働きすぎた社畜、死んだらダンジョン核に転生して魔王に!? 〜自由に生きてたら、気づけば勇者と結婚してました〜

烏羽 楓

文字の大きさ
39 / 62
第四章 入り浸り勇者と来訪する執着者

第38話「勇者の圧、偵察隊との対峙」

しおりを挟む
 ――封印の再構築を終えた美月は、静かに手を下ろし、スッと振り返った。

 偵察隊の先頭に立っていたのは、大柄で筋肉質な中年の男だった。
 
 鍛え抜かれた体躯だけでなく、纏う気配がすでにただ者ではない。歴戦をくぐり抜けてきた戦士だけが持つ、鋭い空気をまとっている。

 だが、美月にとってそれは威圧にもならない。
 彼女はその視線を正面から受け止め、むしろ逆に圧をかけるかのように一歩前へ出た。

「再構築、お疲れ様です」
 
 男は軽く頭を下げ、落ち着いた声で名乗る。
 
「私は、冒険者組合より内部調査の命を受けた佐野と申します」

 美月の瞳が冷ややかに光を差す。
 勇者としての威圧――いや、それは強者がいつでも潰せると暗に示す、覇気そのものだった。

「私以外が来ても意味がないと、伝えたはずですが?」

 その声に、偵察隊の空気が一瞬で張り詰める。
 佐野は微かに目を細めたが、怯んだ様子は見せず、静かに言葉を返した。

「承知しております。しかし、美月様はほぼ毎日この階層に通い、封印を再構築されているとか。上層部としても、現状を知る必要があるという判断でして」

「だとすれば、私を通して聞くのが筋でしょう」
 
 美月は氷のような声音で切り返す。
 
「わざわざ秘密裏に偵察隊を動かすなど――勇者を侮辱する行為です。虫唾が走りますね」

 その瞬間、彼女から放たれる覇気がさらに重くなり、場を包む。
 
 いくら偵察隊が選りすぐりの精鋭であろうと、美月は勇者。
 魔王と対を成す存在であり、敵に回してはならない象徴だ。
 
 言い換えれば、目の前に魔王が立っているのと変わらない。

「……そういう規則となっておりますゆえ、ご容赦を」
 
 佐野はそう前置きしつつも、一歩も退かずに言葉を続けた。
 
「して、何故そこまで頻繁に再構築を? 見たところ、封印の綻びは大きくなかったように思えますが」

 美月は小さく息を吐き、呆れを隠さずに応じた。
 
「それすら気付けないから、私以外が来ても意味がないと申し上げているんです」

 ため息交じりにそう言うと、視線を逸らさず、淡々と続ける。
 
「魔王リルベアは本来、勇者が二人がかりで挑むべき相手。復活したばかりで本調子でなかったからこそ封印できました。この封印は――絶対に、解かせてはならないのです」

「……ならば、しっかりとレイドパーティを組み、討伐してしまえばよいのでは?」

 佐野の一言に、美月はわずかに目を細めた。呆れすら滲ませて。

「一体どれほどの被害が出ると思っているのですか。人の命は、使い捨ての消耗品とは違いますよ?」

 短い沈黙が落ちる。
 美月は一拍置いてから、更に声を低くした。

「それに――どうやらダンジョンコアが“魔王”と一体化しているようです。倒せば、ダンジョンそのものが消えてしまうでしょう」

「それは、本当ですか!?」

 佐野が思わず声を荒げる。
 美月はただ一度、静かに頷いた。

 その仕草を見届けた佐野は顎に手を当て、しばし思案に沈む。
 やがて、結論を告げるように口を開いた。

「……今後の動きは慎重に考える他ありません。この件は持ち帰り、上層部の判断に委ねましょう」

 そう言い残し、佐野は偵察隊を率いて踵を返す。
 やがて彼らの背中は、扉の向こうへと消えていった。

 広間に静寂が戻る。
 美月は小さく息を吐き、鋭さを湛えていた瞳を和らげた。

 その様子をモニター越しに見ていた俺も、リルベアも、深く息を吐き出す。
 背もたれに体を預け、僅かな安堵を覚える。

 ――ひとまず、この危機は去った。
 このまま何事もなく終われば良いのだが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ? ――――それ、オレなんだわ……。 昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。 そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。 妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! 圧倒的不利な状況を武と知略で切り抜ける! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

処理中です...