トンネルを抜けると、そこはあやかしの駅でした。

アラ・ドーモ

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ほたる咲く丘

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 抜け出ようとすればどっからでも出られる。駅のホームには柵なんてないし、すぐ隣は道路だ。
 だけどそんなことしてしまっては駅員のプライドにかかわるわけで。それにICカードが入場記録のままになってしまうから、これ以降出場するか解除でもしない限りずっと使えなくなってしまう。

 無人駅みたいなタッチ専用のスタンドとかあるのかなと思ってあちこち見まわしてはみたものの、それすらない。
 誰かに聞いてみようと思って周りを見てみたものの、やっぱり誰もいない。

「どうしよう……」思わず口から焦りが漏れ出てしまった。

 となると、もう駅事務所へ行くしかない。

 じゃなかった、普通に考えてみて、自分は今日からここの駅員としてきたというのに、なんでまず事務所を探さないんだ、と。

 そうだ、僕はお客さんじゃなくって社員なんだしな。冷静に、冷静に……
 
深呼吸すると、ホームの先端にちょっと奥まった場所を発見。木々に囲まれてちょっと見えにくかったけど、そこに古びた小屋みたいな建物を発見した。

 近寄ってみると、やっぱり年季を感じる。結構屋根が高い、白い壁の木造の駅舎だった。
 中に入ると、図書館のような古い匂いが鼻をくすぐる。うん、好きだこの匂い。
 そして、左側にはガラス窓。なるほど、窓口と改札が一緒なのか。

 開かれた窓からは涼しい風が吹いている、今日ちょっと暑いから、クーラー点けてるのかな……なんて思いながら、僕は誰も見えない窓口に向かって声をかけた。

「すいません……」

……だが、一向にだれか来る気配はない。それどころか人のいる気配すら、ない。

 窓口から中をのぞいてみると、結構小さな部屋だってことがわかる。

 正面にある乗車券発売用の机と、奥の方には……事務用だろうか、古びた事務用の机が向かい合わせに置いてある。
 さらにその奥にはドアがあって、そこが駅長室なのかな。
 とはいうものの、職員が誰もいないっていうのもなぁ。それに窓口にはパソコンの類が一切存在しない。
 つまりは……この駅はまだ切符は手売りで行っているということになる。

そこから導き出される答えは……

「この会社はIC未対応ってこと⁉ それってちょっと……」うん、ますますヤバい。

「すいませーん! 駅の方誰かいませんか⁉」僕は事務所の中に向かってもう一度声をあげた。
 だってそうじゃないか、よくある郊外の無人駅と違ってきちんとした駅舎があるんだし。だけど窓は開けっぱなし。泥棒でも来たら一体どうするんだ。

 それに電車到着したというのにこのありさまだし、もしかしたら駅の人は近くのコンビニで買い物でもしているのか、もしくは居眠りでもしてるのかと疑ってしまう。職務怠慢だしそれ!

「……んがぁ」

 ふと、窓口の真下から、いびきに似た声が聞こえた。
 窓の下には切符の受け取り用のテーブルが張り出していて見えにくかった。よく見るとそこが死角になっている。
 ギリギリ見えるか見えないかってところから、んごお とか ぷしゅー って声が聞こえるんだ。

 ああなるほどね、居眠り、ね……
 背伸びをして窓口の真下をのぞくと、やっぱり……
 寝てた。駅の人が。

 年齢からして僕よりもうちょっと上、いかにも「駅員のお兄さん」って感じのちょっと線の細い顔立ちをしている。
 そして栗色の髪の毛……染めているんだろうか? まあそれはいいとして、問題は……
 結構、髪が長いことだ。

 まるで女性みたいに肩まで伸ばしたストレートの髪。前の職場……いや、普通に考えてもこれはアウトだ。社内規定ですぐに短くしろって言われるぞこれ。
 そんなロン毛のお兄さんが延々眠っている。うん、ツーアウト。副駅長に呼び出し食らって大目玉コース確定。
 かと言ってこんな田舎の駅じゃそんな規則通じるわけでもないだろうし、僕だってそんなこと報告も叱りもしたくないし。新入社員なんだから。

「あの……先輩。いいかげん起きてきてもらえますか」
 僕はもう一度ロン毛の先輩に向かって声をかけた。

「……んあ?」おおよそイケメンらしからぬ寝ぼけた声で、ロン毛先輩はようやく目覚めてくれたようだ。

「えっと、初めまして、ぼく今日からこの駅に……」
「どわあああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 僕の姿を見るなり、突然ロン毛先輩は椅子を蹴倒して大きく飛びのいた!
 え? え?いったい何なの⁉なんでそんなに驚いているの?

「だ、誰だおめえ……?」

 誰だ……って、お客であり社員なんだけど……

 どういうことなの⁉
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