20 / 34
20話
しおりを挟む
翌朝、朝食を届けに塔へとやってきたマシューだったが、セシルの姿がどこにも見当たらないので首を傾げた。
「セシルー? 出かけてるのか?」
「……ここにいる」
くぐもった声が階下から聞こえてきた。
「セシル? 地下室にいるのか?」
マシューはセシルから塔には地下室があると聞いていたが、そこへ案内されたことはなかった。なんでも、貴重な書物や素材を収蔵しているらしい。
「朝飯冷めちまうぞ」
「……いまは手が離せない。悪いのだが……」
「待ってるよ。どのくらいかかりそう?」
「…………」
溜め息を吐かれた気配を察したマシューだが、それでもセシルからの返答を待つ。
しばらくすると、部屋の隅からカタリ——と音がし、マシューは音が聞こえてきた方向へと顔を向ける。何もなかったはずの床面に扉が現れており、扉が開かれ、床下からセシルが現れた。
「なんだ、その格好?」
セシルは鳥の嘴の形状をした顔全体を覆うマスクを身に付けていたので、彼がいまどんな表情をしているのか、マシューに確認するすべはなかった。
「万が一にも魔導書に呪われないための防衛策だ」
よく見ると手には黒い手袋を嵌めていて、肌の露出が全くないことに、マシューは気づいた。
「なんかヤバそうだな……」
「心配ないが、危険がないとは言いきれない。申し訳ないが、今日は帰ってもらえるだろうか。せっかく朝食を用意してきてくれたのに、すまない……」
マシューは軽く肩を竦めた。
「俺が好きでやってることだし、気にすんなって。ここに置いておくから、ひと段落着いたら食べてくれ」
「ああ……いつも助かる。ありがとう」
それじゃ——と踵を返すマシューの背に、セシルは声をかける。
「近々君の手を借りることになりそうだ。構わないだろうか」
振り返り、応えを返すマシューの表情は、屈託のない笑顔だ。
「もちろん」
そして塔への出入り口である扉は閉ざされ、塔の内部は最小限の明かりが灯る、薄暗い空間となった。
マシューが帰った後、セシルは塔の地下室へと戻り、禁断の魔導書に記された魔術の続きを読み解いていく。
禁書に指定されるほどの魔導書は、思いもよらない罠が潜んでいたりだとか、どれほど注意してもし過ぎることはないほど危険である、とセシルは魔術学院で散々に教えられてきた。
魔導書自体に以前の持ち主が遺した呪いといった怪しげなものが憑いている場合や、とある記述を目にしただけで呪いにかかった、という魔術師の話も耳にしていた。
セシルは服装だけではなく、防御の魔術を幾重にもかけ、慎重に慎重を重ねて禁書の解読に臨んでいた。
「やはり、興味深いな——」
危険だが、高度な魔術が記された書は言いようのないほどに興味をそそられる。セシルは時間を忘れて禁書へと没頭していく……。
「セシルー? 出かけてるのか?」
「……ここにいる」
くぐもった声が階下から聞こえてきた。
「セシル? 地下室にいるのか?」
マシューはセシルから塔には地下室があると聞いていたが、そこへ案内されたことはなかった。なんでも、貴重な書物や素材を収蔵しているらしい。
「朝飯冷めちまうぞ」
「……いまは手が離せない。悪いのだが……」
「待ってるよ。どのくらいかかりそう?」
「…………」
溜め息を吐かれた気配を察したマシューだが、それでもセシルからの返答を待つ。
しばらくすると、部屋の隅からカタリ——と音がし、マシューは音が聞こえてきた方向へと顔を向ける。何もなかったはずの床面に扉が現れており、扉が開かれ、床下からセシルが現れた。
「なんだ、その格好?」
セシルは鳥の嘴の形状をした顔全体を覆うマスクを身に付けていたので、彼がいまどんな表情をしているのか、マシューに確認するすべはなかった。
「万が一にも魔導書に呪われないための防衛策だ」
よく見ると手には黒い手袋を嵌めていて、肌の露出が全くないことに、マシューは気づいた。
「なんかヤバそうだな……」
「心配ないが、危険がないとは言いきれない。申し訳ないが、今日は帰ってもらえるだろうか。せっかく朝食を用意してきてくれたのに、すまない……」
マシューは軽く肩を竦めた。
「俺が好きでやってることだし、気にすんなって。ここに置いておくから、ひと段落着いたら食べてくれ」
「ああ……いつも助かる。ありがとう」
それじゃ——と踵を返すマシューの背に、セシルは声をかける。
「近々君の手を借りることになりそうだ。構わないだろうか」
振り返り、応えを返すマシューの表情は、屈託のない笑顔だ。
「もちろん」
そして塔への出入り口である扉は閉ざされ、塔の内部は最小限の明かりが灯る、薄暗い空間となった。
マシューが帰った後、セシルは塔の地下室へと戻り、禁断の魔導書に記された魔術の続きを読み解いていく。
禁書に指定されるほどの魔導書は、思いもよらない罠が潜んでいたりだとか、どれほど注意してもし過ぎることはないほど危険である、とセシルは魔術学院で散々に教えられてきた。
魔導書自体に以前の持ち主が遺した呪いといった怪しげなものが憑いている場合や、とある記述を目にしただけで呪いにかかった、という魔術師の話も耳にしていた。
セシルは服装だけではなく、防御の魔術を幾重にもかけ、慎重に慎重を重ねて禁書の解読に臨んでいた。
「やはり、興味深いな——」
危険だが、高度な魔術が記された書は言いようのないほどに興味をそそられる。セシルは時間を忘れて禁書へと没頭していく……。
0
あなたにおすすめの小説
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる