根暗な魔女はキラキラ騎士様の秘密を知ってしまったわけですが

葉月くらら

文字の大きさ
22 / 22

エピローグ

しおりを挟む
 ――ぽん!

 軽い音と煙と共に現れたのはもうとっくに見慣れてしまったあのまぬけなうさぎのぬいぐるみだ。



「……おかしい。どうして何度やってもこの姿になってしまうの!?」



 鏡で自分の姿を確認してとほほと項垂れる。

 変身薬の研究は順調、とは言えなかった。

 最大の障壁が、このぬいぐるみの姿にしかなれないということである。

 レナルド殿下の事件の後、私とウィル様はこの変身薬の件で盛大にお叱りを受けた。

 場合によっては政治的にも犯罪的にも使えそうな効果がある薬。しかも古代魔法を応用して使っているということでどんな副作用があるかわからないからだ。

 今はジェレミー殿下の支援もあって悪用されないよう考えつつ今後のために研究をしている。

 ……とは言っても、変身している時間を延ばすことはできても、なぜか姿はあのぬいぐるみのままだった。

 ウィル様は可愛いと喜んでくれるけど、研究結果としてはダメダメだ。



「ああもう、これじゃあただのぬいぐるみ変身薬……」

「やあ、ハーディング研究員。ちょっといいかな」

「コンラッド教授」



 研究室の教授であるコンラッド教授が古代魔法の本を片手にやってくる。

 ぬいぐるみ姿のままちょこんと立ち上がった。



「この本なんだけど、君の訳してくれたのと、ここの訳が違うんじゃないかと思って」

「え、どこですか……? え? もしかして」

「そう、ここ。誰にでも変身できる薬じゃなくて、このぬいぐるみに変身できる薬、じゃないかな」

「……え、え、え、えええええ!?」



 古代文字で書かれた変身魔法と変身薬の記述を訳した私のノートを指さして、呑気な調子でコンラッド教授が言う。私はノートをひったくって確認してみたけど……た、たしかに違う。

 さらにコンラッド教授がもう一冊古びた本を取り出した。



「それともう一冊、城の図書館の君がこの本を見つけた辺りで古代魔法の本を見つけたんだけど今の君にそっくりじゃないか?」

「こ、これは……!」



 古代に崇拝されていたという豊穣の神の偶像を描いたというその絵は今の私、つまりできそこないのウサギのぬいぐるみにそっくりだった。

 ……つまりこの魔法は豊穣を願う儀式をするために豊穣の神を模した姿になるための魔法、ということ?

 どうりでこのウサギのぬいぐるみにしか変身できないわけだ。

 ぬいぐるみの姿のまま私は腰を抜かしたのだった。





「――というわけで、ってウィル様笑ってません?」

「わ、笑ってない笑ってない。く、ふふ」

「やっぱり笑ってるじゃないですか」



 その日の午後、久しぶりにウィル様とカフェに行こうと歩きながら研究室でのことを話していた。顔を逸らしているけど笑いをこらえて震えてるからバレバレだ。

 まったくひどい。こちらは半べそだっていうのに。

 レナルド殿下の事件があって、あらためて私達は正式に気持ちを伝えあってちゃんとした(?)婚約者になった。ウィル様は騎士団の若手として、私も研究者としてしばらく忙しいから結婚はもう少し先になりそうだけど。

 最近のウィル様は以前より少し力が抜けて自然体だ。

 ついにこらえきれなくなったのか声を上げ笑っている。



「ご、ごめん。でもちょっとおもしろくて……」

「もういいですよ。私が最初に訳し間違えたんだし。次は間違えません」

「そうか、じゃああの薬はとっくに完成していたわけか」

「そういうことになりますね……」



 うう、我ながら情けない。

 でもそんなことばかりも言っていられない。だって今は国から許可を貰って支援も頂いての研究なんだからちゃんと結果を出せるようがんばらなくては。

 変身薬の研究は振出しに戻ってしまったけれど。



「ぬいぐるみに変身できる薬か。それはそれですごく良いと俺は思うけど」

「ウィル様は可愛い物が好きですからね」

「またあのぬいぐるみに会いたいな」



 意味ありげに笑うウィル様の頬をいつぞやの時みたいに今度は私が軽くつねってみた。まったく最初はもう少し紳士だったはずだけどなあ。まあウィル様限定でなら今度また使ってもいいかなあ。ぬいぐるみ姿になって喜ばれるのも微妙だけれど。



