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第28話 可哀想の正体
「……哀れな子羊たちよ。神は、悔い改める者にこそ救いの手を差し伸べられます」
厳かな、しかしどこか芝居がかった声。
門の奥から現れたのは、純白に銀糸の刺繍が施された修道服を纏う女――マグダ修道院長だった。
彼女の背後には、教会の護衛騎士たちがずらりと並んでいる。
「修道院長様……!」
ミレーヌが顔を上げ、すがるような声を出す。
「見なさい、この痛ましい姿を。彼らは自らの罪に気づき、涙を流して許しを乞うているではありませんか」
マグダは私を見下ろし、冷笑を浮かべながら言った。
「監査院の冷酷な役人よ。数字や規程だけで人を裁くのが、王国の正義なのですか? 彼らにも事情があったはず。神の代理人として、私はこの裁判に教会の慈悲を求めます」
マグダの言葉に、アルベルトとミレーヌの顔にパッと希望の光が差した。
彼女は王家の親族にも連なる高位の修道院長。彼女が「王命」や「教会の権威」を盾に介入すれば、監査院とて無下にはできない。
「リオナ補助官。彼女は、王都の教会本部から正式な意見陳述人として召喚されたそうだ」
背後に立っていたレオンハルトが、私にだけ聞こえる低い声で囁いた。
クラウゼ領の横領資金と、白夜回廊の修道院の裏金。
その二つが繋がっていることを隠蔽するため、マグダは彼らを庇い、私を「強権的で冷酷な役人」として仕立て上げようとしているのだ。
「……慈悲、ですか」
私はマグダの挑発に乗らず、極めて平坦な声で返した。
「お気持ちは理解いたします。しかし、白夜回廊の修道院における『孤児の強制労働』と『不明朗な王都への送金記録』についても、同じように慈悲の心で説明していただけるのでしょうか」
私の言葉に、マグダの顔から一瞬にして余裕が消え去った。
「なっ……! ここでその話は関係ないでしょう!」
「関係はあります。なぜなら、クラウゼ領から消えた資金と、あなたの修道院の隠し口座の送金先が、完全に一致しているからです」
私は持っていた鞄の中から、分厚い書類の束を取り出した。
「私は感情で反論はいたしません。すべては、明日の公開監査の場で、この『会計開示の矛盾』とともに証明させていただきます」
マグダの顔が怒りで赤黒く染まり、彼女はギリッと歯ぎしりをした。
「……生意気な小娘が。教会の権威を敵に回して、無事で済むと思っているのですか」
マグダの低い脅し声が響く。
「敵を増やすぞ」
レオンハルトが私の隣に立ち、マグダを鋭い銀の瞳で射抜いた。
その圧倒的な威圧感に、マグダと護衛騎士たちは思わず一歩後ずさった。
「彼女は監査院の重要証人だ。手出しは許さない」
レオンハルトの言葉に、私は小さく息を吐いた。
点が線になり、すべての証拠の鎖が一つに繋がろうとしている。
あとは、彼らの言い逃れができない場所で、その鎖を公開するだけだ。
いよいよ明日。
静かな断罪の幕が上がる。
厳かな、しかしどこか芝居がかった声。
門の奥から現れたのは、純白に銀糸の刺繍が施された修道服を纏う女――マグダ修道院長だった。
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「修道院長様……!」
ミレーヌが顔を上げ、すがるような声を出す。
「見なさい、この痛ましい姿を。彼らは自らの罪に気づき、涙を流して許しを乞うているではありませんか」
マグダは私を見下ろし、冷笑を浮かべながら言った。
「監査院の冷酷な役人よ。数字や規程だけで人を裁くのが、王国の正義なのですか? 彼らにも事情があったはず。神の代理人として、私はこの裁判に教会の慈悲を求めます」
マグダの言葉に、アルベルトとミレーヌの顔にパッと希望の光が差した。
彼女は王家の親族にも連なる高位の修道院長。彼女が「王命」や「教会の権威」を盾に介入すれば、監査院とて無下にはできない。
「リオナ補助官。彼女は、王都の教会本部から正式な意見陳述人として召喚されたそうだ」
背後に立っていたレオンハルトが、私にだけ聞こえる低い声で囁いた。
クラウゼ領の横領資金と、白夜回廊の修道院の裏金。
その二つが繋がっていることを隠蔽するため、マグダは彼らを庇い、私を「強権的で冷酷な役人」として仕立て上げようとしているのだ。
「……慈悲、ですか」
私はマグダの挑発に乗らず、極めて平坦な声で返した。
「お気持ちは理解いたします。しかし、白夜回廊の修道院における『孤児の強制労働』と『不明朗な王都への送金記録』についても、同じように慈悲の心で説明していただけるのでしょうか」
私の言葉に、マグダの顔から一瞬にして余裕が消え去った。
「なっ……! ここでその話は関係ないでしょう!」
「関係はあります。なぜなら、クラウゼ領から消えた資金と、あなたの修道院の隠し口座の送金先が、完全に一致しているからです」
私は持っていた鞄の中から、分厚い書類の束を取り出した。
「私は感情で反論はいたしません。すべては、明日の公開監査の場で、この『会計開示の矛盾』とともに証明させていただきます」
マグダの顔が怒りで赤黒く染まり、彼女はギリッと歯ぎしりをした。
「……生意気な小娘が。教会の権威を敵に回して、無事で済むと思っているのですか」
マグダの低い脅し声が響く。
「敵を増やすぞ」
レオンハルトが私の隣に立ち、マグダを鋭い銀の瞳で射抜いた。
その圧倒的な威圧感に、マグダと護衛騎士たちは思わず一歩後ずさった。
「彼女は監査院の重要証人だ。手出しは許さない」
レオンハルトの言葉に、私は小さく息を吐いた。
点が線になり、すべての証拠の鎖が一つに繋がろうとしている。
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いよいよ明日。
静かな断罪の幕が上がる。
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