禁断の魔術と無二の愛

くー

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12話

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 セシルの差し出した杯に満たされたどろりとした黄土色の液体は、コポコポと泡を吹いている。鼻の奥を刺すようなツンとくる臭気を嗅いでしまい、マシューは眉間に皺を寄せた。
「これ、人の飲むものじゃないよな?」
「……だが、魔術の発展のためでもある。どうか協力してほしい」
 セシルの真剣な目に見つめられたマシューは、これ以上ないほど嫌そうな顔をし、首を横に振った。
「無理……」
「そこをなんとか! 頼む……この通りだ!」
 深く頭を下げる親友に、マシューは嘆息した。
 ——必死すぎだろ。どんだけヤバイ薬なんだよ……。
 誰が飲むか、と決意を固くするマシューの眼裏には、水浴びをさせるためにセシルを連れ出した沢で見た、二月ほど前の光景が浮かび上がっていた。
 青白い月明かりの下、白く浮かび上がったセシルの裸身に、マシューは股間を固くしていた。それからのマシューが自身を慰める時に思い浮かべるのは、女性ではなく、あのときのセシルの姿だった。
 ふと芽生えた悪戯心の赴くままに、マシューは口を開いた。
「俺、最近ご無沙汰なんだよなぁ。お前が手伝ってくれるんなら……俺も考えてやってもいいけど」
「……手伝い? なにをすればいい?」
 マシューが軽く握った手を上下に動かすと、セシルの顔が真っ赤に染まった。
「馬鹿なのか……!?」
「冗談だって! そのくらい、そんなもの飲むなんて、あり得ないってこと!」
 鍋からよそわれ暫く経ってもいまだに泡の立つ液体を指さし、マシューは笑った。
 ——危ない、危ない。そりゃ、気持ち悪い、かぁ……。
 マシューが内心で密かに落胆していると、セシルは口の中で何事かを呟いている。
「その程度ならば……いや、しかし——」
 ——迷ってるぞ。いけるか?
 マシューは怪しげな薬の被験者となることと引き換えに、セシルに性欲処理をしてもらう権利を得たのだった。
 ——ああ、俺のバカ! あのとき、本番行為アリって条件さえ付けておけばなぁ……。
 セシルはマシューに口での性器への愛撫や挿入行為、そして唇への接吻——キスを禁じている。
 何度目かの行為の後、こみ上げる愛しさのまま口づけようとしたマシューはセシルの激しい抵抗を受け、何故だと詰め寄ったが、返ってきたのは絶対零度の冷たい目だった。
「性欲処理には必要ないだろう」
「……っ!」
 マシューはセシルを愛していたが、それを当人へと告げてはいなかった。
 ——だって、セシルは俺のこと、愛してなんかいない。アイツはいつも、魔術のことばっかりで……会いに行くのはいつも俺からだ。
 マシューはなによりも恐れていた。秘めた想いをセシルに打ち明け、その結果——拒絶されることを。

「重い——どけ」
 絶頂の余韻の後、愛しい人の背に身体を重ね、心地よさに微睡んでいたマシューだったが、鼓膜を震わせた冷たい声にびくりと身を震わせた。肩口に埋めていた顔を恐る恐る上げた先には、目を吊り上げたセシルの顔があった。
「……怒ってる?」
「当然だろう!」
 セシルはマシューから身を離すと、布巾でざっと汚れを落とし、脱がされた衣服を手早く身に付け整えた。
「私が声を抑えられていなければ、明日には村中で噂の的になっていたぞ!」
「あぁー……ごめん……」
 マシューはセシルの感情に溢れた顔が好きだった。マシューの無体に困った顔も、怒った顔も、羞恥に染まり身を震わせる様も——全部、見たい。見せてほしい。切なる願いはときに度を超え、セシルの怒りを買ってしまう。
「……しばらく顔も見たくない! 明日は——いや、当分朝食はいらない!」
「そんな……っ! 当分ってどれくらいだよ? これ以上痩せちまったら、どうするんだ!?」
「そんなこと、どうでもいい!」
「どうでもいいって……俺はお前を心配して」
 マシューの言葉を無視し、セシルは懐から魔法の杖を取り出すと、杖の先に灯りを灯し、暗い夜道を足早に歩き去っていった。
「セシル……」
 ——やっちまった。
 マシューは頭を抱え、その場にへたり込んだ。天国から地獄へと落とされた気分だ、と叫びたい衝動に駆られたが、自業自得であるので反省するより他になかった。
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