某国の皇子、冒険者となる

くー

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第6章 あなたは私の宝物

6. 戦

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戦の始まりは、魔法詠唱者たちの詠唱で幕を開ける。
味方陣営の頭上に魔法障壁が展開されると、槍を持った歩兵部隊が敵軍めがけて一斉に走り出す。弓兵部隊は弦を引き絞り、空に向かって矢を放つ。魔術師部隊の放った攻撃魔法が、魔法障壁にぶつかり、飛散する。放たれた矢も魔法障壁によって弾き返されるが、障壁は衝撃を受け止めた分だけ、効果は次第に弱まっていく。
最初に魔法障壁を破られたのは、ザハブルハーム王国の魔法障壁だった。ベルムデウス帝国の精鋭魔術師部隊と、皇帝自らが強力無比な攻撃魔法を仕掛け、敵の守りの要を打ち破ったのだ。
頭上を守る盾を失った敵軍を、全力で叩く。騎士たちの騎馬部隊が敵の歩兵たちをを蹂躙する。敵後方に陣取る弓兵や魔導師たちには、矢の雨や数多の魔法攻撃を、途切れることなく浴びせ続ける。兵らひとりひとりが、敵兵をひとりでも多く屠らんと戦い続ける。ある者は倒れ、ある者はまた敵との戦いを求め、走ってゆく。
ナスィーム平野に兵士たちの血と肉が、雨のように降り注ぐ――




「どこの隊からも、我が軍が圧倒しているとの報告が入っています。今回は陛下の出番はなし、ということでよろしいですね」
「ち……私が前に出た方がこちらの兵の消耗も少なくできるというのに……」
「毎回あなたが前に出られていては、敵に対策を練られてしまいます……と、何度申し上げれば納得していただけるのでしょうか」
「……」
グラヴィスは答えることなく、空を見上げている。
青く高い空が目の前いっぱいに広がり、前線の喧騒は遠くに聞こえるばかりだった。



「これで、満足するだろうか……あの、は……」

「陛下――これは殺戮ではありません。救済なのです。ですから、あなたが気に病むことはありません」

「……そうだったな」





日の暮れ始める頃にはナスィーム平野の戦いは決し、敵軍は潰走を始めた。散り散りに王都へと逃げ帰ろうとする生き残りたちに追撃を仕掛け、少しでも敵の兵力を削いでおく。後に控える王都攻城戦への備えだ。

「閣下……っ!至急、こちらに目を通していただきたいのですが……」

部下が慌てた様子で持ってきた袋には、赤い宝飾の金細工の首飾りと、折りたたまれた書状が入っていた。

首飾りには不審な点はない。呪物の類ではなさそうだ。
次に、書面にざっと目を通した。

『ベルムデウス帝国皇子ルクス・ベルムデウスはこちらで丁重にお預かりしている。だが、これ以上我らの同胞の血を流させるというのなら、彼は無事ではすまないだろう。こちらの要求はひとつ――軍を退け。   ザハブルハーム王国継承権第十一位ハディール・ニケ・ザハブルハーム』

……そんな、まさか――

「これをどこから?」
「敵地より飛んできたと思われる鴉の足に結わえられておりました」
「王宮に潜り込ませている密偵に、すぐに連絡を取り、情報の正誤を確認させろ」
「はっ!」
「確認が取れるまで、このことはくれぐれも陛下の耳には入れぬよう……」

「ラウルス」

背後から発せられた声は、今だけは最も聞きたくない人のものだった。

「陛下……なぜここに……」

――まったく気配を感じなかった。



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