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第6章 あなたは私の宝物
2. 陣営の幕間
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ザハブルハーム王国王都より西に20㎞に位置するナスィーム平野に、我々ベルムデウス帝国軍は陣営を構えている。
ここに至るまでに数々の城や砦を落とし、王都は目前に迫っていた。
おそらく、この平野での戦いが総力戦となり、戦争そのものの勝敗をも決定付けることになるだろう。私は近衛騎士団を預かる身として、何事も滞りなく進めていかなければならない。
「騎士たちの乗る馬の状態ですが……」
部下から報告を受けていたところ――
「これはなんだ!?」
「……」
聞き逃すわけにはいかない人の声が耳に入り、思わず眉を顰める。
「どうぞ、行ってください」
「すまないな……」
我が近衛騎士団は帝国内の優秀な若者を選抜した精鋭部隊だった。武芸に優れているのはもちろんのこと、人柄も重視しているため、気も利かないような愚劣な者はいない。
部下に報告書を預け、騒ぎ声がきこえてくる方へ向かって歩みを進めた。
「一体何事ですか?」
騒ぎの中心にいる人物は赤い甲冑に身を包んだ、ベルムデウス帝国皇帝グラヴィス・ベルムデウス。
そして、君主である皇帝の足元に膝をついたまま動かない二人の兵士と、皇帝を護衛する使命を与えられた我が近衛騎士団の四人の騎士たち。十数人の騎士や兵士たちが事の成り行きを遠巻きにうかがっていた。
「陛下?」
グラヴィスは何やら小冊子のような書物を手に持ち、ページを捲っていた。どこかで見覚えがあるような……
「……ラウルス。これは一体どういうことだ?」
よくよく見てみると、冊子の表紙には小さくタイトルが記されていた。
――あ。
「返してください!」
「は?おまえのものじゃないだろう」
「ですが!陛下のものでもないでしょう」
「皇帝である私に手に入れられぬものがある、というのか?」
「……暴君、という言葉をご存じでしょうか」
「私の辞書には載っていないな。そんなことよりもラウルス、私の質問に答えてもらおうか」
グラヴィスが持っているのは私が書いた小説だった。従者が印刷屋に持ち込み、活版印刷で何部か刷られている中の一冊だ。
経緯はと言うと、休憩時間中に執筆しているのを目敏い従者に見つかってしまったことから始まる。この素晴らしい小説をもっと多くの人に読んでもらえるよう、取り計らせてほしいと懇願されたので、出版を許したのだった。
私の書いた小説は城に務めるメイド達を中心に、兵士や騎士たちにも読まれているらしい。
「これは5巻だ。私は3巻までしか読んでいないぞ。どういうことだラウルス!?」
「大きな声を出さないでください……秘密にすると約束したでしょう」
作者が私だということはもちろん秘密だった。
なぜこの人に知られてしまったのだろうか……頭が痛む……
「……私は怒っているのだぞ、ラウルス」
「陛下に読んでいただけるような出来ではありませんので」
「……私は、読みたいのだ」
「……」
「陛下、閣下。恐れ入ります」
重苦しい沈黙を破ったのは一人の近衛騎士だった。
「お取込み中のところ申し訳ございません。まもなく作戦会議が始まりますので、そちらへご足労いただけますでしょうか」
「陛下はすぐに参られる。先に行って将軍達にそう伝えてくれ」
「かしこまりました!」
騎士は颯爽と駆け出して行った。
「急ぎましょう、陛下」
「ラウルス!話はまだ終わっていないぞ!」
「お話はこの戦に勝ってからにいたしましょう。第一こんなところでする話では……兵らの士気にかかわります」
「……まったく、はぐらかすのが上手いやつだ……」
これ見よがしに溜息を吐くグラヴィス。
やれやれ――……
ここに至るまでに数々の城や砦を落とし、王都は目前に迫っていた。
おそらく、この平野での戦いが総力戦となり、戦争そのものの勝敗をも決定付けることになるだろう。私は近衛騎士団を預かる身として、何事も滞りなく進めていかなければならない。
「騎士たちの乗る馬の状態ですが……」
部下から報告を受けていたところ――
「これはなんだ!?」
「……」
聞き逃すわけにはいかない人の声が耳に入り、思わず眉を顰める。
「どうぞ、行ってください」
「すまないな……」
我が近衛騎士団は帝国内の優秀な若者を選抜した精鋭部隊だった。武芸に優れているのはもちろんのこと、人柄も重視しているため、気も利かないような愚劣な者はいない。
部下に報告書を預け、騒ぎ声がきこえてくる方へ向かって歩みを進めた。
「一体何事ですか?」
騒ぎの中心にいる人物は赤い甲冑に身を包んだ、ベルムデウス帝国皇帝グラヴィス・ベルムデウス。
そして、君主である皇帝の足元に膝をついたまま動かない二人の兵士と、皇帝を護衛する使命を与えられた我が近衛騎士団の四人の騎士たち。十数人の騎士や兵士たちが事の成り行きを遠巻きにうかがっていた。
「陛下?」
グラヴィスは何やら小冊子のような書物を手に持ち、ページを捲っていた。どこかで見覚えがあるような……
「……ラウルス。これは一体どういうことだ?」
よくよく見てみると、冊子の表紙には小さくタイトルが記されていた。
――あ。
「返してください!」
「は?おまえのものじゃないだろう」
「ですが!陛下のものでもないでしょう」
「皇帝である私に手に入れられぬものがある、というのか?」
「……暴君、という言葉をご存じでしょうか」
「私の辞書には載っていないな。そんなことよりもラウルス、私の質問に答えてもらおうか」
グラヴィスが持っているのは私が書いた小説だった。従者が印刷屋に持ち込み、活版印刷で何部か刷られている中の一冊だ。
経緯はと言うと、休憩時間中に執筆しているのを目敏い従者に見つかってしまったことから始まる。この素晴らしい小説をもっと多くの人に読んでもらえるよう、取り計らせてほしいと懇願されたので、出版を許したのだった。
私の書いた小説は城に務めるメイド達を中心に、兵士や騎士たちにも読まれているらしい。
「これは5巻だ。私は3巻までしか読んでいないぞ。どういうことだラウルス!?」
「大きな声を出さないでください……秘密にすると約束したでしょう」
作者が私だということはもちろん秘密だった。
なぜこの人に知られてしまったのだろうか……頭が痛む……
「……私は怒っているのだぞ、ラウルス」
「陛下に読んでいただけるような出来ではありませんので」
「……私は、読みたいのだ」
「……」
「陛下、閣下。恐れ入ります」
重苦しい沈黙を破ったのは一人の近衛騎士だった。
「お取込み中のところ申し訳ございません。まもなく作戦会議が始まりますので、そちらへご足労いただけますでしょうか」
「陛下はすぐに参られる。先に行って将軍達にそう伝えてくれ」
「かしこまりました!」
騎士は颯爽と駆け出して行った。
「急ぎましょう、陛下」
「ラウルス!話はまだ終わっていないぞ!」
「お話はこの戦に勝ってからにいたしましょう。第一こんなところでする話では……兵らの士気にかかわります」
「……まったく、はぐらかすのが上手いやつだ……」
これ見よがしに溜息を吐くグラヴィス。
やれやれ――……
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