導星のレガシー ~世界を導く最後の継承者~

烏羽 楓

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第一章 忍び寄る灰の気配

第26話「解き放たれる片鱗」

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「いきますッ!」

 開始の合図と同時に、ミレーナが猛然と斬りかかってきた。

(……鋭い連撃だ。攻撃の繋ぎも良い)

 ルークは紙一重で剣をいなしながら、冷静にミレーナの技量を分析していた。

 威力も申し分ない。咄嗟の判断も悪くない。

 だが、彼女の剣には――雑念が混じっていた。

(……怒りか)

 なぜそこまでルークに敵意を向けるのかは分からない。しかし、その感情は剣筋に如実に表れていた。

(勿体ない……)

 せっかくの技術が、澱んだ心で鈍っている。

 ――興醒めだった。

 ルークはわざと隙を作り、ミレーナの剣を受けて転倒する。

 安全装置が作動し、痛みは最小限に抑えられたが、鈍い衝撃はしっかり伝わった。

「もう一度ッ!」

 負けたことで満足するかと思いきや、ミレーナは再戦を要求してきた。

(……マジかよ)

 仕方なく立ち上がり、再び形だけの戦闘。
 
 また負ける。――だが、終わらない。

 三度、四度。
 
 同じ茶番を繰り返すうちに、ミレーナの怒りは頂点に達した。

「それでもエイネシア様の弟子ですかッ! 本気でやりなさいッ!」

「……は? 師匠は関係ねぇだろ」

 眉間にしわを寄せ、不機嫌そうに応じるルーク。

 だが、ミレーナは止まらなかった。

「こんなセンスのかけらもない雑魚を弟子にするなんて、英雄と呼ばれていても見る目は凡人以下ってことですわね!」

 さらに、吐き捨てるように続けた。

「きっとそうですわ。じゃなければ――あなたみたいな“呪われた者”を、弟子になんて取るはずがありませんもの」

 ――その瞬間。

 体育館に、張り詰めた重圧が走った。

 ロレンス先生が起き上がり、セモルも即座に剣に手をかける。

(……俺が?)

 重苦しい空気の中心にいたのは、ルーク自身だった。

 怒りの表情ひとつ見せないまま、だが、その瞳は確かに、燃えるような怒りを宿している。

 周囲の生徒たちは呼吸を乱し、膝をつき始める中、ミレーナは、その場に立ち尽くし、何かに耐えるように眉を歪めていた。

 ――その瞳に浮かぶ怯えが、ルークには見えた。

 ルークは静かに歩み寄る。

「……いいか」

 眼前に立ち、冷ややかに告げた。

「ここは戦場じゃねぇ。たくさん経験して、自分と向き合って、学びを得る場所だ。――殺し合いがしたいなら、他でやれ」

 ミレーナの震える肩。

 そこへセモルが素早く割り込み、ルークの喉元に剣先を当てた。

 ロレンス先生はミレーナを抱え、距離を取る。

(……俺は)

 さらに怒気が膨れ上がる。

 重圧は極限に達し、もはや多くの生徒が立っていられなかった。

「やめろ、ルーク」

 セモルが低い声で言った。

「これ以上は――看過できねぇ」

 その言葉に、ルークは周囲を見渡す。
 
 皆が苦しそうに顔を歪めている。

(……俺は、また……)

 ゆっくりと息を吐き、怒気を収めた。

 場の空気が、一気に緩む。

 生徒たちが一斉に地面に手をつき、荒い息を吐く。

「……俺は、なんてことを」

 自己嫌悪に押し潰されそうになりながら、ルークは拳を握った。

「確かに、お前はやりすぎた」

 セモルが淡々と告げた。

「だが、ミレーナ嬢が悪い。蔑称を吐いた以上、校則違反だ。ロレンス先生が指導するだろう。お前は、今日はもう帰れ」

「……はい」

 ルークは深く頭を下げ、体育館を後にした。


 ◆

 
 足取りは重かった。

 ふらふらと歩きながら、校内を彷徨う。

「あー、クソッ……」

 唇を噛み、呻くうめく。そこへ――

「どーん!!」

「うわっ!」

 後ろから飛びついてきた小柄な影。

「ララ!?」

 慌てて体勢を立て直すと、笑顔で飛び跳ねるララがいた。

「あはは、ルーク驚いてる~!」

 その後ろには、呆れ顔のガイも続く。

「……ったく、危ねぇからやめろよ」

「ガイは転んでたもんね~」

「うっせぇ!」

 ふたりの賑やかなやりとりに、ルークの強張っていた顔が、ふっと緩んだ。

 見慣れた仲間たちの顔。その温もりが、どれだけ心を救ってくれるか。

 だが、ガイは鋭かった。

 ルークの表情の奥に、違和感を察知する。
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