導星のレガシー ~世界を導く最後の継承者~

烏羽 楓

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第一章 忍び寄る灰の気配

第30話「戦場に学ぶ者たち」

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 甲高い鳴き声が、洞窟内に響き渡った。

「えっ、なに今の――。 コボルトの鳴き声!?」
「ていうか、いま普通に斬撃飛ばしたよな!? なんでそんな涼しい顔してんだよ、おかしいだろ!」

 慌てて立ち上がるガイとララをよそに、ルークは鞘に剣を納めながら、淡々と振り返る。

「コボルトが一体、壁の影に張り付いてた。こっちの様子を伺ってたから先に斬ったんだよ」

「あっさり言ってるけど、先に言ってくれよ! マジで心臓止まるかと思ったぞ!」

 ガイの叫びにルークが肩をすくめる。

「さっき、索敵について話してたろ? 今のもその一環。緊張状態が長く続くと、感覚が鈍る。それを逆手に取ってくる魔物もいる。だからこそ、大事なのは“緩急”のコントロールなんだ」

「緩急……?」

 ララが息を整えながら呟いた。すぐにガイがツッコミを入れる。

「いやいやいやッ! その緩急って説明する前に、まずあのコボルトだろ! 今の、普通に怖かったぞ!?」

 ルークは笑みを浮かべながら、歩み寄る。

「だから言ったろ。経験しなきゃ分からないこともある。……お前ら、ここに来るまでずっと気を張ってたよな?」

 二人は顔を見合わせ、少しだけ頷く。

「常に気を張ってると疲れるだろ? ……だけど、今みたいに緩んだ瞬間に敵が現れる。だからこそ、自分の状態と周囲の状況を見極めて、オンとオフを使い分けられるようになること。探索では、それが出来るかどうかが生死を分ける」

「つまり……張り詰めすぎてもダメってことか」

「そう。緊張しすぎて判断が鈍るのも、油断して足をすくわれるのも最悪だ。だから“緩めること”もスキルの一つなんだよ」

 二人は黙って頷く。

 教訓として身に染みたのだろう。言葉より体験のほうが遥かに深く刻まれる――それをルークは、あえて仕掛けていた。

「よし、それじゃあ再開するか。あともう少しで奥に出られそうだ」

 ルークの《ソナー》が示す先は、一つの広い空間に続いていた。

 
 ◆

 
 再び歩を進める三人。前を行くのはガイとララ、ルークはあくまで後衛で控える。

「前方、左側の壁の隙間に注意。さっきと似た気配がある」

「お、おう!」

 緊張を保ちつつも、ガイは手慣れた様子で剣を構える。ララは後方から魔法詠唱の準備をしながら周囲を警戒する。

 敵の出現も以前より落ち着いて対処できるようになっており、二人の成長が垣間見えた。

 やがて、微かな風の流れとともに、洞窟の奥からかすかな光が差し込んできた。

「ここ……明らかに雰囲気が違うな」

 ガイが呟き、ララが喉を鳴らす。

「この先……ボス部屋?」

 ルークが頷く。

「ああ。おそらく、このダンジョンの五階層のボス部屋だ。ここを超えれば、転移ゲートが設置されてるはずだから、次からはショートカットできる」

「ボスって……何が出るんだ?」

 不安げに問うガイに、ルークは一呼吸置いて答えた。

「おそらく――キングコボルトだろう」

「キング……コボルト?」

「コボルトの中でも指揮官クラス。見た目は通常の二回り以上大きく、筋骨隆々で、魔法を使う個体もいる。加えて、行動も素早く、単体とはいえ侮れない相手だ」

「まじかよ……」

 ガイが腰を抜かしかけたところで、ララが頬を膨らませる。

「でも、ルークと一緒ならなんとかなるでしょ?」

「なるけど、居なくてもなんとか“する”のが目標だな。今回の目的は、二人に戦いを任せること。俺はあくまで後方支援に徹する」

「ええ~……」

 ガイとララの不満が混じった声に、ルークは苦笑する。

 だが、その表情は柔らかく、どこか信頼も滲んでいた。

「これまでのお前らなら不安だが……今なら、任せてもいいって思えるからな」
 
「……それ、ちょっと嬉しいかも」
 
「ふ、ふん……じゃあ、やってやるよ」

 
 ◆

 
 ボス部屋の扉の前に三人が立つ。

 分厚い岩のような扉には、魔力の封印が施されており、まるでその向こうに“何か”がうごめいているかのような圧を感じる。

「……作戦を決めよう」

 ルークの声で、三人が輪になった。

 短い時間ではあったが、各自の役割と動きの確認、立ち回りのすり合わせを終え、全員が顔を上げる。

「よし、それじゃあ――行こうか」

 ルークが手を伸ばし、扉に触れる。

 空気が震え、音もなく重厚な扉が開き始めた。

 

 ――次なる戦いの、幕が上がる。
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