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22話
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マシューがセシルの魔術師塔の扉を叩くと、中からすぐに応えがあった。
「マシュー? こんな時間に、どうしたんだ?」
「かあさんが夕飯を作りすぎちゃって。一緒に食べようぜ」
セシルは口元を緩め、マシューの掲げたバスケットへ目を向けた。
「いい匂いがする」
「雉の煮込みだってさ。かあさんの得意料理だ」
マシューが鍋の蓋を開けると、湯気が立ち、食欲を誘う煮物のよい香りが強まった。
「美味しそうだ。二階でいただこう」
「よっしゃ!」
「もしかしたら……」
続くセシルの言葉は小さく、マシューの耳には届かなかった。
「なにか言ったか?」
「なんでもない」
セシルは内心で呟いた。
……これが、最後の晩餐になるかもしれない——。
セシルとマシューはマーサの手料理に舌鼓を打ちながら、和やかに食事を進めていた。
「美味いな」
「おう。かあさんにも伝えとくよ。セシルが褒めてたって」
「ああ、よろしく頼む」
「にしても——こうして二人で食事するのも、けっこう久しぶりだよな」
「……そうだったか?」
マシューはがっくりと肩を落とした。
「まったく……魔術の研究に集中するのもいいが、食事くらいはちゃんとしろ。ぶっ倒れちまってからじゃ遅いぞ」
マシューはセシルの額をとんっ、と指で軽く小突いた。
「うぅっ……善処する」
ふと、マシューは普段よりも若干素直なセシルに違和感を覚え、幼馴染の顔を覗き込んだ。
「なんか、今日は機嫌いいな?」
「まあ……そうだな」
「めずらしい。なにかあったのか?」
「実は——」
セシルは一呼吸置いてから姿勢を正した。口角はわずかに上向いている。
「研究が完成したんだ」
「おおっ! やったなぁ!」
マシューの胸に、自分のことのように嬉しい気持ちが溢れた。
「そりゃ、機嫌も良くなるよな。かあさんの飯を持ってくる頃合いも、ばっちりだったわけだ」
「私も驚いたよ。君が折を見ていたかのように、ちょうどよく現れたものだから」
「はは……驚くのも無理はないぜ。というか、今さら訊くのもなんだが、一体なんの研究をしてたんだ?」
「新しい魔法薬の開発だ。少し席を外すが、構わないか? 片付けはあとでしておくから」
「ああ、いいぜ。俺がやっておくから、気にすんな。どうせヒマだし」
悪いな——と返し、セシルは階下へと続く螺旋階段を降りていった。
ちょうど皿を洗い終えた頃、階下からマシューを呼ぶセシルの声が響いた。だが、階段を降りた先に彼はいなかった。
「セシル?」
「こちらだ」
声のする方向へと目を向けると、地下へと続く床の開閉扉が開いていた。
「降りてきてくれないか」
「——わかった」
マシューは常にない事態に、何事だろうかと訝しみながら、床に空いた出入り口から急な階段を降り、地下へと足を踏み入れた。
「マシュー? こんな時間に、どうしたんだ?」
「かあさんが夕飯を作りすぎちゃって。一緒に食べようぜ」
セシルは口元を緩め、マシューの掲げたバスケットへ目を向けた。
「いい匂いがする」
「雉の煮込みだってさ。かあさんの得意料理だ」
マシューが鍋の蓋を開けると、湯気が立ち、食欲を誘う煮物のよい香りが強まった。
「美味しそうだ。二階でいただこう」
「よっしゃ!」
「もしかしたら……」
続くセシルの言葉は小さく、マシューの耳には届かなかった。
「なにか言ったか?」
「なんでもない」
セシルは内心で呟いた。
……これが、最後の晩餐になるかもしれない——。
セシルとマシューはマーサの手料理に舌鼓を打ちながら、和やかに食事を進めていた。
「美味いな」
「おう。かあさんにも伝えとくよ。セシルが褒めてたって」
「ああ、よろしく頼む」
「にしても——こうして二人で食事するのも、けっこう久しぶりだよな」
「……そうだったか?」
マシューはがっくりと肩を落とした。
「まったく……魔術の研究に集中するのもいいが、食事くらいはちゃんとしろ。ぶっ倒れちまってからじゃ遅いぞ」
マシューはセシルの額をとんっ、と指で軽く小突いた。
「うぅっ……善処する」
ふと、マシューは普段よりも若干素直なセシルに違和感を覚え、幼馴染の顔を覗き込んだ。
「なんか、今日は機嫌いいな?」
「まあ……そうだな」
「めずらしい。なにかあったのか?」
「実は——」
セシルは一呼吸置いてから姿勢を正した。口角はわずかに上向いている。
「研究が完成したんだ」
「おおっ! やったなぁ!」
マシューの胸に、自分のことのように嬉しい気持ちが溢れた。
「そりゃ、機嫌も良くなるよな。かあさんの飯を持ってくる頃合いも、ばっちりだったわけだ」
「私も驚いたよ。君が折を見ていたかのように、ちょうどよく現れたものだから」
「はは……驚くのも無理はないぜ。というか、今さら訊くのもなんだが、一体なんの研究をしてたんだ?」
「新しい魔法薬の開発だ。少し席を外すが、構わないか? 片付けはあとでしておくから」
「ああ、いいぜ。俺がやっておくから、気にすんな。どうせヒマだし」
悪いな——と返し、セシルは階下へと続く螺旋階段を降りていった。
ちょうど皿を洗い終えた頃、階下からマシューを呼ぶセシルの声が響いた。だが、階段を降りた先に彼はいなかった。
「セシル?」
「こちらだ」
声のする方向へと目を向けると、地下へと続く床の開閉扉が開いていた。
「降りてきてくれないか」
「——わかった」
マシューは常にない事態に、何事だろうかと訝しみながら、床に空いた出入り口から急な階段を降り、地下へと足を踏み入れた。
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