時の記憶に触れる者

時々

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勇者と魔王

ご都合主義解釈

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 全身がきらっきらしている。それはもうぴかぴかと。
 青年だった。年は25歳くらいだろうか。ユヅキから見ても顔はなかなか整っており、背も高い。しかしその程度なら他にもいるし特段おかしなことではないが、異様だったのは着こんでいる鎧と腰にさしている騎士剣だった。

 戦いにおいて“目”を鍛えることは最優先といってもいいほど重要なもの。相手の力量をみる、相手の行動を先読みする、相手の癖を見つける、魔力の流れを見る。世には“魔眼”なるものが存在し、魔力を鮮明に見たり、相手の心の中をのぞいたりできるらしいが、ユヅキたちにとってはすべて必要ない。とりあえず、ユヅキからしたら地獄にしか見えない修行をマスターに課され、今ではその“目”が狂うことはないと自負も持っているほどに鍛えられている。      
 しかし、ユヅキは今、体験したことがない驚愕を感じていた。“目”が狂ったかと思ったほどだ。
 彼女たちは、初対面の人に会ったらとりあえず大まかなその人物の実力を無意識に図るようにノワールに教え込まれている。このときのユヅキも当然そうした。
 青年に続いて入ってきた3人の女性もついでに見る。
 まず、青年と同じくらいの背の女性は猫耳をはやしていることから獣人だろう。よく鍛えられた肉体、両方の腰に下げられている双剣も使いこまれているし魔物ランクの高いものを素材として使っている。素早さで翻弄するタイプだろう。
 次に杖を持った金髪のツインテールの女性。背は青年より頭一つ分低く、気の強そうな目をしている。魔力量も人族にしては多い。ただ体はあまり鍛えてないらしく、接近戦は苦手そうだ。典型的な固定砲台タイプ。
 最後に、あれは竜人だろうか。青年と同じ黒い髪をポニーテールにまとめ、少したれ目をしている女性。背は金髪ツインテと同じくらい。腰にはマスターの得物でもある刀を差している。この女性が一番強い、と思う。強者の雰囲気をうまく隠しているが歩き方などが洗練されており武人タイプだ。雰囲気はお姉さんという感じだ。
 そこまで考え、ユヅキは青年に視線を戻してみる。体はあまり鍛えられてはいない。マスターのように内側に筋力を集中させているわけでもないようだ。しかし魔力は馬鹿みたいに多い。国の宮廷魔法士の十人分くらいはありそうだ。しかし、戦いの経験は浅い。たたずまい、歩き方が竜人の女性と比べてもお粗末なもの。そして装備に目を向ける。腰に下げている騎士剣、あれはおかしい。この程度の実力の者が持てるようなものでも使いこなせるものでもない。そしてぴかぴか光っている鎧。様々な効果がかかっているようだ。しかし傷が一つもなく新品同様な姿をさらしている。傷一つ負うことなく使い続けているようには見えない。だとしたら買い換えたばかりなのだろうか?それにしても装備と実力と魔力量が恐ろしいほどかみ合っていない。ユヅキとしてはこれほど理解しがたい現象は初体験だった。実力に合っていない装備を纏う危険を理解しているのだろうか?それとも私の“目”では図り切れないほどの強さを持っているのだろうか。
 とりあえず強さを冒険者ランクにしてみると、獣人はA、金髪ツインテもA、竜人はS、青年はS?といったところだ。
 そこまで考え込んでみてふと気づく。彼女は別に最初からかかわるつもりはないのだ。必然、自然と注意は掲示板へと移っていく。しかし意識とは裏腹にユヅキの耳には近くの冒険者たちの声が聞こえてくる。その内容に彼女は思わずまた、青年たちに目を向けてしまった


「おい、あいつらまさか勇者パーティーじゃねぇか?」

「ああ、確か全員SSランクの化け物らしいぞ?」

「マジで!?なんでここにいるんだよ!?」

「闘技大会の申請をここで行っているからだろ。」

「きゃー、かっこいい……」


 あれが勇者?それにしても全員SSランク?かなり盛りすぎではないだろうか。特殊な魔法とか私の知らない能力や魔眼を持っているのだろうか。


 「ん?おお、これはかわいいお嬢さん。あなたみたいな可憐な子供がこんなところにいてはダメじゃないか」


 そしてなんか話しかけられてしまった。


「ちょっとあなた、ユウキが話しかけてるのよ?無視してんじゃないわよ!」


 と思ったら知らない金髪に逆切れされた。


「ま、まさかまたユウキ様は女の子を増やすのでしょうか?ま、今更ですよね、仕方ないです。奴隷であった私を救ってくれたのはユウキ様なのだから私は寛容になるべきです!」


 獣人のヒトに勝手に仲間扱いされた。


「あなた、ここは遊び場ではないですよ。子供が来る場所ではありません」


 竜人に余計なおせっかいをされた。
 というより、私はもう一回鍛えなおした方がよさそうだ。“目”に完全なほころび見つけた気分になった。これだけで何かに敗北した気分だ。鍛えてくれたマスターに申し訳が立たない。
 
