某国の皇子、冒険者となる

くー

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第6章 あなたは私の宝物

5. 鼓舞

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見通しのよいナスィーム平野に、両軍の兵らが戦陣を展開し、睨み合っている。
緊張は高まり、今や開戦の合図を待つばかりだった。

堂々たる体格の赤毛の馬に騎乗し、赤銅色の甲冑に身を包んだベルムデウス帝国皇帝グラヴィス。赤い髪を風になびかせ、一糸の乱れもなく整列された陣営の前に躍り出た。

「愛する兵士諸君――」
皇帝陛下が言葉を発すると同時に、味方陣営はしん――と静まり返った。


「諸君らに、今一度問いたい。我々は、なんのために戦うのか――」

陛下の問いに答えるものはいない。みな、一言も聴き逃すまいと耳に意識を集中させ、次の言葉を待っている。

「黄金を奪うためか?蛮族どもめが愚昧なことに、過分な金銀財宝で身を飾り立てている。豚に真珠とはまさにやつらのことだ」
兵士たちから嘲りの笑いが起こる。

「それとも、民を守るためか?蛮族どもはときに我らの同胞を騙し、襲い、殺す。その窮状を訴えるため、玉座の間に訪れる者達の列は途切れることがない。また、無念を胸に為す術なく涙を流し、死を受け入れていった民たちも多くいる」
兵士たちの顔から笑みは消えた。

「では、名誉のためか?勇ましく戦い敵を屠る様は、吟遊詩人たちの詩によって語り継がれるだろう」
敵を倒す己の姿を脳裏に浮かべ、兵士たちの心は奮い立つ。

「そう――我々は我々であるために、戦わねばならない」

グラヴィスは兵士たちの顔を見回し、ひとつ頷き、こう続けた。

「我らの祖先らも我らと同じように、いつの時代も戦ってきた。彼らが今日まで守り紡いできた伝統を、我らの代でも受け継ぎ、歴史を繋いでいこうではないか。我らは征服者であり、自ら恵みを勝ち取る民であるからだ。この地を征服することは、ベルムデウス戦神の国に生まれた我々の悲願であり使命である。この大願成就によって、帝国はより一層の繁栄を遂げるだろう」

我らの心は皇帝の言葉により、今やひとつとなっていた。

「私には聞こえる。諸君らに流れる征服者の血潮が、我らの敵を蹂躙せよと叫ぶ声が――!思い知らせてやると!あの敵の陣営の奥深くに隠れ潜む、臆病者の王の元まで届くほどの大音声で、叫んでいる!!」

――うおおおおおお!!

万を超える兵らひとりひとりの腹から出された叫び声は、空気はおろか大地をも揺るがしている。
敵陣営の最後尾にも、その声は届いていることだろう。



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