない。というかここはどこなんだろう。



「素直にウィル様の弱点を教えればいいのよ。あの人気者の騎士様の知られざる顔! ああ楽しみですわ」

「よく考えるんだな」



 ははっと笑ってマリア様を伴ってレナルド様は部屋の脇にある階段を上って行ってしまった。風の流れから行っておそらくあの階段が外へと繋がってるんだろう。

 しんと静まり返った部屋に取り残されて私は寒さで震えていた。

 ど、どうしよう。

 私は暗い牢屋の中で頭を抱えていた。実際には拘束されているから頭は抱えられないけど、気持ち的にってことで。

 まさかレナルド殿下がこんなことをするなんて。早く誰かに伝えないと。

 でもどうやって?

 両手両足にはがっちりと拘束具が嵌めてあるし牢屋の扉にも鍵がかかっている。

 ――ぴちょん。



「!!」



 びっくりした……。

 小さな水音に驚いて飛び上がりそうになってしまった。

 誰もいないし暗いし怖い。

 途端に胸に不安が押し寄せてきた。本当にこのまま一生ここから出られなかったらどうしよう。今日は手荒な真似はしないって言ってたけど拷問とかされたら?

 どうしてこんなことになっちゃうの?

 私なんてただの根暗で地味でオタクな……。



『だから、やっぱり俺は君がいい』



「ウィル様……」



 私はありのままの自分に自信が無くて、もっと違うキラキラした素敵な人になりたくて変身薬を作ろうと思った。だけどウィル様は私がいいって言ってくれた。

 会いたいな、ウィル様に。

 ぶんぶんと無理やり頭を振って不安を打ち消す。

 一刻も早くここから出て、レナルド殿下の陰謀を知らせないと! 私が何も言わなくても捕まってるって知ったらウィル様の不利になる。それだけは絶対阻止したいから。

 何かないかな。何か……ん?

 ポケットに何か固い物の感触を感じて無理やり身体をひねって取り出した。

 変身薬の入った小瓶だ。



「ん……よ、いしょっと」



 拘束されているから瓶の蓋を開けるだけでも一苦労だ。なんとか蓋を開けることには成功したけど瓶が転がって薬が散らばってしまった。今は仕方ない。

 この薬を飲めば拘束からの抜けられて牢屋からも出られる。

 えいっと私は一思いに薬を飲んだ。

 ぽんっと軽い音と共に煙が充満して私はまたあのぬいぐるみの姿になっていた。



「またこのぬいぐるみ……。と、とにかく早く逃げなくちゃ」



 よし、あの階段から……と思ったら目の前に大きな足がどんと降りてきた。



「ほう、これは驚いたな」

「なんですの? これ」

「わ!?」



 がしっと大きな手に鷲掴みにされて身体が宙に浮く。

 出て行ったと思った階段から降りてきたのはレナルド殿下とマリア様だ。

 しまったああぁ……! 変身薬を使うところを見られてしまった。

 隠れて私の様子を見てたんだ。



「お前は魔法薬師だからな。ウィルに協力して何かをしているかと思ったが」



 にやりと笑ったレナルド様にの手の中で私はじたばたともがいた。



「今何かを飲んだな。これは何の薬だ?」



 牢屋の中に散らばった薬を拾ったレナルド様がしげしげと眺めていた。



「今お前はこの薬を飲んだ、ということはこんな面妖な姿に化ける効果があるということか」

「そ、それはその! まだ研究中の薬で、ウィル様は関係ありません!」

「フン、こんなもので何をしようとしていたのやら」



 本当にウィル様には関係ないのに!

 レナルド殿下の手から逃れようともがいてみたけどびくともしない。マリア様からも奇妙な目で見られていた。いきなりこの姿になったんじゃそれは仕方ないか。



「まあいい。お前とこの薬でウィルを揺さぶることができる。俺の方へ取り込めるかもしれないな」

「いいお考えですわ」



 大変だ。このままじゃ私のせいでウィル様に迷惑がかかってしまう!

 タオル地のまったく攻撃力の無いふわふわの両手でレナルド殿下の手を叩いた。



「少々人気があるからと調子に乗っているように見えたからな。あの生意気な若造に身の程をわからせてやらねば。少々見目がいいだけなのだからな」

「ちょっと待ってください!!」



 牢の中に私の声が響いた。

 普段大きな声なんて出したことなかったから自分でちょっと驚いてしまった。ニヤニヤと笑っていた二人の視線が私に向く。



「ウィ、ウィル様はこの薬とは何も関係がありません! それに……ウィル様には弱みなんて無いですし、何1つ恥ずかしいことなんてありません! 紳士で優しくて、本当に素敵な人です! ……見た目がいいだけだなんて何も知らないで……。そ、そんなこと言わないでください!」



 一気に叫んだので乱れた呼吸のままレナルド殿下を見上げた。

 わ、私らしくもなく声を荒げてしまった。ウィル様を悪く言われて腹が立ったんだ。

 けれど次の瞬間すぐに私は後悔した。



「きゅ!?」

「さすがウィルの婚約者だ。俺に意見するとは生意気だな」



 いきなり私を掴んでいた手に力を入れられたのだ。

 胴体をぎゅっと締め上げられて息ができなくなる。隣でクスクスとマリア様が笑っていた。

 く、苦しい。ぬいぐるみでも窒息ってするのかな……なんて考えていた時だった。



「な!?」



 急にレナルド殿下の手に何かがぶつかったような衝撃があった。そのまま私は視界が回転する。レナルド殿下の手から弾き飛ばされた?

 え、ええ!?

 宙を飛んだ私の視界に映ったのは、フワフワの金色をした今の私そっくりのうさぎのぬいぐるみだった。
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