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第十五章
しおりを挟むー(女密偵•おまさ)ー
如月に入り節分で賑わっている江戸の街に足早に歩くひとりの女がいた。歳の頃30代の色白の女である。
行き先は盗賊改方の役宅つまり長谷川平蔵の役宅に向かっていたのである。
おまさは、雲霧仁左衛門に関する貴重な情報を平蔵に伝えようとしていたのである。
「殿、おまささんが来られましたよ」
妻女の久栄の声である。
居間にいた平蔵が久栄の声を聞き南側の縁側に出て来た。
「おまさ、如何した?」
「突然、役宅に押し掛けまして申し訳ありません。」
「いや、よいよい。そなたには、何かと苦労を掛けている。いつでも来たらよいぞ(笑い)。」
「はい、ありがとうございます。」
「まあ、そんなに畏まる必要はないよ。」
「はい。」
「で、今日の赴きの用件は?」
「はい。雲霧仁左衛門の事でございます。」
平蔵はおまさの言葉に身を乗り出したのである。
雲霧仁左衛門は頭の良い大盗賊の頭目である。
『奴が、この江戸の街にやって来たのには、きっと大きな働きを企てているに相違ない』と平蔵は心の中で呟いていた。
「おまさ、して、雲霧仁左衛門に関するその情報とは一体なんじゃ。」
「はい。実は仁左衛門の下働きをする 狐火という盗人がすでに江戸の街に潜伏し、江戸の街の両替商を軒並み調べあげているのです。」
「なんじゃと。調べあげているじゃと。それは如何。江戸の街の両替商と言えば、大店ばかり、しかもこの江戸の街なは大名屋敷も多いのじゃ。奴らの働きがあればその被害額は一千両を超えるであろう。これは如何。如何。おまさ、よう言うてくれた。貴重な情報ぞ。それでじゃ、ちと済まんがわしの使いをしてくれるか。」
「はい、何なりと」
「いや、実はなぁ、深川に清左衛門と言う無役の御家人がいる。今の話しをその御家人に伝えてはくれまいか。」
「はい、おやすいご用で。」
「おう、そうか。清左衛門の所へ足を運んでくれるかぁ」
「はい。おやすいご用で。」
「そしてのお、清左衛門にこう言うのじゃ。『平蔵が頼りにしておる』と、ただこれだけでよい。すれば、頭の良い清左衛門のことよ。わしの所へ来るであろうよ。」
「はい、承知しました。長官のお言葉、しかと、清左衛門殿にお伝えします。」
「おう、そうか、そうか、おまさ頼んだそぞ。おう、そうじゃ、おまさ、夕食は未だであろう。今膳を用意させるから、わたしと一緒に食べようぞ。今宵は世間話しでもしようぞ。たまにはおまさの事聞きたいからなぁ。おーい、久栄、膳じゃあ、膳じゃあ、今宵はおまさも一緒じゃあ、おーい。久栄。」
「はーい、今すぐに膳をお持ちします。」
平蔵宅の一コマである。
かくして、清左衛門は平蔵と一緒に盗賊の頭目•雲霧仁左衛門と一戦を交えることになるのである。
雲霧仁左衛門は『剣の腕に覚えあり』という剣の達人であった。
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