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第31話 公開監査、開廷
翌朝。王立監査院の大講堂は、異様な熱気と静寂に包まれていた。
すり鉢状になった巨大な円形の部屋。
周囲の観覧席には、有力な貴族たち、大商会の代表、そして教会の高位聖職者たちがひしめき合っている。
中央に設けられた一段低いフロアには、青ざめた顔のクラウゼ侯爵とアルベルト、そして純白の修道服に身を包んだマグダ修道院長が立っていた。
そのすぐ後ろには、怯えた小動物のようにアルベルトの袖を握りしめるミレーヌの姿もある。
「これより、クラウゼ侯爵家および関連組織に対する、公開監査を開廷する」
監査院長である白髪の老人が、重々しい声で宣言した。
ガーン、と銅鑼の音が響き渡り、法廷の空気が一気に張り詰める。
「まず、クラウゼ侯爵。第参倉庫における小麦の横領と、裏帳簿の存在についてだが……」
「わ、私は何も知らん!」
監査官の追及に、侯爵は声をひっくり返して叫んだ。
「すべては家令のバルドが勝手にやったことだ! 私は領主として署名をしただけで、実務には関わっていない!」
見苦しい責任逃れに、観覧席から失笑が漏れる。
「なら、なぜその裏金が、教会の隠し口座に流れているのですか?」
監査官が問うと、今度はマグダが一歩前に出た。
「お言葉ですが、それは神への純粋な『寄付』です。出処がどこであれ、教会は迷える子羊からの捧げ物を拒みはいたしません。それを犯罪の証拠だと言うのは、神への冒涜に他なりません」
マグダは胸で十字を切り、堂々と言い放った。
教会の権威を盾にしたその言葉に、観覧席の聖職者たちが同調して頷く。
「それに……」
不意に、ミレーヌがアルベルトの背後から進み出た。
彼女の大きな瞳には涙が浮かび、声は痛ましいほどに震えている。
「アルベルト様も、お義父様も、何も悪くないんです! もし領地の経営がおかしくなっていたのだとしたら……それは、ずっと台帳を管理していたリオナ様が、わざと間違った数字を書き込んでいたからではないでしょうか!?」
ミレーヌの言葉に、会場がどよめいた。
彼女は自分の罪をすべて私になすりつけ、悲劇のヒロインとして振る舞おうとしているのだ。
「私、リオナ様がいなくなる直前に見ました。彼女が冷たい目をして、台帳になにか怪しい細工をしているのを……! 彼女は、私への嫉妬から、クラウゼ家を罠に嵌めたんです!」
ポロポロと涙を流す彼女の姿に、「なんて恐ろしい令嬢だ」「やはりあの女が黒幕か」という囁きが広がり始める。
「……静粛に」
そのどよめきを切り裂くように、大講堂の重い扉が開いた。
私は漆黒の外套を纏ったレオンハルト卿を背後に従え、ゆっくりと中央フロアへと歩みを進めた。
すべての視線が、私に突き刺さる。
「リオナ……!」
アルベルトが弾かれたように私の名前を呼んだ。
私は彼らに一瞥もくれず、証言台の前に立った。
そして、係官が運んできた『焼け焦げて黒い染みだらけになった魔導台帳』に、静かに手を置いた。
「……それでは、証拠の提示を始めます」
私の声が、水を打ったように静まり返った法廷に、冷たく響き渡った。
すり鉢状になった巨大な円形の部屋。
周囲の観覧席には、有力な貴族たち、大商会の代表、そして教会の高位聖職者たちがひしめき合っている。
中央に設けられた一段低いフロアには、青ざめた顔のクラウゼ侯爵とアルベルト、そして純白の修道服に身を包んだマグダ修道院長が立っていた。
そのすぐ後ろには、怯えた小動物のようにアルベルトの袖を握りしめるミレーヌの姿もある。
「これより、クラウゼ侯爵家および関連組織に対する、公開監査を開廷する」
監査院長である白髪の老人が、重々しい声で宣言した。
ガーン、と銅鑼の音が響き渡り、法廷の空気が一気に張り詰める。
「まず、クラウゼ侯爵。第参倉庫における小麦の横領と、裏帳簿の存在についてだが……」
「わ、私は何も知らん!」
監査官の追及に、侯爵は声をひっくり返して叫んだ。
「すべては家令のバルドが勝手にやったことだ! 私は領主として署名をしただけで、実務には関わっていない!」
見苦しい責任逃れに、観覧席から失笑が漏れる。
「なら、なぜその裏金が、教会の隠し口座に流れているのですか?」
監査官が問うと、今度はマグダが一歩前に出た。
「お言葉ですが、それは神への純粋な『寄付』です。出処がどこであれ、教会は迷える子羊からの捧げ物を拒みはいたしません。それを犯罪の証拠だと言うのは、神への冒涜に他なりません」
マグダは胸で十字を切り、堂々と言い放った。
教会の権威を盾にしたその言葉に、観覧席の聖職者たちが同調して頷く。
「それに……」
不意に、ミレーヌがアルベルトの背後から進み出た。
彼女の大きな瞳には涙が浮かび、声は痛ましいほどに震えている。
「アルベルト様も、お義父様も、何も悪くないんです! もし領地の経営がおかしくなっていたのだとしたら……それは、ずっと台帳を管理していたリオナ様が、わざと間違った数字を書き込んでいたからではないでしょうか!?」
ミレーヌの言葉に、会場がどよめいた。
彼女は自分の罪をすべて私になすりつけ、悲劇のヒロインとして振る舞おうとしているのだ。
「私、リオナ様がいなくなる直前に見ました。彼女が冷たい目をして、台帳になにか怪しい細工をしているのを……! 彼女は、私への嫉妬から、クラウゼ家を罠に嵌めたんです!」
ポロポロと涙を流す彼女の姿に、「なんて恐ろしい令嬢だ」「やはりあの女が黒幕か」という囁きが広がり始める。
「……静粛に」
そのどよめきを切り裂くように、大講堂の重い扉が開いた。
私は漆黒の外套を纏ったレオンハルト卿を背後に従え、ゆっくりと中央フロアへと歩みを進めた。
すべての視線が、私に突き刺さる。
「リオナ……!」
アルベルトが弾かれたように私の名前を呼んだ。
私は彼らに一瞥もくれず、証言台の前に立った。
そして、係官が運んできた『焼け焦げて黒い染みだらけになった魔導台帳』に、静かに手を置いた。
「……それでは、証拠の提示を始めます」
私の声が、水を打ったように静まり返った法廷に、冷たく響き渡った。
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