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34話
ふたりが塔へと辿り着くと、セシルは星の動きを観ると告げ、最上階である四階へと上がって行ってしまった。
「そんなー……」
道すがら、帰ったらセシルといちゃいちゃしようと目論んでいたマシューは当てが外れ、がっくりと肩を落とした。
「まったく、セシルのやつ、俺より魔術の方が大事なのか?」
はあ……と、気怠げな溜め息を吐いたマシューは、ポケットから鍵を取り出し、手のひらにのせた。それは、禁書を保管してある部屋の鍵だった。
君に持っていてほしい、とセシルから渡されたそれは、マシューへの信頼の証であった。
もう二度とふたりの心がすれ違うことがないように、マシューはセシルが託してくれた鍵に願をかけ、常に持ち歩いている。
セシルからの信頼の証である鍵を見て気を取り直したマシューは、二階の台所で茶を淹れた。作り置きの焼き菓子を添えたお盆を携え、最上階である星見部屋へと足を踏み入れた。
部屋には魔術がかけられており、壁と天井部分が透過している。今夜はよく晴れていたので、満天の星々が瞬く夜空にふたりは包まれていた。
簡素な椅子に座って望遠鏡を覗き込み、星図を確認しては紙に書きつけていくセシルを、マシューは愛し気に見つめていた。
「マシュー……」
「お疲れさん。一息入れようぜ」
「まだ作業中なんだが……」
「はいはい」
マシューは、小ぶりなサイドテーブルに湯気の立つカップがのったお盆を置いた。それからセシルの傍へと歩み寄り、背をかがめてうしろから華奢な身体を抱きしめた。
艶やかな黒髪からラベンダーの香油がほのかに香り、マシューは深く息を吸い込む。愛おしさで胸がいっぱいになるのを感じた。
「愛してる」
振り返ったセシルの顔には、やわらかな笑顔が浮かんでいた。
マシューは蠱惑的な小ぶりな唇に吸い寄せられて、そっと、触れるだけの口づけを贈った。
「私も……君のことを愛してる」
そう言ったセシルの頬は薔薇色に色づいていた。
「ふふ……赤くなってる」
「……君は赤くなってないな」
まさか、言い慣れてるのか? と、唇を尖らせて胡乱げな目を向けるセシルに、マシューは内心焦る。
「そんなわけないだろ。お前以外に言ったことないよ」
「本当か……?」
「ああ。何度だって言ってやる。だからさ……ずっと一緒にいよう」
「うん……」
「やったぁ!」
「マシュー……」
「ん……?」
「ぜったいに離さない。君がいつの日か私が嫌いになったとしても、決して離さないから」
「セシル……」
セシルはマシューの陽に焼けた無骨な手を、きゅっと掴んだ。
「ばかだな……そんな日なんて、来るわけないだろ」
ふたりは額をひたりと合わせ、互いの体温、呼気を真近に感じた。そしてどちらからともなく、安堵の息を漏らすのだった。
END
「そんなー……」
道すがら、帰ったらセシルといちゃいちゃしようと目論んでいたマシューは当てが外れ、がっくりと肩を落とした。
「まったく、セシルのやつ、俺より魔術の方が大事なのか?」
はあ……と、気怠げな溜め息を吐いたマシューは、ポケットから鍵を取り出し、手のひらにのせた。それは、禁書を保管してある部屋の鍵だった。
君に持っていてほしい、とセシルから渡されたそれは、マシューへの信頼の証であった。
もう二度とふたりの心がすれ違うことがないように、マシューはセシルが託してくれた鍵に願をかけ、常に持ち歩いている。
セシルからの信頼の証である鍵を見て気を取り直したマシューは、二階の台所で茶を淹れた。作り置きの焼き菓子を添えたお盆を携え、最上階である星見部屋へと足を踏み入れた。
部屋には魔術がかけられており、壁と天井部分が透過している。今夜はよく晴れていたので、満天の星々が瞬く夜空にふたりは包まれていた。
簡素な椅子に座って望遠鏡を覗き込み、星図を確認しては紙に書きつけていくセシルを、マシューは愛し気に見つめていた。
「マシュー……」
「お疲れさん。一息入れようぜ」
「まだ作業中なんだが……」
「はいはい」
マシューは、小ぶりなサイドテーブルに湯気の立つカップがのったお盆を置いた。それからセシルの傍へと歩み寄り、背をかがめてうしろから華奢な身体を抱きしめた。
艶やかな黒髪からラベンダーの香油がほのかに香り、マシューは深く息を吸い込む。愛おしさで胸がいっぱいになるのを感じた。
「愛してる」
振り返ったセシルの顔には、やわらかな笑顔が浮かんでいた。
マシューは蠱惑的な小ぶりな唇に吸い寄せられて、そっと、触れるだけの口づけを贈った。
「私も……君のことを愛してる」
そう言ったセシルの頬は薔薇色に色づいていた。
「ふふ……赤くなってる」
「……君は赤くなってないな」
まさか、言い慣れてるのか? と、唇を尖らせて胡乱げな目を向けるセシルに、マシューは内心焦る。
「そんなわけないだろ。お前以外に言ったことないよ」
「本当か……?」
「ああ。何度だって言ってやる。だからさ……ずっと一緒にいよう」
「うん……」
「やったぁ!」
「マシュー……」
「ん……?」
「ぜったいに離さない。君がいつの日か私が嫌いになったとしても、決して離さないから」
「セシル……」
セシルはマシューの陽に焼けた無骨な手を、きゅっと掴んだ。
「ばかだな……そんな日なんて、来るわけないだろ」
ふたりは額をひたりと合わせ、互いの体温、呼気を真近に感じた。そしてどちらからともなく、安堵の息を漏らすのだった。
END
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