「いたた」

「もう、ほらカフェが見えてきましたよ。限定の可愛いドーナツを食べるんでしょう?」

「もちろん、そのあとは魔法薬店にも寄るだろう?」

「はい!」



 デートはもっぱら可愛い物巡りと魔法薬店や薬草店。

 街中では目立つウィル様だけど、今ではすっかり皆慣れたのか注目されることもそれほどない。ウィル様も自然体だけれど、たぶん私もそうなのだ。

 のんびりと歩きながら考える。

 最初は根暗でオタクの私が人気者の騎士様と並んで歩くなんて考えられなかった。だけどウィル様は飾らないそのままの私を好きだと言ってくれたから、少しだけ私は自分が好きになれた。ウィル様も同じだったらいいなと思ってる。

 これからもこうやってお互いの好きなものを一緒に楽しみながら過ごしていけたらいいな。

 一人の時も楽しかったけれど、きっと二人ならもっと楽しいから。
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

小澤りかこ
2024.01.15 小澤りかこ

とっても楽しくてほんわかした、優しい気持ちになれるお話でした❗
こういうのが好き!と言う私の好きが満載で、新年から幸せになりました。

初々しい主役二人も好きですが、お姉様とかの方のその後もあったら気になります🎵

2024.01.15 葉月くらら

ご感想ありがとうございます!
楽しんでいただけてとても嬉しいです😊

姉のアメリアにも実は物語があったりするのでいつか書けたらいいなと思います。

解除
yumi424
2024.01.13 yumi424

楽しく読ませて頂きました!
ありがとうございます
あと蛇足ですが12話が2回になってます

2024.01.13 葉月くらら

読んでいただきありがとうございました!

そして12話教えてくださりありがとうございました💦

解除

あなたにおすすめの小説

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

乙女ゲームのモブに転生していると断罪イベント当日に自覚した者ですが、ようやく再会できた初恋の男の子が悪役令嬢に攻略され済みなんてあんまりだ

弥生 真由
恋愛
『貴女との婚約は今夜を持って破棄させて貰おう!』  学園卒業祝いの夜会の場に、凛と響いた王太子殿下の一声。  その瞬間、私は全てを思い出した。  私が前世ではただの手芸とゲームが好きなインドア派女子大生だったこと。そして、ゲーム世界に転生して尚も趣味は変わらず、ライバルキャラですらないモブになってしまっていたことを。  幼い頃に一度出会ったきりの初恋の彼と学園で再会出来たらなぁ、なんて淡い期待を抱いて通っていたのに、道理で卒業式までなんにも起きなかったわけだ。  ーーなんて、ひとり納得していたら。  何故だが私が悪役令嬢の断罪イベントの目撃者として名指しされ、一気に渦中の人物に!?  更に、王太子以外の男性陣は皆様悪役令嬢に骨抜き。なので自然と私には、彼女の潔白に繋がる証言が求められる。  しかしながら、私は肝心の事件の日の記憶が訳あって曖昧だったので、致し方なく記憶を呼び覚ます治療を受けさせられる羽目に。  タイムリミットは1年間。  その1年間の私への護衛につけられたのは、悪役令嬢に心奪われた初恋の彼でした。

料理スキルしか取り柄がない令嬢ですが、冷徹騎士団長の胃袋を掴んだら国一番の寵姫になってしまいました

さら
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢クラリッサ。 裁縫も舞踏も楽器も壊滅的、唯一の取り柄は――料理だけ。 「貴族の娘が台所仕事など恥だ」と笑われ、家からも見放され、辺境の冷徹騎士団長のもとへ“料理番”として嫁入りすることに。 恐れられる団長レオンハルトは無表情で冷徹。けれど、彼の皿はいつも空っぽで……? 温かいシチューで兵の心を癒し、香草の香りで団長の孤独を溶かす。気づけば彼の灰色の瞳は、わたしだけを見つめていた。 ――料理しかできないはずの私が、いつの間にか「国一番の寵姫」と呼ばれている!? 胃袋から始まるシンデレラストーリー、ここに開幕!

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

家を乗っ取られて辺境に嫁がされることになったら、三食研究付きの溺愛生活が待っていました

ミズメ
恋愛
ライラ・ハルフォードは伯爵令嬢でありながら、毎日魔法薬の研究に精を出していた。 一つ結びの三つ編み、大きな丸レンズの眼鏡、白衣。""変わり者令嬢""と揶揄されながら、信頼出来る仲間と共に毎日楽しく研究に励む。 「大変です……!」 ライラはある日、とんでもない事実に気が付いた。作成した魔法薬に、なんと"薄毛"の副作用があったのだ。その解消の為に尽力していると、出席させられた夜会で、伯爵家を乗っ取った叔父からふたまわりも歳上の辺境伯の後妻となる婚約が整ったことを告げられる。 手詰まりかと思えたそれは、ライラにとって幸せへと続く道だった。 ◎さくっと終わる短編です(10話程度) ◎薄毛の話題が出てきます。苦手な方(?)はお気をつけて…!

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。