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25話
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特報:魔術学院エクビリオンの上級魔術師、麗しき伯爵令嬢を毒殺!? 現場に残された明らかな証拠、さらに驚愕の動機とは——真相に迫る!
魔術学院の上級魔術師が伯爵令嬢を殺害したニュースは、瞬く間に王都中を駆け巡った。
事件の記事が一面を飾った新聞は飛ぶように売れ、魔術学院の閉ざされた門扉の前には、王都の住民達が連日押し寄せ、事態の説明を求めるのだった。
その夜、何度目かの取り調べを終え、牢へと戻されたカナフは粗末な寝台の上に横たわり、身体を休める。
「痛い……」
尋問中に嵌められる魔術封じの手錠は、カナフの手首に痣を作っていた。鉄格子にも手錠と同じ魔術を封じる力が込められており、カナフは檻の中でのみ、手錠を外すことを許されている。
繰り返される取り調べにカナフは精根尽き果ててはいたが、小さな窓から差し込む月明かりを頼りに、目を凝らして尋問官から渡された新聞記事を読んでいた。
すると、石床を打つ靴音が暗がりから聞こえてくる。音はカナフが収監された牢の前で止まった。カナフはまた取り調べか、とうんざりしながら身を起こす。
「カナフ……いいザマだな、この間抜けめ」
「……バルテル?」
暗闇に浮かんだ黒髪の魔術師の青白い顔は、敵意に満ちていた。カナフは背に悪寒を感じ、目を見開く。まさか——。
「君が……?」
「ようやく気が付いたか。天才魔術師様は、路傍の石になど目もくれないのだから、仕方あるまいが」
冷たい目で見下ろしてくる同僚を、カナフは檻越しに見上げた。
「すべて、君の差し金だったのか? あの手紙も、洞窟で僕に魔術をかけたのも」
「生きながら魔物に食わせてやりたかったのだが、貴様のしぶとさを過小評価していたよ。確実に息の根を止めておくべきだった」
憎々しげに唇を歪めながら吐き出された残酷な言葉に、カナフの心は凍り付く。
「……まさか、君も洞窟にいた?」
「変身術が使える魔術師は貴様だけか? カナフ」
「じゃあ、ヨアヒムは」
「そんな人間、初めからいない。まったく……同学部の魔術師を把握していないとは、いかにも貴様らしい」
「どうして、こんなことを……」
「目障りなんだよ、貴様は」
片眼鏡の奥のバルテルの暗い色の瞳には、憎しみの炎が揺らいでいた。
「たいした努力もせずに、常に私の前を行く。貴様はいつも私を見下し、惨めで取るに足らないものだと思わせる」
「そんなことは——」
「覚えているか? 私が貴様に頭を下げた日のことを」
二年前、蛮族達との戦いの最前線から負傷した騎士達が帰還してきた日のことだ。と、悪意を込めてカナフを睨め付けながら、バルテルは話を続ける。
「あの夜、治癒魔術学部の上級魔術師が匙を投げた負傷者を、貴様が独自の治癒魔術で助けたことを。私は大いに感嘆し、後日魔術の伝授を願い出た。だが貴様は、面倒だとか私の実力では無理だとか、難癖を付けて断わっただろう」
「そ、それは……」
カナフは二年前の記憶を、懸命に思い返していく。
血の匂いと、腐敗した傷口から漂う悪臭に満たされた夜の魔術学院には、濃厚な死の気配が立ち込めていた。
カナフは見た。病室に収容できず、学院の廊下中に寝かされた騎士達を。重傷を負った騎士の一人を診ていた魔術師が首を横に振った後、立ち去っていくのを。
その瞬間、騎士の命運は決まってしまった。戦場で負傷した者のありふれた末路だった。それでも、遺骸を家族の元へと返せるだけ幸運なのだろうか。
カナフの脳裏にふと、研究途中の治癒魔術を使えば、彼を助けられるのでは、という考えがよぎった。だが、上級貴族の騎士の治療をするようにとの指示を受けている。
命令に従うことと、自分にしか助けられない命を救うこと——カナフは引き寄せられるかのように、騎士の足元へと膝をついた。
杖を召喚すると、深い傷の為に意識を朦朧とさせた騎士へとかざし、治療を開始する。
「魔術研究学部の上級魔術師は、上級貴族の騎士達の治療に当たれとの命令だ。こんなどこの誰ともしれない——」
命令違反を咎めるバルテルの声に、内心舌を打ちながら、カナフは魔術の詠唱を続けていく。
淡い緑色の光が灯り、解けかけた包帯の隙間から見えていた裂傷がみるみる内に癒えていく。ひとまず魔術は成功したが、治療を必要とする箇所はまだ数え切れないほどだ。
「すごい……」
「あの状態から治療が可能とは……」
アロンとバルテルはカナフが魔術を施して騎士の傷を癒やしていく様を、食い入るように見つめていた。
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