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第一章 忍び寄る灰の気配
第14話「新たな始まり」
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――天暦732年4月中頃、入学式当日。
まだ陽も昇りきらない薄明かりのなか、ルークは宿屋の柔らかな布団の上で静かに目を覚ました。
(……懐かしい夢を見たな)
瞼の裏に残るのは、あの出会いの日の記憶。すべてが始まった瞬間だった――そう思いながら、ルークは眠気を払い顔を上げた。
「さて……入学式、か。師匠が通っていた学園。アイツら、受かったかな」
小さくつぶやきながら、新品の制服に袖を通す。白を基調としたその衣服は、これから始まる新たな生活を象徴しているようだった。
身支度を整え階下に降りると、一階の酒場はまだ静けさに包まれていた。厨房の方からはすでに明かりが灯り、湯気とともに香ばしい匂いが漂ってくる。
「おはよう、ルーク!今日も早起きだねぇ」
明るい声とともに現れたのは、ふくよかで親しみやすい女将だった。
「おはようございます。オーナーは厨房に?」
「ああ、朝ごはんの仕込み中さ。すぐ出来るから、適当に座ってな」
促されるまま、ルークは木製のテーブルに腰を下ろす。やがて、食欲をそそる匂いに誘われて他の宿泊客も一人、また一人と降りてきた。
ほどなくして、スキンヘッドにタトゥーを入れた黒褐色の男が、厨房から大皿を手に現れる。
「今日からだってな。……お前が初めて来た日を思い出すぜ。とんでもねぇガキが来たと思ったが、もう行っちまうのかと思うと、少し寂しいな」
「オーナー、大げさですよ。同じ街にいるんですし、また来ますって。……それにしても、このスープ美味いな。今度レシピ、教えてもらえませんか?」
そんな会話の合間、思い出が蘇る――この宿に初めて訪れた朝、ルークは絡まれていた客を助けた。その時、騒ぎを鎮めたことで一躍有名になり、気に入られたのだった。
「ところで、お前……学園に入ったら、長期休暇以外は外に出られねぇって知ってたか?」
その言葉に、ルークの手が止まる。
「……え、学園って牢屋か何かですか?」
「ハハッ、言い方よ。完全寮制ってだけだろ、普通はそんなもんさ」
衝撃の事実にやや不安を覚えながらも、ルークは朝食を食べ終えると席を立つ。
「ごちそうさまでした。それじゃあ、行ってきます!」
「体に気ぃつけてな!」
「いっぱい食べて、元気にがんばるんだよ!」
笑顔で見送ってくれる二人に軽く手を振り、宿を後にする。賑わう街を歩きながら、自然と足が早くなっていく。期待と不安が入り混じった気持ちが、心をそっと揺らしていた。
やがて学園が視界に入り始めると、ちらほらと他の新入生たちの姿も見えてきた。ルークが校門をくぐり、入学式が行われる体育館へ向かおうとしたとき――
「あ、ルークだ! やっほー!」
「久しぶりだな! やっぱ、受かってたか!」
声の主は、二次試験で共に戦ったララとガイだった。二人とも制服姿だ。無事、合格したらしい。
「二人とも合格しててよかった。試験、どうだった?」
「私のとこ? 超簡単だったよ! 海岸で魚100匹捕まえるってタイムアタックで、雷魔法で魚浮かせた人がいてさ、私、それを風魔法で……横取り!」
「……それ、アリなのか?」
身振り手振りを加えながら力説するララにガイが苦笑いを浮かべる。
「ガイは?」
ルークが視線を向けると、ガイがやれやれと肩をすくめた。
「バトルロワイヤルだったよ。10人退場するまでの殺し合い。……この年でやるか、フツー?」
ルークも同意見だった。内容が過激すぎるとはいえ、リアルな戦場を想定した試験なのだろう。
「なるほどな。ま、二人とも”普通の試験”だったわけか」
「……ん? ルーク、お前のは違ったのか?」
ルークは肩をすくめ、少しばかり遠い目で語る。
「俺のとこは、襲撃されてる街の中で”最善の選択”をしろって内容だった。ぶっちゃけ……落ちかけてたと思う」
「はあ!?」
「えっ……」
二人は口を揃えて驚いた。あのルークが落ちかけるなんて――
「他の人が倒せないような魔物の相手ぐらいしかできなかったんだ。魔法はろくに使えないし、指揮官倒した化け物みたいな志願者もいて、そいつと戦闘になったり……まぁ、そいつ落ちたらしいけど」
「……もうツッコミ追いつかないんだけど」
「内容も結果もイレギュラーすぎだろ……」
ツッコミどころ満載だったが、聞き出すとキリがないと察したのか、二人はそれ以上詮索しなかった。
やがて体育館の入口に着くと、教員がパンフレットと座席表、それに手のひらサイズの小型端末を渡してくる。
「おっ、俺とルークは隣の席みたいだ」
「えー!私だけ離れた席? 仲間外れだよ~!」
ララが頬をふくらませて不満げな声を上げるが、ガイは笑って流す。
三人はそれぞれの席へ。やがて照明が落ち、静寂が館内を包み込んだ。
