ラビュステル 〜呼ばれし者と死者たちの王国〜

くー

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第一章 失くした記憶と巡り会う運命

17. 惨劇の後

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「野郎ども!ずらかるぞ!」
 
 え……?

 けたたましく地面を踏み鳴らす足音は次第に遠ざかり、やがて聞こえなくなった。
 
「どういうこと……?」
 盗賊たちは僕たちに気づいていなかった……?そんなはずはない。
 
「おーい!大丈夫か⁉︎」
 荷台の下にルークが顔を覗かせた。
「ルーク!よかった、無事だったんだね」 
「俺は……な」
 
 荷台の下から外に這い出た。盗賊たちの姿はない。
「ミツキ、クロが!」
「クロ……?大丈夫⁉︎」

 何度呼びかけてもクロからの返答はなかった。慌てて荷台の下から引きずり出す。アルシュは手をクロの口元にかざした後、ケガがないか確かめている。
「大丈夫、ケガはしてないみたい。気を失っているだけだよ」
「よかった……」

「三人ともケガはないみたいだな。盗賊どもめ、積荷が目当てだったらしい」
「ローウェルさんは……」
「ぼく、ポーション持ってるよ!」
 馬車の後ろ側に移動すると、幌は切り裂かれ、外から中を見ることができた。
 
「こんな……」
 積荷の散乱した荷台の上——ローウェル氏と使用人の男性が血溜まりの中に倒れていた。
 
 ああ——目の前で、人が殺されてしまったた。
 なんてことだ……
 
 アルシュは荷台に上がると、血溜まりの中を奥へと進み、倒れている二人の傍にしゃがみ込んだ。しばらくして、アルシュは弾かれたように顔を上げた。
「ミツキ来て!まだ息がある!」
「なんだって⁉︎」
 
 かろうじてという状態だが、ローウェル氏はまだ生きていた。氏の傷口を押さえるアルシュの手は、血で真っ赤に染まっている。
「血が止まらないんだ。どうしよう……」
 ルークは首を横に振った。 
「もう手遅れだ。傷は深いし失血が多すぎる」
「そんな……」
「できることはひとつ——少しでも早く、苦しみから解放してやることだけだ……」
 ルークは剣の柄に手をかけた。

「待って!」
「……ミツキ?」
「治癒魔法なら助けられるかも……」
「きみはまだ魔法が使えないんだろ?クロは気を失っているし……」
「あと一歩のところまではできているんだ。もしかしたら……」
「ルーク、お願い!ミツキを信じて」
「この傷はそんなレベルじゃ……まあ、いいさ。やるだけやってみな」

 
 ローブの内ポケットから杖を取り出し、ローウェル氏の傷に杖の先を突きつけた。
 
 思い出せ、昨日クロが教えてくれたこと……
 
 まず、精霊の力を感じ取る。……ああ、感じる。昨夜よりも多い?……そうか、木々に囲まれた場所だからか……
 よし、次は魔力を掌に集めて杖に送ろう。
 
 ……杖の先が光った。よかった、できてる。
 次は……精霊の力を……っと、もうできた!これは得意だった。次は、この力を魔力で治癒魔法に……
 
 ローウェル氏の傷を注視する。痛そう……なんてものじゃない。目を覆いたくなるほどに惨たらしい。僕が治してあげないと……
 
 肩から胸にかけてざっくりと剣で切られた傷——それが塞がった状態を脳裏に思い浮かべ、
「ヒール!」呪文を唱えた。
 杖の先から、柔らかな光が生じた。その光にはかすかに温度があった。周囲はあたたかな光に包まれた。
 
 包み込む光の中、ローウェル氏の傷は徐々に塞がり始めた。
 
「くっ……」
 
 体から徐々に力が抜けていくのを感じた。魔法を使っているから?なんだか——怖い。けれども、力を抜くことはできない。
 彼を助けるんだ、なんとしても……
 
 
 
 
 
 
 
 
「驚いたな……」
「ミツキ、すごいよ!」 
 
 治癒魔法を力の続く限りかけ続けた甲斐あって、ローウェル氏の傷を完全に塞ぐことができた。
「うっ……」
「ローウェルさん!大丈夫ですか⁉︎」
「私は一体……そうだ、盗賊に襲われて……私は——⁉︎」
「やつらは積荷を奪って逃げました。すみません、私たちの力が及ばなかったばかりに……」
「…………」
 
「ローウェルさん?」
 ローウェル氏は目を閉じ、微動だにしなくなった。顔からは完全に血の気が失せている。そんな……
「……弱いが脈はある。だが、血を失い過ぎたな。危険な状態だ」
「そんな……」
「街に診療所があるよ!すぐに戻ろう!」
 
 御者はどこにもいなかった。どこかに逃げたのだろうか。
「馬車の操縦は俺に任せてくれ。クロを荷台に乗せたらすぐに出発しよう」

 馬車はものすごい速度で街道を駆け抜け、十分程でクリュシェットの街へ到着した。
 街の門を潜った後、すぐに診療所に辿り着いた。
 
「ミツキ、手を貸してくれ」
 ルークと二人でローウェルを持ち上げ、診療所の職員達に彼を託した。
 
「ローウェルさん、助かるよね?」
「やれるだけのことはやった。あとは祈るだけだ」
「ぼく、たくさんお祈りするよ!」
「僕も……うっ……」
 急にくらりと目眩を感じ、よろめいてたたらを踏んでしまった。
 
「ミツキ!大丈夫⁉︎」
「……ちょっと目眩がしただけ。大丈夫だよ」
「おいおい、大丈夫か?さっきの魔法のせいか?」
「そう!さっきはすごかったよ、ミツキ!ローウェルさんのあんなにも酷い傷が、あっという間になくなっちゃった!まるで、まるで……奇蹟みたいだった!」
「そんな……大げさだよ。クロが教えてくれたことを……」
 ハッとしてアルシュと顔を見合わせた。
「クロ!忘れてた!」
 
 ローウェル氏を運んだときと同じ要領でクロを運び、クロが倒れたときの事情を職員に話した。目が覚めたら検査をすることになり、病室に寝かせておくことになった。それから、ローウェル氏の使用人の遺体を診療所の職員に引き取ってもらった。 
「まさか、こんなことになるなんて……」
 目と鼻の先で人が殺されたのだ。衝撃だった。血溜まりの中で倒れていた彼らの姿が脳裏に焼き付いて離れない。
 
「使用人の彼は残念だった……ともかく、ギルドに報告しないとな。俺に任せてくれ」
「でも……」
「こんなことになったのは全て俺の責任だ。それに、クロの傍についててやりたいだろ?」
「ルーク……一人で大丈夫?」
 アルシュの心配気な顔に、ルークは苦笑いを浮かべた。
「俺なら大丈夫。クロが目を覚ましたらギルドに来てくれよ」

 馬車を駆り去っていくルークを見送ったあと、僕とアルシュはクロが眠っている病室へと向かった。

 
 
 
 
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