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第一章 忍び寄る灰の気配
第34話「疑念の檻」
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湿った空気の中、ルークは鉄の扉の部屋に拘束されていた。
場所は学園敷地内にある警備騎士団詰所の地下――簡易尋問室。
椅子と机が一つずつ置かれた質素な部屋。壁には魔法封印術式が施され、魔力の行使はできない。天井の魔石灯が、冷たい白光を投げかけていた。
「ルーク。君に質問がある」
鋭い声で告げたのは、騎士団の尋問担当官だった。中年の男で、無駄のない所作と鋭い眼光が、彼の“慣れ”を示していた。十年以上のキャリアを持つ、学園でも恐れられる尋問官だ。
ルークは拘束具こそされていなかったが、両手を机の上に置き、視線を正面に向けていた。額にはかすかな汗。だが、その目に迷いはなかった。
「君が、ミレーナ・コールソンに《灰核の丸薬》を渡したという証言がある」
「違います。俺じゃない。……俺は、止めに入ったんです」
「しかし、現場にいた者たちは口を揃えて“君とミレーナしかいなかった”と言っている」
ルークは眉をひそめた。思わず手に力が入る。
「……見間違いです。ミレーナと一緒にいた男がいた。フードを被っていて、左腕に刺青が――〈灰の焔〉の印です」
尋問官はルークの目を見たまま、沈黙した。
そして数秒後、静かに言った。
「該当する人物の痕跡は、現場に確認されていない」
「そんなはずは……あの男がミレーナに丸薬を渡したんです。俺は、それを止めようと――」
「その“男”とやらの証拠がない。指紋も、足跡も、魔力反応も」
ルークは言葉を失った。
確かに、自分の目で見た。ミレーナの剣を受け、丸薬を取り出し、そそのかしていたあの男の姿を。
なのに、存在していない?
(消された……? いや、最初から“そうなるように”仕組まれていた?)
「ルーク。君が〈灰の焔〉の構成員である可能性は否定できない。だが、現時点では決定的証拠がない」
「……俺は違う」
「ならば、証明しろ。君が話す“もう一人”の存在を」
ルークは拳を握りしめた。
(見えない敵が、すでに動いている)
その影は、自分だけではなく、ミレーナにも伸びていた。
「……その男の正体を、俺が見つけます」
そう答えたとき、尋問官は初めて、わずかに目を細めた。
「その言葉、信じる理由はないが――見せてもらおうか、君の覚悟を」
尋問は打ち切られ、ルークは部屋から解放された。
地下から地上へ戻る階段を上がるとき、ひんやりとした空気が肺に入り、ようやく現実に戻った気がした。詰所の前には、ララが立っていた。
「……ルーク!」
彼女は駆け寄り、彼の腕を掴んだ。その表情には明確な安堵と、わずかな怯えが浮かんでいた。
「大丈夫だったの……? 」
「……俺はやってない」
「そんなのわかってるよ! 酷いことされなかったかを聞いたの!」
「あ、ああ。それは大丈夫」
ララは安堵するように小さく頷いた。だが、視線はどこか宙を泳いでいる。
「……でも、あの男のこと。どうして、誰も気づかなかったの?」
「わからない。でも、痕跡が残ってない以上……あいつは相当、用意周到だったってことだ」
そう答えながらも、胸の奥に広がるのは、どうしようもない焦燥感。
(誰かが仕組んだ。この事件自体が……俺と、ミレーナを狙った罠だったとしたら)
その時、ふと背後に冷たい視線を感じた。振り返るが、そこには誰もいなかった。ただ、学園の塔が夕焼けに染まっているだけ。
だが確かに、見られていた感覚だけは消えなかった。
この出来事は、ただの偶発ではない。誰かが裏で動いている。そしてその手は、まだ“顔を見せてすらいない”。
(見つけ出す。ミレーナを、守るためにも)
ルークは決意を固め、その瞳には確かな意志を宿していた。
場所は学園敷地内にある警備騎士団詰所の地下――簡易尋問室。
椅子と机が一つずつ置かれた質素な部屋。壁には魔法封印術式が施され、魔力の行使はできない。天井の魔石灯が、冷たい白光を投げかけていた。
「ルーク。君に質問がある」
鋭い声で告げたのは、騎士団の尋問担当官だった。中年の男で、無駄のない所作と鋭い眼光が、彼の“慣れ”を示していた。十年以上のキャリアを持つ、学園でも恐れられる尋問官だ。
ルークは拘束具こそされていなかったが、両手を机の上に置き、視線を正面に向けていた。額にはかすかな汗。だが、その目に迷いはなかった。
「君が、ミレーナ・コールソンに《灰核の丸薬》を渡したという証言がある」
「違います。俺じゃない。……俺は、止めに入ったんです」
「しかし、現場にいた者たちは口を揃えて“君とミレーナしかいなかった”と言っている」
ルークは眉をひそめた。思わず手に力が入る。
「……見間違いです。ミレーナと一緒にいた男がいた。フードを被っていて、左腕に刺青が――〈灰の焔〉の印です」
尋問官はルークの目を見たまま、沈黙した。
そして数秒後、静かに言った。
「該当する人物の痕跡は、現場に確認されていない」
「そんなはずは……あの男がミレーナに丸薬を渡したんです。俺は、それを止めようと――」
「その“男”とやらの証拠がない。指紋も、足跡も、魔力反応も」
ルークは言葉を失った。
確かに、自分の目で見た。ミレーナの剣を受け、丸薬を取り出し、そそのかしていたあの男の姿を。
なのに、存在していない?
(消された……? いや、最初から“そうなるように”仕組まれていた?)
「ルーク。君が〈灰の焔〉の構成員である可能性は否定できない。だが、現時点では決定的証拠がない」
「……俺は違う」
「ならば、証明しろ。君が話す“もう一人”の存在を」
ルークは拳を握りしめた。
(見えない敵が、すでに動いている)
その影は、自分だけではなく、ミレーナにも伸びていた。
「……その男の正体を、俺が見つけます」
そう答えたとき、尋問官は初めて、わずかに目を細めた。
「その言葉、信じる理由はないが――見せてもらおうか、君の覚悟を」
尋問は打ち切られ、ルークは部屋から解放された。
地下から地上へ戻る階段を上がるとき、ひんやりとした空気が肺に入り、ようやく現実に戻った気がした。詰所の前には、ララが立っていた。
「……ルーク!」
彼女は駆け寄り、彼の腕を掴んだ。その表情には明確な安堵と、わずかな怯えが浮かんでいた。
「大丈夫だったの……? 」
「……俺はやってない」
「そんなのわかってるよ! 酷いことされなかったかを聞いたの!」
「あ、ああ。それは大丈夫」
ララは安堵するように小さく頷いた。だが、視線はどこか宙を泳いでいる。
「……でも、あの男のこと。どうして、誰も気づかなかったの?」
「わからない。でも、痕跡が残ってない以上……あいつは相当、用意周到だったってことだ」
そう答えながらも、胸の奥に広がるのは、どうしようもない焦燥感。
(誰かが仕組んだ。この事件自体が……俺と、ミレーナを狙った罠だったとしたら)
その時、ふと背後に冷たい視線を感じた。振り返るが、そこには誰もいなかった。ただ、学園の塔が夕焼けに染まっているだけ。
だが確かに、見られていた感覚だけは消えなかった。
この出来事は、ただの偶発ではない。誰かが裏で動いている。そしてその手は、まだ“顔を見せてすらいない”。
(見つけ出す。ミレーナを、守るためにも)
ルークは決意を固め、その瞳には確かな意志を宿していた。
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