「これより――アストレア学園 入学式を始めます」
壇上に一筋の光が注がれ、そこに立っていたのは、学園長・ヴェルディだった。
まだ陽も昇りきらない薄明かりのなか、ルークは宿屋の柔らかな布団の上で静かに目を覚ました。
(……懐かしい夢を見たな)
瞼の裏に残るのは、あの出会いの日の記憶。すべてが始まった瞬間だった――そう思いながら、ルークは眠気を払い顔を上げた。
「さて……入学式、か。師匠が通っていた学園。アイツら、受かったかな」
小さくつぶやきながら、新品の制服に袖を通す。白を基調としたその衣服は、これから始まる新たな生活を象徴しているようだった。
身支度を整え階下に降りると、一階の酒場はまだ静けさに包まれていた。厨房の方からはすでに明かりが灯り、湯気とともに香ばしい匂いが漂ってくる。
「おはよう、ルーク!今日も早起きだねぇ」
明るい声とともに現れたのは、ふくよかで親しみやすい女将だった。
「おはようございます。オーナーは厨房に?」
「ああ、朝ごはんの仕込み中さ。すぐ出来るから、適当に座ってな」
促されるまま、ルークは木製のテーブルに腰を下ろす。やがて、食欲をそそる匂いに誘われて他の宿泊客も一人、また一人と降りてきた。
ほどなくして、スキンヘッドにタトゥーを入れた黒褐色の男が、厨房から大皿を手に現れる。
「今日からだってな。……お前が初めて来た日を思い出すぜ。とんでもねぇガキが来たと思ったが、もう行っちまうのかと思うと、少し寂しいな」
「オーナー、大げさですよ。同じ街にいるんですし、また来ますって。……それにしても、このスープ美味いな。今度レシピ、教えてもらえませんか?」
そんな会話の合間、思い出が蘇る――この宿に初めて訪れた朝、ルークは絡まれていた客を助けた。その時、騒ぎを鎮めたことで一躍有名になり、気に入られたのだった。
「ところで、お前……学園に入ったら、長期休暇以外は外に出られねぇって知ってたか?」
その言葉に、ルークの手が止まる。
「……え、学園って牢屋か何かですか?」
「ハハッ、言い方よ。完全寮制ってだけだろ、普通はそんなもんさ」
衝撃の事実にやや不安を覚えながらも、ルークは朝食を食べ終えると席を立つ。
「ごちそうさまでした。それじゃあ、行ってきます!」
「体に気ぃつけてな!」
「いっぱい食べて、元気にがんばるんだよ!」
笑顔で見送ってくれる二人に軽く手を振り、宿を後にする。賑わう街を歩きながら、自然と足が早くなっていく。期待と不安が入り混じった気持ちが、心をそっと揺らしていた。
やがて学園が視界に入り始めると、ちらほらと他の新入生たちの姿も見えてきた。ルークが校門をくぐり、入学式が行われる体育館へ向かおうとしたとき――
「あ、ルークだ! やっほー!」
「久しぶりだな! やっぱ、受かってたか!」
声の主は、二次試験で共に戦ったララとガイだった。二人とも制服姿だ。無事、合格したらしい。
「二人とも合格しててよかった。試験、どうだった?」
「私のとこ? 超簡単だったよ! 海岸で魚100匹捕まえるってタイムアタックで、雷魔法で魚浮かせた人がいてさ、私、それを風魔法で……横取り!」
「……それ、アリなのか?」
身振り手振りを加えながら力説するララにガイが苦笑いを浮かべる。
「ガイは?」
ルークが視線を向けると、ガイがやれやれと肩をすくめた。
「バトルロワイヤルだったよ。10人退場するまでの殺し合い。……この年でやるか、フツー?」
ルークも同意見だった。内容が過激すぎるとはいえ、リアルな戦場を想定した試験なのだろう。
「なるほどな。ま、二人とも”普通の試験”だったわけか」
「……ん? ルーク、お前のは違ったのか?」
ルークは肩をすくめ、少しばかり遠い目で語る。
「俺のとこは、襲撃されてる街の中で”最善の選択”をしろって内容だった。ぶっちゃけ……落ちかけてたと思う」
「はあ!?」
「えっ……」
二人は口を揃えて驚いた。あのルークが落ちかけるなんて――
「他の人が倒せないような魔物の相手ぐらいしかできなかったんだ。魔法はろくに使えないし、指揮官倒した化け物みたいな志願者もいて、そいつと戦闘になったり……まぁ、そいつ落ちたらしいけど」
「……もうツッコミ追いつかないんだけど」
「内容も結果もイレギュラーすぎだろ……」
ツッコミどころ満載だったが、聞き出すとキリがないと察したのか、二人はそれ以上詮索しなかった。
やがて体育館の入口に着くと、教員がパンフレットと座席表、それに手のひらサイズの小型端末を渡してくる。
「おっ、俺とルークは隣の席みたいだ」
「えー!私だけ離れた席? 仲間外れだよ~!」
ララが頬をふくらませて不満げな声を上げるが、ガイは笑って流す。
三人はそれぞれの席へ。やがて照明が落ち、静寂が館内を包み込んだ。
「これより――アストレア学園 入学式を始めます」
壇上に一筋の光が注がれ、そこに立っていたのは、学園長・ヴェルディだった。
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