 ユヅキはあまりのショックに肩を落として出入り口の扉に向かって言った。前にいた彼らをガン無視して。
 
 このときこの国を拠点としている冒険者は胃が痛くなる思いで成り行きを見守っていた。よそ者が多い今のギルド内でノワールの弟子は目立ちすぎる。下手なちょっかいを出して余計な被害の余波など受けたくないと全員が思っていた。なんで今日に限って滅多に冒険者ギルドになんか来ない孤立ギルド“幻想”のメンバーがくるのだ。そしてなぜか肩を落としてしょんぼり帰ろうとしているユヅキの姿を見て冒険者たちは安堵の息を放つ。中にはその様子を不思議そうな顔で見つめる輩もいたが。
 しかし、空気を読めない勇者が一人。冒険者たちは勇者の肩書を持つ青年が通り過ぎるユヅキの肩に手をかけるのを見て、そして一瞬ユヅキの表情に浮かんだ感情を読み取って、勇者に心の中でこう叫ぶのだった。バカヤロー!!と。

 ……は?理解できない。私の肩に手がのってる。マスターの手じゃない。気持ち悪い感じがする。私が愛しているマスターとは似ても似つかない、嫌悪感しか湧かない感じ。
 これ、私、殺ってもいいよね?だって私の体はマスターだけのものだから。頭の先から足の先まですべてマスターのもの。体に触ってもいいのはマスターだけ。ほんの一瞬、ユヅキから漏れ出る殺気。反応できたのは―


「おう、そこにいるのはノワールのところのお嬢ちゃんじゃないか。こんなところで何をやってるんだ」


 冒険者ギルド本部の頼れるマスター、苦労人ことガラクだけだった。慌てて飛び出してきたことが容易にわかるほど息が切れていたが。


「変な奴に絡まれていたのなの」

「威勢のいいお嬢さんだね。勇者である僕に物怖じしないとは、背伸びがしたい年ごろなのかな?」

「とりあえずここは冒険者ギルドのマスターであるこのガラクが預かろう。いったい何の話をしていたんだ?」

「ああ、僕は勇者と呼ばれているユウキという。ちょっとこのお嬢ちゃんを仲間に歓迎しようとしていてね、話をしていたんだよ」


 そのユウキとかいう名前の言葉でガラクは全てを理解した。突っ込みどころしかないが、いや突っ込みを待っているのだろうか?そのうえで言いたいことがあったのでガラクは面倒くさそうに言葉を放つ。


「それは無理な話だろう。嬢ちゃんはすでにギルドに入ってるし、そう簡単に他のところに入れるわけがない」


 ギルドを離れることは容易ではない。パーティーとは違い、強固な結束があるのがギルドと呼ばれるもので、それはもう一つの家族と呼べるものなのだから。抜けるときはやむを得ない事情がある場合のみ。引き抜き行為なんても
ってのほか。やるとしてもリーダーを介してが常識。だが返ってきたのは予想のつかない返事だった。


「僕が誘っているんだ、光栄なことだろう?どこに断る理由があるというんだい?」

「……私は、マスター以外のヒトと一緒にいるつもりはないのなの。それに雑魚は私の前から早く消えろ、なの。」


 ユヅキの放った言葉は文字通り、その場の空気を切った。鎮まる室内、しかしその沈黙は人それぞれみな違うものであったが。ユヅキがマジ切れしていることに気づき顔を真っ青にしているもの、小さな子が大の大人に辛らつな言葉を吐いていることに驚いているもの。そして、目の前に屈辱で震えている勇者一行のようなもの。


♦♦♦


―静謐の森―


「って言うことがあったのなの!」


 孤独ギルド“幻想”のリビングに手ユヅキの声が響く。ノワールはここまでのユヅキの話において、闘技大会に出る羽目になった理由がわからなかった。案の定、コハクから疑問の声が上がる。


「それで?姉さん、そこからどうして闘技大会に出ることに?」

「よくわからないけどそのあと、私がマスターの奴隷だと勘違いされたのなの!」

「は?なんでそうなるのです?」

「あなたはマスターとかいう奴に脅されているんだね?とか言われたの。話が突然すぎて意味わからなくて別種の恐怖すら感じたのなの」


 ノワールはここまで聞いて全てを察した。おそらく間違っていないはずだ。それは勇者特有の思考回路。患ってしまうのはほんの一部の勇者だけだが。ユヅキたちが分からなくとも無理はない。アイは知っているため苦笑いをしているが。


「お前ら、そこは考えても無駄だ。それは“ご都合主義解釈”といわれる病気だ。自分が常にただしいと思い込み、それ以外は都合よく自分の良い方向に考える、一種の勇者特性のようなものだ。たまにその病にかかる奴がいるのさ。とりあえず一般的には理解できない考え方だからあまり深く考えなくてもいい。ユヅキはあれだろ?たぶんそのあと、君は洗脳されてるんだとか言われ、次の闘技大会でお前のマスターを叩き潰して洗脳を解いてやるからな、とか言われてむきになって帰ってきたんだろ?」


「マスターはやっぱりすごいのなの!その通りなの。あいつらそろいもそろってマスターのことをけなしてきたのなの。雑魚には格の違いを見せつけておくべきなの」

「というかマスター、そんな病があるのですか?怖いですね……」

「コハクちゃん、それはだいじょーぶだよ!勇者とか一定の貴族にしかかからない病気だから」

「ん。にぃに、せんのうなんかしてない」

「そうなのなの!だからマスター、出場の許可、出してほしいのなの!」

「………わかった。ほどほどにな」


 ノワールは殺気立つ弟子たちの様子をみてそう答えるしかなかった。
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