【エッセイ】百人一首の世界

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第三章

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「秋の野のみ草刈り宿やどれりし宇治のみやこ仮盧かりほし思ほゆ」
額田王ぬかたのおおきぬ 巻一・七)

「秋の野のすすきを刈り取って屋根に葺いて泊まった。あの宇治の都での仮のやどりが懐かしく思われます」

この歌は初夜の歌だと言われます。

そうこの歌は作者十三歳ほど。
生涯の恋人・大海人皇子おおあまのおうじのちの天武天皇との初夜の歌だったのです。

男女が袖を交わした後の後朝きねぎぬの歌だったのです。

私は二人の旅先の仮の小屋を思い描いたのです。
あら作りの小屋は二人の上にざんざんとそそぐ月明かりを赦しました。
しかもその中に白銀に輝く穂

すでにここから『古今集』の宇治の玉姫、
『源氏物語』末尾を飾る宇治の姫君たちの幻想的な物語が始まっているのです。
私にはそのように見えます。
後朝の歌には、先だって男から女性に贈られた歌があったはずですが、
残念ながらそのある筈の歌を万葉集は残していません。
それなりに千年という年月を超えて、後者の胸に大海人皇子の歌は想像されてきたはずです。
この月光にさらされる愛という尊くて美しい描写は作家三島由紀夫の『豊饒ほうじょうの海(「春の雪」)の中にあります。

私はこの三島由紀夫の作品が大好きです。

『豊饒の海《ほうじょうのうみ》は、三島由紀夫の最後の長編小説です。この作品は
『浜松中納言物語』を典拠とした夢と転生の物語です。
『春の雪』『奔馬』『暁の寺』『天人五衰』の全4巻から成る長編小説です。
最後に三島由紀夫が目指した「世界解釈の小説」「究極の小説」と言えるでしょう。
予定より早い最終回で完結となる最終巻の入稿日に三島由紀夫は、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地で割腹自殺したのです。


『春の雪 豊饒の海・第一巻』
『奔馬 豊饒の海・第二巻』
『暁の寺 豊饒の海・第三巻』
『天人五衰 豊饒の海・第四巻』

三島由紀夫は、
第一巻で、貴族の世界を舞台にした恋愛を
描きました。

第二巻では右翼的青年の行動を描きました。

第三巻では唯識論を突き詰めようとする初老の男性とタイ王室の官能的美女との係わりを描きました。

第四巻では認識に憑かれた少年と老人の対立が描かれています。
構成は、20歳で死ぬ若者が、次の巻の主人公に輪廻転生してゆくという流れとなり、仏教の唯識思想、神道の一霊四魂説、能の「シテ」「ワキ」、春夏秋冬などの東洋の伝統を踏まえた作品世界となっているのです。

三島由紀夫の作品には様々な「ほのめかした」が散見され、読み方によって多様な解釈可能な、謎に満ちた作品でもあります。

「豊饒の海」とは、月の海の一つです。ラテン語の名前は「Mare Foecunditatis」の和訳です。
作品中の「月修寺」のモデルとなった寺院は奈良市の「圓照寺」です。
 
なお、最終巻の末尾と、三島の初刊行小説『花ざかりの森』の終り方との類似性がよく指摘されています。

三島由紀夫の割腹自殺は私にとってあまりにも衝撃的でした。

私はあの時こう彼に叫んだのです。

「死ぬな!生きよ!お前が死んでも何も変わらない!死ぬな!生きよ!生きてお前のその生粋な生き様を世の中の若者達に示して
お前の後を継ぐ人材を育てるのた!
死ぬな!生きよ!」
しかし、私の言葉は彼に届かなかった。

「大馬鹿野郎!」

私はこの偉大な作家に「ご冥福をお祈りしたい」

このエッセイはこれにて完結しました。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。



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