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20話
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翌朝、朝食を届けに塔へとやってきたマシューだったが、セシルの姿がどこにも見当たらないので首を傾げた。
「セシルー? 出かけてるのか?」
「……ここにいる」
くぐもった声が階下から聞こえてきた。
「セシル? 地下室にいるのか?」
マシューはセシルから塔には地下室があると聞いていたが、そこへ案内されたことはなかった。なんでも、貴重な書物や素材を収蔵しているらしい。
「朝飯冷めちまうぞ」
「……いまは手が離せない。悪いのだが……」
「待ってるよ。どのくらいかかりそう?」
「…………」
溜め息を吐かれた気配を察したマシューだが、それでもセシルからの返答を待つ。
しばらくすると、部屋の隅からカタリ——と音がし、マシューは音が聞こえてきた方向へと顔を向ける。何もなかったはずの床面に扉が現れており、扉が開かれ、床下からセシルが現れた。
「なんだ、その格好?」
セシルは鳥の嘴の形状をした顔全体を覆うマスクを身に付けていたので、彼がいまどんな表情をしているのか、マシューに確認するすべはなかった。
「万が一にも魔導書に呪われないための防衛策だ」
よく見ると手には黒い手袋を嵌めていて、肌の露出が全くないことに、マシューは気づいた。
「なんかヤバそうだな……」
「心配ないが、危険がないとは言いきれない。申し訳ないが、今日は帰ってもらえるだろうか。せっかく朝食を用意してきてくれたのに、すまない……」
マシューは軽く肩を竦めた。
「俺が好きでやってることだし、気にすんなって。ここに置いておくから、ひと段落着いたら食べてくれ」
「ああ……いつも助かる。ありがとう」
それじゃ——と踵を返すマシューの背に、セシルは声をかける。
「近々君の手を借りることになりそうだ。構わないだろうか」
振り返り、応えを返すマシューの表情は、屈託のない笑顔だ。
「もちろん」
そして塔への出入り口である扉は閉ざされ、塔の内部は最小限の明かりが灯る、薄暗い空間となった。
マシューが帰った後、セシルは塔の地下室へと戻り、禁断の魔導書に記された魔術の続きを読み解いていく。
禁書に指定されるほどの魔導書は、思いもよらない罠が潜んでいたりだとか、どれほど注意してもし過ぎることはないほど危険である、とセシルは魔術学院で散々に教えられてきた。
魔導書自体に以前の持ち主が遺した呪いといった怪しげなものが憑いている場合や、とある記述を目にしただけで呪いにかかった、という魔術師の話も耳にしていた。
セシルは服装だけではなく、防御の魔術を幾重にもかけ、慎重に慎重を重ねて禁書の解読に臨んでいた。
「やはり、興味深いな——」
危険だが、高度な魔術が記された書は言いようのないほどに興味をそそられる。セシルは時間を忘れて禁書へと没頭していく……。
「セシルー? 出かけてるのか?」
「……ここにいる」
くぐもった声が階下から聞こえてきた。
「セシル? 地下室にいるのか?」
マシューはセシルから塔には地下室があると聞いていたが、そこへ案内されたことはなかった。なんでも、貴重な書物や素材を収蔵しているらしい。
「朝飯冷めちまうぞ」
「……いまは手が離せない。悪いのだが……」
「待ってるよ。どのくらいかかりそう?」
「…………」
溜め息を吐かれた気配を察したマシューだが、それでもセシルからの返答を待つ。
しばらくすると、部屋の隅からカタリ——と音がし、マシューは音が聞こえてきた方向へと顔を向ける。何もなかったはずの床面に扉が現れており、扉が開かれ、床下からセシルが現れた。
「なんだ、その格好?」
セシルは鳥の嘴の形状をした顔全体を覆うマスクを身に付けていたので、彼がいまどんな表情をしているのか、マシューに確認するすべはなかった。
「万が一にも魔導書に呪われないための防衛策だ」
よく見ると手には黒い手袋を嵌めていて、肌の露出が全くないことに、マシューは気づいた。
「なんかヤバそうだな……」
「心配ないが、危険がないとは言いきれない。申し訳ないが、今日は帰ってもらえるだろうか。せっかく朝食を用意してきてくれたのに、すまない……」
マシューは軽く肩を竦めた。
「俺が好きでやってることだし、気にすんなって。ここに置いておくから、ひと段落着いたら食べてくれ」
「ああ……いつも助かる。ありがとう」
それじゃ——と踵を返すマシューの背に、セシルは声をかける。
「近々君の手を借りることになりそうだ。構わないだろうか」
振り返り、応えを返すマシューの表情は、屈託のない笑顔だ。
「もちろん」
そして塔への出入り口である扉は閉ざされ、塔の内部は最小限の明かりが灯る、薄暗い空間となった。
マシューが帰った後、セシルは塔の地下室へと戻り、禁断の魔導書に記された魔術の続きを読み解いていく。
禁書に指定されるほどの魔導書は、思いもよらない罠が潜んでいたりだとか、どれほど注意してもし過ぎることはないほど危険である、とセシルは魔術学院で散々に教えられてきた。
魔導書自体に以前の持ち主が遺した呪いといった怪しげなものが憑いている場合や、とある記述を目にしただけで呪いにかかった、という魔術師の話も耳にしていた。
セシルは服装だけではなく、防御の魔術を幾重にもかけ、慎重に慎重を重ねて禁書の解読に臨んでいた。
「やはり、興味深いな——」
危険だが、高度な魔術が記された書は言いようのないほどに興味をそそられる。セシルは時間を忘れて禁書へと没頭していく……。
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