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4話*
しおりを挟むその夜——セシルの魔術師塔にほど近い沢には、一糸纏わぬ姿で水浴びをするマシューとセシルがいた。
水位が腰の辺りになる場所で、マシューはセシルの背へ折り重なるように立っていた。マシューの泡にまみれた手が、セシルの青白い濡れた肌の上を這い回っていた。今夜はよく晴れている上に満月が近いため、星灯りと月明かりが二人の姿を照らしていた。
「あっ……」
風のない静かな夜はセシルの高い声を予想以上に響かせた。魔術師は羞恥に頬を染めた。
「もっと声、出しちまえよ」
マシューは石鹸にぬるつく指で、セシルの赤く色づいた乳首を摘んだ。
「あっ……あん! や、やだっ……!」
刺激から逃れようと、かぶりを振るセシル。マシューはさらに身体を密着させ、セシルの尻に昂る股間を押し付けた。マシューのそこは痛いくらいに勃ち上がっていて燃えるように熱く、冷たい沢の水ではその熱を冷ますことはできそうにない。
マシューの農作業で荒れた無骨な指が、セシルの両の乳輪をくるりと撫で、ぽってりと膨らんだ乳首を擦る。それから2本の指で引っ張り上げるように摘まれ、セシルは切なげな声を上げた。
「ああっ……!」
「これ好きだろ……セシル」
赤く色づく耳に、マシューは低い声で囁く。過ぎた快楽を逃すように首を左右に振るセシル。水の滴る漆黒の髪が振り乱れ、月明かりの下に青褪めた白い肌へ落ちる様は筆舌しがたい色香を放っていた。
ごくりと唾を飲み込むマシューは、セシルの薔薇色の頬の上に、涙が伝い落ちるのを見た。そのしずくを舐め取りたい衝動を必死に堪え、マシューは胸への愛撫を再開する。
「もうっ……やめ、ろっ! さっきから、そこばかり……」
マシューは手を止めず、セシルの耳へと囁き返す。
「そこってどこ?」
形の良い耳が、羞恥で一気に赤く色づく。
「…………むねだっ」
蚊の鳴くような声で答えるセシルに、マシューの嗜虐心はより一層煽られた。
「胸……? 胸だったら俺にもあるけど、こんな赤くていやらしい色なんてしてないぜ」
ほんとに胸かぁ? と続けながら、ピンと尖ったそこを指で弾いた。
「あぁんっ……!!」
感じ入ったようなセシルの声に、マシューの腰にずくん、と熱が溜まる。
「いい声だ……」
セシルのうなじに顔を埋めると、マシューは汗の匂いに混じった花のような甘い香りを感じた。ほぅ……と愛しい人の香りに夢中になっていると、セシルはマシューの手を取り、下腹部へと導いた。
「ここも……触ってくれ。苦しいんだ……」
お願い……と吐息混じりに懇願するセシル。その白いうなじに歯を立てたい衝動をなんとか押さえつけたマシューはセシルの手を引き、水位が膝上に達する程の浅瀬へと移動する。
向かい合い、猛りきった互いのものをまとめ上げたマシューは、それらを上下に扱き上げた。
「っ……!」
どちらのものとも知れぬ先走りで、互いの昂りは滴る蜜に濡れそぼり、マシューが手を動かすと粘着質な音を辺りに響かせた。セシルの揺れる腰の動きは、マシューをさらに追い上げる。だが、先に果てるわけにはいかない、と目を瞑って視界からの刺激を締め出した。
「あっ、あっ……もう……っ」
セシルの切羽詰まった声に、限界だったマシューは内心で胸を撫で下ろした。
「俺も……っ」
最後の高みへと互いを追い上げようと、マシューは手の速度をさらに速めた。
「あっ、あっ、あっ……あぁっ」
「くぅ……っ!」
二人はほぼ同時に、マシューの手のひらへ熱い飛沫を迸らせた。
マシューは手の中でビクビクと震える愛しい人の熱を感じながら、セシルが極める瞬間の面持ちを、瞬きもせずに見つめていた。
きつく閉じられたまなじりの端に浮かんだ涙が溢れ、滑らかな頬を伝い落ちる様は美しく、マシューは夢を見ているかのような感覚に酔いしれるのだった。
荒かった息が整い始めた頃、マシューは平坦な岩の上へ仰向けになり、星々の瞬く明るい夜空を眺めていた。
——『もっと声、出しちまえよ』って、俺……っ!
マシューは先程の行為での振る舞いを思い返し、羞恥により精神に大ダメージを負っていた。
セシルに色気がありすぎるのが悪いんだ、と内心で毒づくマシューの眼裏に、先程のセシルの痴態が甦り、再び股間が熱を帯び始める。
「……っ」
マシューは雑然と脱ぎ捨てられた衣服を素早く身に纏い、「先に帰ってるな」と、沢で再度水浴びをしているセシルへ声をかけ、足早に帰路へと着いた。
「こんな顔、アイツに見せられるかよ……!」
耳の先までひどく熱い顔面に沢の水を浸した手拭いをのせ、マシューは火照った顔を冷やした。
明日の朝食はパンケーキを焼いてやるか、と彼なりの罪滅ぼしをしようとするマシューなのであった。
一方、ひとり取り残されたセシルは小さな声で呟いた。
「マシュー……」
応えはない。先ほどの情事は幻だったのか? と思わされるような静けさが辺りに広がっていた。
「そっけないヤツだ。まあ……仕方がない」
セシルは火照った身体を冷やそうと、水の中へと深く身を沈めるのだった。
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