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第27話 泣いているのは誰
「リオナ、お願いだ! 話を聞いてくれ!」
アルベルトの叫び声が、冷たい風が吹く監査院の門前に響き渡った。
彼は鉄柵に顔を押し付け、必死に私に手を伸ばしている。
「僕が悪かった! 君のありがたみが、いなくなって初めて分かったんだ! 君がいないと、僕は……僕たちは、もうおしまいだ!」
ボロボロと流れる涙が、彼の汚れた頬に筋を作っている。
かつて「君は強いから大丈夫だろ」と私を放置し、平然と笑っていた男が、今や誰の目も気にせず、子供のように泣きじゃくっていた。
私は感情の動かない冷え切った目で、その姿を見下ろした。
「……お久しぶりです、アルベルト様」
私の平坦な声に、彼はすがるような目を向けた。
「戻ってきてくれるね!? 監査院に、あれは誤解だったと言ってくれ! 君がもう一度台帳を管理してくれれば、きっとやり直せるはずだ!」
彼はまだ、そんな妄想に縋っているのか。
公文書として不正が公開された今、私が何を言おうと覆るものではない。
それに、彼が求めているのは私という人間ではない。彼の崩れゆく生活を支えるための、便利な道具としての私だ。
「……お気持ちは受け取りました。ですが、私の答えは変わりません」
私は静かに、しかしはっきりとした拒絶の言葉を口にした。
「私は監査院の補助官として、手続きの場に出向いただけです。あなたとお話しすることは、もう何もありません。……それでは、公開監査の法廷で」
私が背を向けて歩き出そうとした、その時だった。
「待って! リオナ様!」
アルベルトの背後から、淡い色のボロボロのドレスを着たミレーヌがよろけながら現れた。
彼女はアルベルトの腕にしがみつき、私に向けて大きな瞳から涙を溢れさせた。
「私がいけなかったんです! 私がアルベルト様に甘えて、リオナ様を悲しませてしまったから……! 私、どうなってもいいです! だから、どうかアルベルト様だけは許してあげて!」
ミレーヌの泣き声が、周囲の通行人たちの足を止めさせた。
彼女は自分の身を挺して愛する人を庇う、悲劇のヒロインを完璧に演じていた。
「私が悪いんです……私さえいなければ……っ」
「ミレーヌ……君はなんて優しいんだ……!」
アルベルトが彼女の肩を抱き寄せ、二人はその場で涙を流し合う。
遠巻きに見ている通行人たちの中に、「あの令嬢も、反省しているみたいだ」「少し気の毒だな」という空気が生まれ始めた。
これが彼女の最後の武器。
涙と罪悪感を利用して同情を誘い、世論を味方につける『可哀想な女』の戦術。
「……本当に、反省しているとでも?」
私が冷たい声で問いかけようとした瞬間、監査院の門の内側から、重々しい足音が近づいてきた。
アルベルトの叫び声が、冷たい風が吹く監査院の門前に響き渡った。
彼は鉄柵に顔を押し付け、必死に私に手を伸ばしている。
「僕が悪かった! 君のありがたみが、いなくなって初めて分かったんだ! 君がいないと、僕は……僕たちは、もうおしまいだ!」
ボロボロと流れる涙が、彼の汚れた頬に筋を作っている。
かつて「君は強いから大丈夫だろ」と私を放置し、平然と笑っていた男が、今や誰の目も気にせず、子供のように泣きじゃくっていた。
私は感情の動かない冷え切った目で、その姿を見下ろした。
「……お久しぶりです、アルベルト様」
私の平坦な声に、彼はすがるような目を向けた。
「戻ってきてくれるね!? 監査院に、あれは誤解だったと言ってくれ! 君がもう一度台帳を管理してくれれば、きっとやり直せるはずだ!」
彼はまだ、そんな妄想に縋っているのか。
公文書として不正が公開された今、私が何を言おうと覆るものではない。
それに、彼が求めているのは私という人間ではない。彼の崩れゆく生活を支えるための、便利な道具としての私だ。
「……お気持ちは受け取りました。ですが、私の答えは変わりません」
私は静かに、しかしはっきりとした拒絶の言葉を口にした。
「私は監査院の補助官として、手続きの場に出向いただけです。あなたとお話しすることは、もう何もありません。……それでは、公開監査の法廷で」
私が背を向けて歩き出そうとした、その時だった。
「待って! リオナ様!」
アルベルトの背後から、淡い色のボロボロのドレスを着たミレーヌがよろけながら現れた。
彼女はアルベルトの腕にしがみつき、私に向けて大きな瞳から涙を溢れさせた。
「私がいけなかったんです! 私がアルベルト様に甘えて、リオナ様を悲しませてしまったから……! 私、どうなってもいいです! だから、どうかアルベルト様だけは許してあげて!」
ミレーヌの泣き声が、周囲の通行人たちの足を止めさせた。
彼女は自分の身を挺して愛する人を庇う、悲劇のヒロインを完璧に演じていた。
「私が悪いんです……私さえいなければ……っ」
「ミレーヌ……君はなんて優しいんだ……!」
アルベルトが彼女の肩を抱き寄せ、二人はその場で涙を流し合う。
遠巻きに見ている通行人たちの中に、「あの令嬢も、反省しているみたいだ」「少し気の毒だな」という空気が生まれ始めた。
これが彼女の最後の武器。
涙と罪悪感を利用して同情を誘い、世論を味方につける『可哀想な女』の戦術。
「……本当に、反省しているとでも?」
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