魔術師は初恋を騎士に捧ぐ

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24話

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 こうしてカナフは騎士団本部の留置場へと連行され、取り調べを受けることになった。身に纏っていた衣類のみならず、母の形見である耳飾りまで取り上げられ、簡素な胴衣のみを身に付けさせられている。
 不安に押し潰されそうになりながら、狭苦しく薄暗い取り調べ室の粗末な椅子に腰を下ろし、カナフは苛立たし気に口を開いた。
「だから、僕はやっていない、と言っている」
 取り調べの役割を担う騎士達に、カナフはもう何度繰り返したかわからない言葉を再度口にする。
「ここに来たやつは皆そう言う。ね、先輩」
 小柄な騎士は大柄な相棒の騎士を見上げ、同意を求めた。
「まったく、どいつもこいつも。耳にタコができちまう。さて、もう一度聞くぞ。昨日の午後は何をしていた?」
「だから、昨日は街のカフェでお茶を飲んでいた。もう何度も話しただろう!」
「何故わざわざ魔術で変装していた?」
「それは……」
「アリバイ工作だ。そうだろう?」
「は……?」
「お前は十日ほど前から変装してその店に通うようになった。事件当日のアリバイ作りの仕込みってわけだ。そして肝心の犯行時には、変装したお前の姿を共犯者にさせる。そいつに店で過ごさせ、アリバイを作った。その間にお前は犯行に及んだってからくりだ!」
 小柄な騎士は手を打ち鳴らし、大柄な騎士を褒め讃える。
「さっすがぁ! 名推理です、先輩!」
「さあ、観念して仲間の名前を吐け」
「共犯者なんていない。そもそも、僕はやってない!」
 カナフは声を荒げて潔白を訴えるが、騎士達は取り合わない。彼らの中では、既に犯人は決まってしまっているのだ。
「上級魔術師さんよぉ、こっちにゃ証拠、証言、動機と揃っちまってるんだ。とっとと楽になっちまえよ」
「陰謀だ。僕は誰かに嵌められた」
「嵌められたって、心当たりでもあるのか?」
「……数週間前、騎士団との合同任務中に、僕は危うく殺されそうになった。ヤツだ……。下級魔術師ヨアヒム! 今回の事件もヤツが犯人だ!」
「だからよう、お前の姿をはっきり見たという証人がいるんだ。それにな、ヨアヒムなんてやつぁ影も形も見当たらねえよ」
「しょ、証人……?」
「おうよ。どうだ? 白状する気になったか?」
「そいつは嘘吐きだ。貴様らは尋問する人間を間違えている」
「おいおい……お前さん、何様だぁ? 現場にわっかりやすい証拠を残しておいて」
「証拠だと?」
「おい、持ってきてやれ」
 大柄な騎士が顎をしゃくって小柄な騎士へ指示を出す。
「承知しました!」
 別室から戻ってきた騎士が手に携えていたのは、見覚えのあるとんがり帽子だった。
「まさか……」
「どうだ、罪を認める気になったか。ああっ!?」
 それは、カナフが討伐任務の日、身に付けていたものだった。
「この帽子は魔術学院から上級魔術師に支給されるものらしいな。ほら、裏地を見てみろ。名前の刺繍がある——カナフ・ラヴァン」
「お前だ!!」
 小柄な騎士はカナフに人差し指を突き付けた。
「これは……いや、これこそがヨアヒムが関わっている証拠だ!」
 カナフは任務先でいつの間にか帽子を紛失したこと、何者かに魔術をかけられ洞窟の奥で置き去りにされたこと、魔術研究学部の下級魔術師ヨアヒムが姿を消したことを、二人の騎士達に必死で説明した。
「ハルがいなかったら、アイツのせいで僕は死んでいたかも——」
「騎士ハル・ガアシュか。確か、殺されたご令嬢の婚約者だったな」
「はっ——!! 動機って、まさか!?」
 小柄な騎士のわざとらしい呟きに、その通り! と声を上げつつ、大柄な騎士は膝を打った。
「上級魔術師さんよぉ、恋敵を始末しちまうってのは、いくらなんでもやり過ぎだ」
「貴様ら……僕の話を聞く気はないのか!?」
 堂々巡りに繰り返される尋問に、カナフの精神は次第に疲弊していく。
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